夏休み最終日 台風よ来たれ(完)
8月31日(日)
今だ暑さが衰えない。週間天気予報を見ても、35℃の猛暑日は続きそうだ。
なのに夏休みは今日で終わり、理不尽だと思う。
しかし、ダメな小学生をこれ以上遊ばせていては、日本の将来が危うい。
彼らは、いいえ我々は決して自ら勉強をしようとは思わない。
今の小学校はエアコンが装備され、熱い寒いは休むための理由にならない。
本来は暑すぎて勉強にならないから、夏休みがあるのだが、今は学習環境が改善されて年間を通じて勉強のできる環境である。
だからここで暑いから夏休みを延期せよなどと下手な事を言ったら、夏休み自体が無くなる可能性がある。
しかし、小学生の心情としては、夏休み最後の日を迎え、思う事は「もう少し遊びたい」の一言である。
それで、無駄に行動力のあるミツルはテルテル坊主を作っている。
晴れにするのが、テルテル坊主なら雨にするのもテルテル坊主だと言う。テルテル坊主を逆さに吊って雨乞いをするのだ。テルテル坊主1個では小雨しか降らないかもしれないから、100個ほど作るらしい。
テレビをつけて、明日の天気予報を見る。晴天のようだ。台風は日本近海には存在しない。やはり無駄な行動だ。
俺は黄門様の衣装を作成中だ。11月30日徳島市で開催されるコスプレイベントに中二病同好会全員で参加するためだ。
最近のコスプレはクオリティが高い。モノマネ芸人のコロッケさんが扮する美川憲一さんの様に、ある意味本物以上のレベルを求められる。
勉強ではあまり頑張れないのに、遊びには熱が入る。全く俺たちダメ小学生の脳内システムは理解できない。
特にミツルの行動は、ダメな小学生の中でも異彩を放っていると言えばカッコいいが、親友の俺でもあえて言いたい。常軌を逸している。
ミツルの周りにはゴロゴロとテルテル坊主が何個も転がっている。少し怖い。
「ミツル、コスプレの準備はできているのか?テルテル坊主よりそっちの準備したほうがいいと思うぞ」
「大丈夫だ。これは後10個で100個仕上がる。そうしたらワッサンの部屋の窓に吊るす。その後でコスプレ衣装に取り掛かる」
「俺の部屋の窓に吊るすのか?100個全部?」
「それはそうだよ。俺の家漁師だよ。漁師の息子が台風を呼んでいたら問題だろ」
「だったら止めろよ」
「だめだ。これは全国の小学生585万2,607人の切なる願いなんだ。無垢なる少年少女の願いを踏みにじる事はできない」
「えらく細かい数字だな。どこから出した数字だ」
「政府が発表した去年の人数から、最近の減少率を考慮して出した数字だ。おっと間違えた。ワッサンは無垢なる少年ではないから一人減らして、585万2,606人だ。訂正する」
「・・・」
越後屋ミツルも無垢なる少年ではないと思うが、そこを指摘しても、人数がもう一人減り、585万2,605人になるだけだ。それに問題点はそこではない。家の窓の外に100個もの逆さテルテル坊主が吊るされているのを近所の人が見たら何と思うだろう。良い評判は絶対に立たない。
「よし、出来上がった」
早くも出来上がったようだ。出来てしまった物は仕方がない。
「なあ、このテルテル坊主は外に吊るさず、部屋の中に吊るそう。晴れを願うテルテル坊主は外に吊るすものだが、雨を願うテルテル坊主は屋内に吊るす方が効果があるような気がする」
「端っからそのつもりだ。こんな物を外に吊るすなんて世間体が悪い」
「・・・」
それならミツルの家でも問題ないのではないか。
少し腹が立ってきたところに、玄関のチャイム音が鳴る。
ピンポーン。
「ワッサン来たよ」
玄関へ降りて行きドアを開けると、玲子、光、エミの3人が立っていた。それぞれにコスプレ衣装の入ったカバンを持っている。
今日は夏休み最後の日だから、コスプレ衣装の打ち合わせする約束をしていた。
「待っていたよ。上がってくれ」
