あの日がやって来た。
子供が幼いとき、何かに喋りかけているのを何度か見かけたことがある。純粋な心には見えるものがいっぱいあるようだ……!
第二眉
僕こと日野 真の職業は少し変わっている。
職場は大阪方面に電車で15分ぐらいのところにある。大阪と最寄り駅の中間地点でその駅からは徒歩3分程度で着く。
駅前のマンションの4階のプロダクションで働いている。
職業は漫画家のアシスタントである。
勤務時間は基本が8時5時なのでイメージとは違いサラリーマンに近い。漫画家には夜型や徹夜をしていると思われがちだが、僕の先生はそれが嫌でこのシステムを貫いている。
給料も一般サラリーマンに近い金額をもらっていた。
先生はかなりの大御所であるのは確かだ。
日野 有希ことマユさんはもともと保育士であった。結婚し子供が生まれたので一旦退職したが、子育てが落ち着いたら復帰すると宣言している。まあ、そうだろうなって思っていた。
時が過ぎ、この土地にも馴染んできた。そして初めての年末を迎えた――。
実家から今年は帰らなくても良いと言われたので、ここで過ごすことにした。
なんでも、うちもマユさんの両親も旅行に行くそうだ、やはり年末年始はのんびりしたい様だ。
昨年は、実家に帰ったが健太のはしゃぎぶりで疲れたのかも知れない、想像だが!
この辺りは盆地の為か、冬は本当に底冷えがし、寒さが体に堪える。
朝方、窓を開けると真っ白な景色になっている事が何回かあった。
マユさんも僕も比較的暖かい所の出身なので戸惑うことが多くなった。
出勤途中にこけた事が何度かあり、マユさんも坂で滑ったという。
健太は、雪が降ると大喜びをし、公園で走り回っているらしい。 果穂の方は少し嫌なようだ、不機嫌になるという。
年の瀬も押し迫ったころ。
仕事から帰宅をし、玄関を開けるとマユさんが「あっ、帰ってきた」と、玄関まで駆け寄ってきた。
部屋はいつの間にかクリスマス仕様になっていて、出窓には電飾まで飾られていた。
いつの間に!
「ちょっと、聞いて……」といきなり話しかけてきた。
「どうしたの、マユさん――!?」
その時もマユさんの眉がヒクッと動いた。
「あのね、健太が不思議な事を言うのよ!」「えっ、不思議な事!」 僕は上着を脱ぎながらマユさんに答えた。
かなりマユさんが興味を示した話であるのが分かった。
「お昼過ぎにご飯の片付けをしていたら健太が誰かと話をしていたの、テレビか何かを見ているのかと思ったんだけど…………!?」
「健太、誰とお話ししてるのって聞いたら、白い服を着た男の子とお話ししてたって言うの、それがこのところ毎日同じ時間なの……でも、すぐに居なくなるらしいんだけど」
「子供のころって、大人には見えないものが見えるらしいが……なんだろ?」
服を部屋着に着替え、マユさんがご飯の準備にかかったので、リビングでテレビを見ている健太に問いかけてみた。
「健太、健太お昼に誰か来てるの?」
「うん、きてるよ! カンちゃん」 健太は即答した。
「それって、だれ――?」
「しらな――い、あの こふんからきたっていってた……」 健太は裏の方を指さしながら言った。
「かほも、はなしてるよ……カンちゃん」 健太は今度果穂が寝ているベビーベッドの方を指さした。
「何んて、言ってるの?」
「いっぱいゆれるけど、ここはだいじょうぶって――いうてた!」
「揺れるけど、大丈夫!」
「ふうーん、そうなんやて――!」 まあー、これ以上聞いても分からん、やろうと思いマユさんに報告することにした。
「マユさん、古墳から来たカンちゃんって男の子らしいよ、果穂もしゃべってるって!」
「それってカンちゃんって、幽霊!?」「いや、確かめようがないよ……」 僕はお手上げのポーズをしていた。
「かんちゃんがもうすぐいっぱい揺れるけど、ここは大丈夫やって言うてたらしい!」
まあー、大人には見えない(トトロ)みたいなモノか、と僕とマユさんは思ってしまった。
しばらく経つと、健太は(カンちゃん)の事を言わなくなった。
今はサンタクロースの事で頭がいっぱいのようである。
数日後クリスマスも過ぎ、マユさんもまだ気にしている様なので健太にカンちゃんの事を聞いてみた。
健太はサンタさんに貰ったプラレールで遊びながら「こわいからこないって……」「――!?」
僕とマユさんは、なんだろうって思っていた。 マユさんは思いついた様だ。
「もしかして、地震――!?」
「それって、単純すぎないまさか!」 「確かに……それって予知だよね(カンちゃん)いや健太の……?」
ふたりで、ナイナイと思ってしまった。
マユさんの魔法もこればっかりは通じなかったようである。
正月が過ぎたころには、僕もマユさんも(カンちゃん)の話題をしなくなったっていた。
朝、5時46分――――!
突然、僕のからだはドーンと突き上げられた。
「なんだ―?」 そして、横揺れが続いた。 物はあまり落ちなかつたものの、今までに経験したことのない揺れだ。
横に寝ていたマユさんも「今の何!」と、飛び起きた。 かなり怖がっていて僕とマユさんはしばらく抱き合っていた。
揺れが収まり、少し正常になったところでテレビをつけた。
外は真っ暗でテレビでも、様子が分らず(ただいま強い地震がありました、注意してください)と、繰り返し流れている。
しかし、その時の健太と果穂は起きることは無く、ぐうぐうと眠っていたのが印象的だった。
その後の惨状は、明るくなっていくにつれ明らかになっていった。
1995年(平成7年)後に阪神・淡路大震災と呼ばれる地震であった。
そして、僕とマユさんは叫んだ(カンちゃん)って――!?
ありがとうございます。
まだ、続きます。