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初夏 僕たち家族は引越してきました。

何気ない事が幸せであり、平凡な日々が幸せなのだとあの日が来ると思い返す。

そんな家族を描いてみました。


 あなたと過ごす日常、そんなあなたは幸せになる魔法を持っている。

 

第一眉


 日野(ひの)(まこと)の家族が引っ越したのは、初夏を迎えたところで暑さはこれからの時期だった。


 引っ越し先は、大阪難波から奈良方面に電車で30分、その場所に僕たちは引っ越してきた。


なぜ、ここに来たかって?


 その沿線の駅前に職場があったのと、大阪近辺はやはり家賃が高く沿線で住宅を探していると、この地にたどり着いたのである。

 駅は普通電車しか止まらないが、一駅前の駅には急行が止まり乗り換えて、その駅からは徒歩八分でたどり着く。

 駅は小さいながらも、駅員がいるので無人駅ではなかった。

 下にはスーパーがあり、五階建ての2LDKのマンションの四階に僕たち家族は住むことにした。


 もちろん賃貸である。


 周りは住宅地ではあるものの、マンションの裏手には小山があり100M離れたところには池などもあった。

 駅の裏側には、畑や田んぼもあり田舎といえば田舎である。

 住み始めた頃はなかなか気が付かなかったのだが、外部から来た者にとっては、今まで経験したことのない場所であるのが分かってきた。

 地元の人は当たり前すぎて疑問すらもたない様子だ。

 引っ越してから一か月が過ぎた。

 日曜日の朝、遅めの朝食を家族四人で食べていた時だった。 

 長男の健太は二歳なので手は掛かかるものの食事はひとりで出来る、長女の果穂はまだ6カ月のため僕が食事をさせていた。

「まこ……」僕のことである。 日野 まことのまこ、である。

 呼んだのは僕の奥さん日野 有希。

「なにマユさん、呼んだ!」 ちなみに僕は奥さんのことをマユさんと呼んでいる。

 ユキさんと呼ぶのが普通だろうな! 


 だったら何故って、旧姓が眉村で眉がとっても綺麗だったため結婚前からそう呼んでいたのだ。

 そう、奥さんの持っている魔法は眉にある。

 柳の眉なのだ! 

古語辞典では(柳の葉のように美しい眉。 美人の眉の形容)だそうだ。

 そして僕は、マユさんの魔法に掛かってしまった。

 眉がヒクッと動くと、それはマユさんの興味の対象である。 

 不思議な事にマユさんの興味は周りにも波及する。

 魔法を掛けられたように! 

 

