ダラダラ、ゴロゴロのラストスパート
8月28日(木)
稲刈りが終わり、通常の夏休みが戻ってきた。上の兄は大学のサークル?下の兄は部活に忙しいようだ。俺は自分の部屋でダラダラ、ゴロゴロしている。
しかし、夏休みも残すところ4日だ。
受験勉強やマラソンにラストスパートがあるように、ダラダラ、ゴロゴロにもラストスパートがある。あと少しの期間を全力でダラダラ、ゴロゴロするのだ。
前にも記述したが、夏休みとは暑くて勉強ができないために、この期間は休むことにしたのだ。休むとは休養を取る事だ。言い換えればダラダラ、ゴロゴロする事だ。
夏休み入って序盤は、遊ぶことに夢中で、本来の目的であるダラダラ、ゴロゴロが、疎かになっていた。中盤も何かとイベントの多い日がありダラダラ、ゴロゴロに集中できていない。
と言う事で、俺は昼間から部屋に転がってマンガを読んでいる。
ミツルも光もここに来ていて、俺と同様に転がりマンガを読んでいる。
「ああ暇だ。何かして遊ぼうぜ」
ミツルがぐずりだした。堪え性のない奴だ。
「そうだよ、ワッサン。よく学びよく遊べと言うじゃないか」
光までゴロゴロするのに飽きてきたようだ。
「光、その言葉は、アメリカのことわざだ。そして夏休みはゴロゴロするために設けられた日本文部科学省の施策だ。言い換えればお上の意向である。そして、そのことわざは、ともすればアメリカの日本に対する内政干渉にあたる」
「また始まった。ワッサンの屁理屈だ。光、相手にしない方がいいぞ」
ミツルがうんざりした顔で言う。
「そうだな、僕も分ってきたよ。ワッサンの言葉には気を付ける」
そして、また部屋の中は静かになる。
流石だ光、学習能力が高いな。だがまだまだ甘いな、俺は今読んでいるマンガが面白い場面に差し掛かっているので中断したくないだけだ。
俺は読んでいたマンガを本棚に返す。丁度ストーリの山場を越えて落ち着いたところまで読み終えたのだ。
「お前たち遊びに行こうか」
「ちぃ、勝手な奴だ。さっきは屁理屈をこいて誘いに乗らなかったのに、自分がマンガを読み終えて、暇になったから、言ってやがる」
「ミツルの言うとおりだ。ワッサンは少し身勝手だ」
最近この二人は息が合うようになってきた。越後屋と悪代官だからか?
何はともあれ、二人の息が合うのは良い事だ。芸にも磨きが掛かるというものだ。それでは俺も黄門様として彼らのレベルアップに手を貸してやるか。
「これだから越後屋と悪代官は黄門様に成敗されるのだ」
「どうゆう意味だ」
ミツルが食いついて来た。光は何も言わずに俺を見ている。まだ警戒しているのだろう。
「ふっ、簡単な事だ。越後屋ミツルに悪代官光、俺が身勝手な態度をとったのは、お前たちのためだ」
状況を分析し不利な状況が続きそうな場合は、土俵を変える。論点を変える事だ。相手が興味を持たない、または嫌いな土俵だと、乗ってこない。
しかし、大好きな土俵だと直ぐに食いつく、ミツルの様に。
「詳しく話してくれ」
光も乗ってきた。
「知っているとは思うが、江戸時代の代官罷免率は12%だ。これは悪事を働いて、罷免された代官が一割強いたという事だ」
「いや知らなかった」
「知らないと思うが」と切り出した場合、相手は馬鹿にされたと思い、話が拗れる。大体の場合、知らないだろうと思っても、「知っていると思うが」と切りだす。前世の学会で使った手口だ。
「ふむ、罷免された悪代官が一割強いたと言う事は、罷免されなかった悪代官がそれ以上にいたと言う事だ。残念ながら水戸黄門に出てくる悪代官は前者だ。だが、それで良いのか?お前たちが簡単に馬脚を現す悪役で良いのか?違うだろう光」
「う、うん」
「光は悪代官役を演じるにおいて、まだ抵抗があるのだろう。だが、それは本物の悪代官を知らいないだけだ」
光は食い入るように俺の話を聞いている。ミツルは楽しそうな目で話の続きを待っている。
「江戸時代中期の記録によれば、地方の行政官である代官に、幕府から支給される予算は675両、支出は27人の職員の人件費と代官本人の生活費だけで927両、その上、村の灌漑など公共事業を実施しなければならない。完全に破綻している。だから、代官の職務を遂行するためには、豪商たちと上手く取引していかなければならない。それが周りの住人にとっては、悪事に見えたかもしれないな」
「何と言う事だ。代官は大変の職務ではないか、法を犯しているのが悪だとは言えない。罷免されない悪代官こそが優秀な代官だ」
光は少し興奮気味に語っている。
「理解したようだな。だから光には正義の悪代官になってもらいたい」
「分った。僕は誇りを持って立派に悪代官を演じて見せよう」
「その話は大体分かった。それで身勝手なワッサンの話はどうなった」
ミツルがニヤリと笑いながら言ってくる。俺は騙されないと言いたげだ。
「あれ?ミツルは解らなかったのか。代官は悪くない。悪いのは少ない予算で無理やり仕事を押し付ける身勝手な幕府だと言っている。俺は幕府の元副将軍水戸光圀公である。身勝手は当たり前だろう」
「流石だ、ワッサン。越後屋の出る幕ではなかった」
「・・・」
光はようやく自分が、けむに巻かれた事に気が付いたようだ。
こうやって、当初の目的通り、夏休み残り4日目はダラダラ、ゴロゴロと過ごすことができた。そうラストスパートが始まった。
しかし、何も変わらない。
三人の少年たちは、ポテチを食べながら好きなマンガを読んで笑っている。




