中二病は迷探偵
俺とエミは三越内を目的もなく見て回る。少し回ったところで、俺たちを見る店員たちの目が少し気になった。子供だけで来店するのは珍しいのかな。
ああ分った。俺のようなガキが買い物をするはずもない。その上、やたら商品に興味を持ち、べたべたと触る。汚い手で商品や磨き上げた商ケースを汚されたくないのだ。
仮説を立てれば実証したくなる。
「ねえエミ、デパートは女性用の商品が多いね。そこのコーナーも化粧品だよね。エミは化粧品に興味あるの?」
エミに話しかけながら、子供が絶対買わないであろう商品の入ったガラスケースに近づく。そして俺は手をガラスケースに近づける。触れそうで触れない距離を保ちながら、こちらを見ている女性店員の表情を観察する。
あれ、表情に変化がない。むしろ穏やかになっている。
「ワーちゃん何しているの?パントマイム?下手くそだね」
ガーン。思いもよらないダメージを受けた。
俺が言い訳を考えていると、先ほどの女性店員が近寄ってきた。
「素敵なカップルね。小さな彼氏は御嬢さんに口紅のプレゼントかしら」
「えっ本当。ワーちゃん私に口紅買ってくれるの」
「ち、違います」
俺はエミの手を引いてその場から逃げだした。エミは嬉しそうだ。
仕方がないので俺はエミに小声で話しかけた。
「買ってやるが、ここはダメだ。デートの時に多分」
エミは頷いた。そしてチラリと犬歯が見えた。
俺はまた不渡りになりそうな債権を振出たのかもしれない。
しかし、あの店員は何だったのか。リップサービス?
いや攻撃だろう。俺が先ほど行った、店員の心を試すような行為に対する報復だ。俺は少なくないダメージを受けたから間違いない。
いや、ただ単に俺が墓穴を掘っただけかも。
何にせよ、このフロアーには恥ずかしくていられないので、エスカレータで4階に上がった。
そこは紳士服に雑貨、筆記用具など小物が置いてあった。この階が唯一の男性用の品物を扱っているようだ。客も多様だ。老若男女全ている。
俺たちより少し年上、多分中学生らしきグループも商品を見ている。
俺と同じで彼らがここの品物を購入するとは思えない。冷やかしだろう。
見たまんま冷やかしと解る客が俺以外にもいると分かって少し気が楽になった。
俺は高級そうな万年筆を少し見て回る。エミを見るとあらかさまに退屈そうだ。
ふと奥の方に目を向けると、さきほどの中学生グループが男性二人に前後を挟まれ事務所らしい所に連れられて行くのが見える。
やっと合点がいった。最初感じた定員たちの目は万引きを警戒していたのだ。今中学生たちを連れて行った男性は万引きジーメンだ。
エミにこの事を教えてあげると。
「本当に。さっきの人たち万引きしたの?へー」
さっきまで退屈していたのに今は目をギラギラさせている。
連れて行かれた彼らがどうなるのか興味深々である。
ラノベに出てくる異世界なら奴隷落ちだな。鉄の首輪をつけられ鎖に繋がれたまま奴隷商に売り飛ばされるのだ。ここだと警察に突き出されるのかな。
俺が想像を膨らませていると、事務所のドアが開く。ぞろぞろと先ほどの中学生たちが出てくる。
「ありがとうございました。デパートの裏方、大変勉強になりました」
・・・・
気まずいが、俺はゆっくりと隣ににいるエミに顔を向ける。
「ワーちゃんの名推理、大変勉強になりました。」
エミの意地悪そうな目がとても印象的でした。
「そろそろ帰ろうか」
帰りも田中さんが運転する車の後部座席でエミと一緒である。
「ワーちゃん今日はありがとう。とっても楽しかったわ。特に三越、ワーちゃんが進めてくれて良かった」
嫌味か。嫌味なんだろうな。それでもエミの笑顔を見ていると悪くないなと思えてくる。
俺は家の前まで送ってもらった。
「じゃ、またね」
「ああ、またな」
エミと別れた。疲れた。
疲れたけど、何だかんだあったけど、楽しい一日だった。




