自由研究はAIまかせ
7月31日(木)
今日は自由研究の担当別発表会だ。場所は前回と同様、俺の部屋だ。メンバーも俺とミツルにエミで変化なし。
一つのノートパソコンの正面に俺が座り、右にミツル、左にエミが座る。
「それでは始めるか。ミツルの担当はイワシの生息分布だったな」
「これに入れてきた。開いてみてくれ」
ミツルから渡されたUSBをパソコンに突っ込みファイルを開くと世界地図に記入されたイワシの分布図と世界の国別港別に水揚げされたイワシの種類とその水揚げ量が表になって書かれている。
「おー随分詳しく調べたのだな。見栄えも良くて分かりやすい」
「どうだい。すごいだろ。これくらいネットのAIでチョチョイのチョイだったよ」
「次はエミが調べた物を見ようか」
「私のもUSBに入れて来たわ」
エミから受けっとったUSBも同様に開いてみる。
イワシ料理とそのルーツが国別に表示されている。これも非常に詳しく調べられている。
「凄いな、この短時間でよくできたな」
「私もAIよ。田中さんがAIと話しながらまとめてくれたの。もちろん私も田中さんに細かい指示をしたわよ」
「なるほど、どちらもAIが作成したのか、凄いはずだ」
「違うわ、田中さんとAIを利用して私が作った物よ」
「そうだ。俺のも、俺が作った物だ」
「・・・うーん、そうかな。・・・それで二つの関連性についてだが、イワシと言っても世界中のイワシは何種類もある。日本だけでも代表的な物に限って3種類、地中海には地中海のアフリカにはアフリカのイワシが生息しており同じものではない事が解った。それとイワシ料理のレシピについては、グローバル化が進んで世界各地のご当地料理名はあるが、別の国で別の食べ物に変化している・・・」
俺がペラペラとしゃべっていると、階段下、玄関から「ピンーポーン」とチャイムが鳴る。
「ごめん下さい。井筒です」
「あ、田中さんの声だ。そうだった、お昼の時間に届けてもらうようお願いしていた」
俺とエミは階段をトコトコ降りて玄関に行くと、田中さんが大きなバスケットを持って立っていた。
「お嬢様、お届けに参りました」
「ありがとう。田中さん」
田中さんは会釈をすると、そのまま帰ってしまった。
結構重たそうなバスケットなのでエミの手から取り上げ、俺が部屋まで運んだ。バスケットの網目から美味しそうな香りが漂ってくる。
これはランチだな。田中さんが作ってくれたのかな。
エミは部屋に入ると、バスケットから取り出した料理を小さめのちゃぶ台の上に並べていく。
「折角、世界のイワシ料理を調査したので、実際に作ってみました。どうぞ召し上がれ」
胸をはったエミが「どうよ」と言いそうな顔をして、俺たちを見下ろす。
三人分の料理が並べられているが、ミツルとエミの料理に比べ、俺の前にある料理は、少し、いや明らかに見栄えが悪い。
「なぜか、ミツルとエミの料理と比べて俺のは少し違うように見えるのだが」
エミが少し恥ずかしそうな素振りをする。
「ミツル君と私のは田中さんが作った物で、ワーちゃんのは私が作ったの」
えっ、何それ、罰ゲーム?俺も田中さんの作った料理がいい。
ミツルは俺を羨ましそうに見ている。
ここは大人の対応をするしかない。
「エミ、ありがとう。いただきます」
恐る恐る、イワシの身を少しだけ箸にとり、口に運ぶ。
あれ、これ美味しい。
「おいしいよ。エミは、料理も上手だね」
「やだ。ワーちゃんたら、私が美味しいなんてエッチ」
何言ってんの、この女。「おいしいよ。エミは」だけなら、そうかもしれないが、続きがあったでしょう。
「ワッサン、下品だ」
何言ってんの、こいつも。それに目が真剣だ。危ないだろその目。
ここは、危険回避が優先だ。
「ミツルも食べてみろ。凄く美味しいぞ」
俺は素早く自分の皿からミツルの皿にイワシを乗せてやった。
ミツルの顔が一瞬輝いた。だが彼は皿を持ち上げ、エミと俺から皿を隠すように体を背ける。
「誰も盗らないから、ゆっくり味見してみろ」
ミツルは恥ずかしそうに皿をテーブルに戻した。
「あはは、野網家の三男坊に生まれると、つい大事な物は隠してしまう癖が出る」
俺たちがミツルの言い訳に笑っていたその時。
俺ん家のネコがミツルの皿からイワシを咥えて逃げていった。
「「「あっ!」」」
あっという間の出来事だった。
「ワッサンの嘘つき!誰も盗らないと言ったのに。まさかあのネコはワッサンの使い魔か」
ミツルは目に涙を溜めて俺を睨む。
「そんな事はない。あのネコは佐助と言うんだ。俺以外からエサをもらうなんて初めてだ。ミツルに懐いたようだな。可愛いだろ」
咄嗟に言い訳したが、良くなかった。
「どこがじゃ!」
ミツルは本気で怒っているようだ。でもエミは楽しそうだ。
「ワーちゃんの料理なくなったので、私のを半分あげる」
エミの皿から俺の皿にイワシが移動する。
「エミちゃん、俺のもネコに盗られてないのだけど」
「ミツル君は佐助と分け合って食べるのでしょ。折角、私がワーちゃんに作った料理をネコに上げるなんて、ミツル君には二度と作ってあげない」
ミツルには一度も作った事がないのに、二度目はないと言い切る。
やっていないことを恩に着せる。流石、井筒家の娘だ。
イワシ料理の試食会は佐助の乱入により、あえなく終了した。自由研究も俺が最後をまとめて仕上げた。
俺たち三人は解散した。
エミの最後の言葉が、ミツルの心を粉々にしたのは言うまでもない。
家路につくミツルの後ろ姿は町を彷徨うゾンビの様だった。
俺は冥福を祈る事しかできなかった。
「自由研究はAIまかせ」は後で読んでみて面白くなかったので改正しました。




