夏のホラー2025
指示された内容は、小説サイトで現在行われているイベント、「夏のホラー2025」に応募すること。ホラーなんて書いたことないんだが、そこはまあ仕方がない。まずはホラーがどんなものか調べる所からだ。
そう言えば朝起きると、玄関横に『なななウォーター』から段ボール2個分の商品が届けられていた。しかたないので、1人で自室まで運んでパソコンデスクの横に積み上げる。これに何の意味があるのだろうか?
梶原は昨日もらった『なななウォーター』を冷蔵庫に入れておいたので、一本飲んでみた。あ、レポートが必要なんだった、そう思って飲むが普通の水としか思えない。特に変わった味も無かった。どうしろと言うのだろうか?
梶原は苦しんでいた。ホラーというものは理解した。とにかく読者に恐怖を感じさせればいいのだ。
映画も見てみた、うん怖かった。で、小説ではどう書くんだ? 少し書き出してみるが、何か違う気がする。
冷蔵庫に行って『なななウォーター』を取り出した。飲む。ん? ちょっとピリッとした辛みを感じる。ラベルを見直してみる。原材料:水、プロテイン、クエン酸、香料。気になるものは無さそうだし、まあレポートに書く内容を見つけたのは良いことなんだろう。
結局その日はそれ以上書き進めることも出来ずに終わったので、梶原は1日目の『なななウォーター』レポートとして、味の変化を書き込んでメールで送りつけた。
その後も梶原は思うように筆を進めることが出来ずに苦しんだ。何とか形に出来たのが5日目。
それまでは毎日、定期便のように『なななウォーター』のレポートを送り付けるだけだったのでやっと一息つくことが出来た。
内容的には事前に見たホラー映画の影響を受けすぎているような気がして、納得いくわけでもなかったが、期限が迫っている。指定のキーワードを設定して小説を投稿した後で、5回目の『なななウォーター』のレポートを送り、そのままベッドにもぐりこんだ。
次の日に目を覚ますとパソコンに新着メールのアラートが出ていた。
お世話になります。『なななウォーター』の七海です。小説のアップロードを確認いたしました。これからも引き続きよろしくお願いいたします。
申し遅れましたが、お知らせしたキーワードを設定していただきますと、アクセス数のカウントは表示されないようになっております。一般の方は通常通り閲覧できていますのでご安心ください。
では引き続きよろしくお願いいたします。
確かに閲覧数は「0」となり、カウントされていない。普段使っていないブラウザから見ると投稿した小説を読むことはできたが、詳細は非表示設定になっていて見ることが出来なかった。
なるほど、そういう事なのかと納得する。
その日のシフトは昼間だったので、アルバイトから帰宅した梶原は夕飯を食べ、風呂から上がってすぐにパソコンを立ち上げた。
1本目のホラーを上げてから、既に3日経つが順調とは言えない。
一体全体なぜホラーでなくてはいけないんだ。これがAIの学習用と言うのも意味が分からない。そもそも梶原にはAIの知識が全くないので、本当のところは適正かどうかも分からないのだが。
梶原は夜の教室のシーンを書いていた。主人公が忘れ物を取りに教室に戻ったとき、後ろに人の気配を感じて…
梶原はブルッと震えた、自分で怖くなってどうする、そう思ったその時、後ろからガチャンと物の落ちる音がして飛び上がった。うわっ、驚いて振り向くと本棚に置いてあった貯金箱が床の上に落ちていた。
「お、驚かせやがって」
梶原は立ち上がって、貯金箱を拾いに行く。クソッなんだってこんなタイミングで…
何だ?
貯金箱がグッショリと濡れていた。置いてあった本棚を確認するが、そこは濡れていない。ちょっと気味の悪さを感じるが、梶原はティッシュで貯金箱をぬぐって元の位置に戻した。ふき取った水分はただの水のようだった。
そう言えば今日はまだ、『なななウォーター』を飲んでいない。梶原は冷蔵庫に『なななウォーター』を取りに行った。
冷蔵庫から出した『なななウォーター』をダイニングテーブルの上に置いて、ボーッと眺めてみる。シンプルなデザインでセンスがいい商品と言ってよいのだろう。そう言えば、この商品の説明を一切聞いていなかったことを思い出した。
そんなことを考えているうちにボトルが結露して、テーブルに水滴が溜まってくる。梶原はボトルのキャップを開け、半分程飲んだところでふと気が付いた。
そうか、この商品はまだ未発売なんだ。おそらく一本ずつ中身が違っているに違いない。今飲んでいるボトルはオレンジのような香りと甘みまで感じる。でなければこんなに毎回味が違う筈がない。レポートをどういう扱いにしているかは分からないが、何らかの調査をしているのだろう。この『なななウォーター』って会社は、やることが一々面倒くさい。
梶原はまだ半分ほど入った『なななウォーター』のボトルを持って自分の部屋へ戻ると、執筆を続けた。
レポートにはオレンジ風味と甘みを感じたと書いて送っておこう。
次の日は不思議とアイディアがスムーズにまとまり、いい感じで筆が進んでいた。
学校から脱出した主人公は、痛めた足をかばいながら、降りしきる雨にずぶ濡れになって校庭を抜けていく。しかし突然ぬかるみに足を取られ、地面に倒れ込んでしまう。何故か地面は底なし沼のように…
うん、いい感じだ。気持ちよくキーボードを叩いていると、窓の外から雨音が聞こえてきていることに気が付いた。
今日は雨の予報なんてあったかな? とは思ったものの気にもせずに続きを書き進めていく。ふと、近くからピチャっと水の音がして手を止めた。額に水滴が伝って来る。
何だ! そう思って上を見上げるが、上から水が零れてくるなどありえない。額から垂れる水を掌で拭うと、確かに掌が水で濡れていた。不安になった梶原は周りを見回すが、雨漏りをしている様子は無い。そもそも雨漏りがある様な古い家では無い。
気持ち悪さを感じながら窓際に移動し、カーテンをめくってみる。予想に反して、空には月が出ていて街灯に照らされた道は乾いていた。どこにも雨が降っていた形跡はなかった。
痛てっ、突然左足に痛みを感じて梶原は膝を押さえた。どこかにぶつけたような激痛を覚えてパジャマをまくると、膝の下が真っ赤に腫れ上がっていた。足を引き摺り、慌ててパソコンの椅子に戻った。痛みに体が震え、冷や汗が噴き出す。
額から滝のような汗が流れるのを感じて右手で拭うと、ジャリッという嫌な感触がした。手のひらが泥だらけになっている。パソコンのテーブルに手を置くと泥水を引き摺ったような筋が付いた。
ガシャンとガラスの割れる音がして、風が吹き込んでくる。振り返ると、皮膚が融け崩れたモンスターがガラスの割れた窓から入り込もうとしているところだった。
どういうことだ、今しがた自分が書こうとしていたホラー小説のイメージが、形を持って自分に襲い掛かろうとしている。梶原は椅子から崩れ落ちると、そのまま気を失った。
なななウォーター、3章で完結としておりましたが、結末が不十分であると判断し加筆をさせていただくことになりました
そのため原バージョンは3章完結バージョン時のラスト部分を削除したものになっております
近日中に新しい章編成でお送りしますので結末は今しばらくお待ちください
既に既読の方は新バージョン発表後、再読していただけると嬉しく思いますのでよろしくお願いします