階段を上がり俺の部屋に入ると、100個のテルテル坊主が転がっている。
「何これ気持ち悪い」
玲子が顔を歪めている。続いて入ってきた光とエミも同じ表情をする。
「ああこれは、ミツルが夏休みの延長を祈願して、台風を呼ぶために作った逆さテルテル坊主100個だ。今からこれを部屋の中に吊るすところだ。手伝ってくれ」
「えー気持ち悪い。いやだ」
玲子が拒否する。
「そうよ、こんな物、廃棄処分よ」
エミが怒り気味に吠える。
「何を言う。これは全国の小学生585万2,606人の無垢なる少年少女の願いの結晶だ」
また始まった。ミツルの屁理屈。誰に似たのか最近中二病同好会では屁理屈をさえずる者が増えてきた。
「それならここに居る無垢なる少年少女で決を採りましょう。ミツルの意見に反対な者は挙手」
エミ、玲子、光、俺の3人が手を上げる。
「はい、全員一致でミツルのテルテル坊主は廃棄処分決定ね」
「なぜ、全員一致なんだ。俺が反対しているだろ」
「何を言っているの、ミツル。あなたは、無垢なる少年ではないでしょ。投票権はありません」
「ぐはっ」
エミ正統教会がミツルを邪悪認定した瞬間だった。
考えてみれば、このような気持ち悪い物を100個も作る者が、無垢であるはずがない。俺は少し気持ちが良くなった。
テルテル坊主は段ボール箱に入れられ、部屋の隅に片づけられた。
テルテル坊主騒動が収まり、みんながコスプレの衣装を鞄から取り出しているところ、玲子が突然、話し出す。
「ワッサンたち、昨日自転車で鳴門に行ったのだって」
昨日の件は俺たち男3人の秘密だ。何故、玲子が知っている。
俺とミツルは同時に光を見る。光はとっさに目をそらす。
こいつが秘密を洩らしたのだ。
視線を玲子にもどし、その手元にある鞄を見ると、鳴門市のマスコット「うずしおくん&うずひめちゃん」の小さな人形がぶら下がっている。鳴門公園に売っていた物だ。
こいつ、いつの間にか玲子へのお土産に買っていたのだ。これで全ての経緯が解かった。
光はそのマスコットを玲子にプレゼントし、昨日の冒険を自慢したのに違いない。俺だって明日クラスの者たちに自慢したくておれない。だが、校則違反だ。無暗に人に話すと親同伴で先生に叱られる事間違いない。
それなのに、こいつは玲子に好かれたくて、お土産を用意し冒険談を話した。
「光、これは裏切りだ。見損なったぞ」
ミツルが吼える。
光は俯いて動かない。
「ごめん、ごめん。ミツル、光は私にお土産をくれただけ。私がカマかけて聞いたら光が少しだけ話してくれたの。だからワッサンやミツルから詳しく昨日の冒険話を聞きたくて」
「ちっ、仕方がないな。そもそもその冒険を言い出したのは俺だ」
ミツルは途端に機嫌を直して、自慢げに話し出す。
「何それ、玲子にお土産があって私にはないの?」
エミがミツルの話を遮り怒り出す。その目は俺を射抜いている。
ああ、こうなるよな。
俺は立ち上がり、引き出しから可愛い赤のリボンをつけた透明のビニール袋を取り出す。中にあるのは玲子の鞄に吊るしてあるマスコットと同じだ。
「今日の帰りに渡そうと思っていたけど、光が同じことをしていたとは思わなくて、ごめん。渡すの遅れた」
それをエミに手渡す。
「「えーー」」
ミツル、玲子、光の声が重なる。
「ありがとう、ワーちゃん。大切にするね」
エミはさっきの怒りは最初からなかったように、少してれて受け取った。
何を思ったかミツルは部屋の隅にある段ボール箱を両手て抱え、玲子に差し出す。
「お土産無いけど、俺の気持ちだ受け取ってくれ」
「どんな気持ちだ。私を呪っているか、受け取る訳ないだろう」
その後、独り落ち込むミツルと、寒気がすると言いだす玲子を上機嫌のエミが助けながらコスプレ衣装確認作業は進められた。
そして、夏休み最終日、中二病同好会はいつもと変わらない様子で終わりを迎えた。