「このマンションの裏に小山になっているところあるでしょ」

「ああ、あるなー公園だろ、あれ……」

 果穂に離乳食を口元に運びながら答えた。

「なんか、変やから下のスーパーの人に聞いてみたんやけど……あれって古墳なんやて!」

「へ――そうなん」「健太もオ――ッ」 

 今度は健太がお茶をテーブルに(こぼ)したため、マユさんは(めっ!)っていう表情をし、拭きながらもその話を続けた。


「その古墳って築山古墳って言うらしいの」

 果穂の口元を拭くと、「バーぶーぶー!」果穂が発した。 もっと欲しいとの合図である。

「へー築山っていう古墳なん!」


 テーブルを拭いた布巾を洗いながらマユさんは続けた。

「裏の小山は築山児童公園なんやけど、その 奥に鍵型の前方後円墳って大きな古墳があるって言ってた……」

「へー、住宅のえらい側にあんねんな――」

 僕は果穂をゲップさせるために、抱き抱えた。(ゲボッ)と果穂がゲップしたのを確認し「見に行く――?」と言ってみた。

「そう、すぐそこやしな!」と洗い物の速度をあげながらマユさんは嬉しそうに答えた。

 マユさんめちゃめちゃ興味があるようだ。

「おとうしゃんおとうしゃん、どっかいく」 健太が嬉しそうにしゃべってきた。

「そうやで、すぐそこに古墳があるんや、行ってみようか」

「へーこふん?」 健太は何だろうっていう仕草をしていた。

「古墳って大昔のお墓なんよ」

「へーっ」 分かって無いようだが、外に行けるため嬉しそうにソワソワしていた。

 果穂も健太がソワソワしているためか、つられてベビー椅子で足をバタバタしてキャキャと笑っていた。

 マユさんは果穂を着替えさせ、オムツや哺 乳瓶などを準備しベビーカーも用意し、果穂に抱っこ紐を整え結んだ。

 僕は健太に靴を履かせ水筒を持たせた。

「健太行くぞ」「おー」と言いながら健太はエレベーターまで走り出した。

 だが、エレベーターのボタンに健太の背丈は届かず「おとうしゃんはやく、はやく」とひとりはしゃいでいる。

「待ってよ、健太!」 マユさんはベビーカーを押しながら後に続いた。

「健太、はしゃぎすぎお父さんから離れんといてな!」と、はしゃぐ健太にくぎを刺していた。

 季節は初夏に入った辺りなので、天気が良く汗ばむぐらいである。


 僕たちはまず公園に向かい登って行った。

そこまで高低差はないが、ベビーカーでは登り辛く石の段がある。 

 登りきると広場があり、ブランコや滑り台といった遊具があり遊歩道は草っぱらで、余り人が来てない感じだ。

 しかし、健太は一目散で滑り台へ向かっていった。 

 マユさんも果穂を抱っこ紐からほどき地面にそっと下した。

 すると子供たちは嬉しさのあまり、走り回り泥だらけになっている。

「まあー今日は良いか!」と、マユさんは半分諦め顔をした。


「築山児童公園という名称らしいが、通称(かん山)って書かれた石塔があったわ」 僕もその辺りをぶらぶらしマユさんに伝えた。

「これも古墳みたい、かん山古墳なんやて……」 マユさんは看板を見つけて言った。

 一時間ほど子供たちを遊ばせてから隣の古墳に向うことにした。 

 古墳の周りは池になっており、その中ほどに手付かずの森がある。 

 結局は上から見ないと古墳とは分からず、池の端に入り口はあるものの、立ち入り禁止看板には(宮内庁)と書かれた文字が古墳なのだと唯一わかる感じだ。

「この辺りって馬見古墳群を構成する一つの 古墳やから、周りにはいくつも古墳があるみたい」

マユさんはベビーカー止めて、看板の説明を読んでいた。

「へーそうなんや」僕も健太の手を引きながら池のまわりを歩きながら、あらためて森の方を見回した。

「おとうしゃん、ねむたい……」

 健太が疲れたようや。 はしゃぎすぎたようで道に座ってしまった。 

 健太をおんぶすると直ぐに眠ってしまい、気が付くとベビーカーの果穂も眠っていた。 子供が眠ってしまうとずっしりと重さが圧し掛かってくる。

 子供からすれば、古墳など何もない退屈な存在でしかない、無理もないかと思ってしまった。

 だけど、マユさんはワクワクしている。

 「こんな、面白い場所に越してきてハッピーやわ――‼」て、言うぐらいだから。


 古墳の池の一部が住宅で狭くなっている、

たぶん古墳と判らず開発してしまったのかなと想像してしまうが、真相は分からない。

 マユさんも「謎や……?」と言いながら、 表情はワクワク感が止まらないって感じだ。

  


 マンションに戻り、子供たちは眠ったままでいたため、マユさんとリビングで向き合いお茶にすることにした。

「この辺りって、小山があればたいていは古墳みたい」 マユさんはコーヒーを飲みながら嬉しそうに言った。

「凄ない――、昔から住んでる人は当たり前すぎて関心無いんやろな――!」 僕もコーヒーを一口飲みながら言った。

「あの古墳って文化遺産に登録されているのかな――、よく似た古墳あるやんか!」 マユさんがしみじみと言った。 

 マユさんの言う様に、目立つ古墳や文化遺産は日本にはかなりある。 しかし、誰にも知られず関心も持たれない場所はもっといっぱいある気がする。

 実際、僕たちもこの場所へ住むことになった為この古墳のことを知ったのだ。

 これからマユさんがどの様にするか、楽しみである。


 

 このマンションには、健太と同い年の子供夫婦が2組いる。

 引っ越して管理人さんが教えてくれ、挨拶に行ったのをきっかけに交流が始まった。

 今では、よく行き来している。

 時々、僕達の部屋にも来る。 その時に古墳のことを聞いてみたが2組共地元なので、反応は薄かった。「この辺りは普通やから古墳って」 こんな感じである――。

 毎日のように健太と果穂は、築山公園で遊ぶのが日課になっていた。 まー雨の日以外は!

 健太と果穂のお気に入り遊び場所となっている。

 このところ健太と同い年の子供とママさんも、毎日築山公園で見かける様になったとマユさんは言っていた。

 そう、マユさんの眉がヒクッと動いたからだと僕は思っている。


 今年の夏も異常に暑く、仕事から帰ると汗でびっしょりである。

 だけど、子供達は元気いっぱい。疲れ知らず……いつも元気なマユさんも、少しバテ気味である。

「あの子ら、元気ええわ〜!」

 マユさんはエアコンの風を受けながら、団扇を仰ぐ。

 僕はマユさんに麦茶を入れてあげる。

 一気に飲むほすマユさんは笑顔いっぱいになり、ふう〜と呼吸をした。

 実に充実した顔である。

 

 そんなマユさんを見ている僕は、魔法にかかっているのだろう。

 自然と顔がニヤケてしまうからだ!


読んで頂きありがとうございます。

続きは後ほど。

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