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ちゃろ  作者: 茶色の子犬
3/3

1年目-01

 その子犬は、生後53日で一つの過程に引き取られることになった。

 生まれたばかりの子犬は50日母乳で育てられる。 しかしその50というのは母乳を与える期間の話であるので、加えて大抵はその後20日ほど更に親元で過ごし体力をつけてから、親元を離されるの通例なのだ。

 それをかんがみれば、53日で引き取られるというのは極めて早いといっていい。

 しかしその引き取った一家には、早くなければならない理由があった。 彼らは、丁度引っ越すところだったのだ。 それまで暮していたのは東京の集合マンションで、当然動物は禁止されていた。 しかし父親の仕事の都合で引っ越す先は九州で、幸い社宅として与えられたのは二階建ての一軒家だったのだ。

 早朝に東京をたつため、彼らはどうしてもそれよりも早く子犬を受け取りたかった。 結果、子犬はその前日、一家へと引き渡された。固形を食べるにはまだ幼く、彼らは食欲のない子犬に食べさせるための粉ミルクも一緒に用意した。

 犬を引き取った一家は東京を発つ前日の夜を、住んでいた地域にある一つのホテルで過ごした。 動物可のホテルではない。 手の平に乗るサイズの小さな子犬を鞄に入れて、ひっそりとしのばせたのだ。 子犬は粗相をすることも夜鳴きすることもなく、子供たちは小さな子犬をものめずらしそうに触りながら一夜は明けた。

 空港に着くと、まずは荷物を預けなくてはいけない。

 しかしそこで一家にとって驚きの事実が発覚した。 犬は客席に連れ込めない。 言われれば当然の事かもしれないが、手の平に収まるような小さな子犬が粗相をするとも思えない。 吼えることもできない、はいはい歩きの赤ちゃんなのだ。 犬用のかごに入れるから、そばにおいてやりたい。

 しかし、当然子犬一匹のために規則が曲げられることはない。

 子犬は籠にタオルをクッション代わりに敷き詰められ、そのまま貨物室へ運ばれる事になった。

 ほんの数時間は、ひどく長い時間だった。

 貨物なのだ。 暗く、食べ物もなく、水もなく、どんな過酷な状況下分からない。 あんな小さな子犬では、何かあったときには死んでしまう。 まんじりとした思いを抱えながらの数時間だった。

 着陸後、子犬を引き取った家族はその顔を見てほっと胸をなでおろす。

 くりくりとした目を動かしながら、子犬は鼻を鳴らして周りに集まる人間を見上げていた。

「かわいいね」

 漏れる一言が、彼らの胸中のすべてだった。

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