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中二病同好会 1

8月13日(水)

 今日はお盆入り、ご先祖様をお迎えに行く日だ。仏壇にはキュウリと爪楊枝で作った馬が飾られている。昨日、俺が作った物だ。

 家の裏には狭いながらも畑がある。そこに毎年キュウリやナスを栽培している。そのキュウリを使って作った。

 スーパーで売っているキュウリだと真っ直ぐに育った物しかないので、馬にならない。緑の真っ直ぐなキュウリに爪楊枝で足を作っても、ワニかトカゲにしか見えない。裏の畑で採れるキュウリは程よく曲がっているので、馬になるのだ。

 そして結城家は朝から家族全員でお墓参り。


「おはよう。ワッサン」

 後ろから声を掛けられ、振り向くと久保光(くぼひかる)がいた。彼も家族でお墓参りのようだ。引田地区には、ここにしか墓地がないのでこの時期住民みんなが集まることになる。

 彼はドラえもんで言うところの出木杉君である。勉強もスポーツもできる完璧な優等生。出木杉君がいるのであれば静香ちゃんもいるのでは。

 もちろんいます。

「おはよう。ワッサン」

 (あかね)玲子(れいこ)です。クラス1の美人です。静香ちゃんと違い、バイオリンは習っていないかもしれません。少し勝気な美少女です

「おはよう。二人とも久しぶり」

 俺たちはお互い夏休み入ってから、初めて顔を合わせたので近状報告など話が弾む。

「ワッサン真っ黒だな」

「ああミツルと毎日海で遊んでいるからな」

「そうかしら、少し前徳島イオンで見かけたよ」

「なんだ、それなら声を掛けてくれれば良かったのに」

「掛けられえるわけないでしょ。ワッサンがエミに口紅を買って上げているところだったのよ。そんなとき声を掛けたら、エミに殺されるわ」

「そうか、気を使わせたな。でもあれは、口紅を選んであげていただけだよ」

「そうかしら、店員さんに値段を告げられ青くなっていたような」

「あはは、そんなに近くにいたのか、全然気が付かなかったよ」

「そう言えば僕もワッサンたちを高松の街中で見たよ。仲良く食べ歩きしていたよね。声をかけなかった理由は玲子と同じだよ。エミちゃんは怖いからな」

 お前たちはパパラッチ?ゴシップ記者なのか?

 俺は動揺する心を抑え、話を逸らす。

「それで光は高松で何をしていたんだ」

「僕は野球の練習試合があって、その帰り。折角高松まで来たのでみんなで街をぶらぶらしていただけだよ」

「えっ、みんなで・・・」

 再度心臓が跳ねる。

 いや、良いんだ。別に隠しておくことではない。近所の幼馴染と買い物をしていただけだ。狼狽える場面ではない。

 しかし、気になる事がある。二人が共通の認識をしているワード「エミが怖い」これはあれか?

 ドラえもんで例えるならエミはジャイアン。そしてそのジャイアンに振り回されている俺はのび太なのか。俺はのび太ではない。俺はスネ夫だ。ちがう俺は・・・なんでもいいや。

 それよりも、この二人は俺とエミの関係について誤解があるようだ。言いふらされても面倒だからきちっと否定しておかなければならない。

「二人とも俺とエミの事について変な期待を持っているようだが何もないからな」

 少しだけ怒気を込めて話す。

「ワッサンの日に焼けた真っ黒の顔がどす黒い顔色に変わっている。これは魔族が正体を現す前兆」

 俺の怒気などどこ吹く風のように玲子が話すと、光が間髪を入れずに問う。

「玲子、もしかして、中二病?」

「あれ、わかっちゃた?これ楽しいよ」

 光はポーズをとりながら名乗りを上げる。

「知っているよ。我が名は光、ショーウトを守りし者してクラス随一の学級委員。どう?」

「何それ、まんまじゃない。私ならこうよ。我が名は玲子、サキュバスにして美を極めし者、美を欲する者は我に従え。どう少しエロかった?」

「いい、とてもいい」

 光は目を輝かせて玲子を褒めている。

 世間では後ろ指さされる中二病も彼らにかかればトレンドの一つなのだろ。

 何の後ろめたさもない。

 そして近い未来彼らは確実にリヤ充の道を歩んで行き、中二病だった頃のことなど忘れてしまうのだろう。

 許せない、ミツルに謝れ。これからもずーと、ずーと、この病気を引きずって行くだろうミツルに謝れ。

 目頭が熱くなる。

 ・・・


 大変失礼な事を妄想していた。ミツルに謝らなければいけないのは寧ろ俺だろう。

「ねえ、ワッサンはどうなのよ?中二病やってみる?」

 俺は少し間を開けるとポーズをとりながら言い放つ。

「ふっ、何を言っている。我こそが隠れ中二病の真打なり、我が名は和三郎、ネクロマンサーにして死霊を操る者、そしてエミに使役される者だ」

「あはは、面白い!最高!エミに使役されるって、辛みが利いている。分かった光?名乗りはこうでなければ」

「流石だ、ワッサン。今思い付いたのだが、3人で中二病同好会を作ろうと思う。どうだろう?もちろん会長はワッサンだ」

「あまり名誉な役職じゃないな。むしろ罰ゲームだ。会長なら勉強、スポーツともに完璧で学級委員もやっている光がいいだろう」

「いやいや、ワッサンこそ相応しい。何しろ隠れ中二病の真打なのだから」

 光は食い下がる。

「いやいや、俺はあくまででも隠れ、隠れ中二病だから。正統派の中二病である光こそ相応しい」

 俺たちの醜い小競り合いを見ていた玲子は少しイラっとして俺たちに告げる。

「二人とも何をなすり合いしているの。私が会長を務めてあげる。君たちは私に従いなさい」

「はっ!マイロード」

「御意!仰せのままに」


 のりで入会してしまったが、あまり良い未来が見えない。少し早まったかもしれないと考えていると、我が結城家の墓の方から声がかかる。

「和三郎、帰るぞ」

「兄が呼んでいる。どうやら帰るようだ。時間がないラインを交換しよう」

 俺は手早くラインで3人のグループを作成した。

「玲子会長、光、連絡待っている。またな」

「ああ、またな」

「ワッサン、連絡するよ。またね」


 光たちと別れて帰り道、早速携帯がブーンと震える。玲子からだ。

「達する。本日午後3時、ワッサン()に集合」

 何これ。俺の家に集合?聞いてないよ。玲子はこんなキャラだったけ。

 ブーン。また携帯が震える。光だ。

「イエス、マイロード」

 ・・・・ 光もこんなキャラだったけ。

ふー 仕方がない。俺も返事することにした。

「御意」

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