第17話 呱々原さんとデート②
映画館に行く前に二人で昼食を取ることに。
行くのはドーナツのファストフード店。
そこに向かって歩いていると、
「……た、確か。え、えいっ!!」
「え、呱々原さん!?」
後ろからついてきていた呱々原さんが、突如俺の上着の袖口をキュッと摘まんできた。
「……」
「……」
そのまま彼女は黙ってひっついて俺と歩き出す。
え、何?
なんだ? 一体、何が起こっているんだ?
腕を見ると、顔を真っ赤にしている呱々原さんと目が合った。
そして、
「……ち、調子に乗ってしまいました! ごめんなさい!」
土下座する呱々原さん。
さっきからどうしたの!?
「ちょ、呱々原さん土下座しないで! 服汚れちゃうから!」
「うぇ、……み、皆、い、言ってること違うじゃん」
独り言を呟く呱々原さんの姿勢を正させる。
見ると、土下座した拍子におでこに擦り傷があった。
慌ててポケットティッシュと絆創膏をあげる俺。
「……あ、ありがとう」
おでこの血を拭いた後、ペタッと絆創膏を貼る呱々原さん。
いや持ってきて役に立ったけど、どんな使い道?
「……め、迷惑かけて、ご、ごめんなさい」
「え、迷惑?」
「ひ、ひっついて。……し、消毒しないと」
ばい菌かな?
自分を卑下しすぎだよ呱々原さん。
慌ててフォローする俺。
「ぜ、全然迷惑じゃないよ! む、寧ろ何て言うのかな!?」
「……?」
「う、嬉しかったし
「っ!!!!!!!!?????????」
は、恥ずかしくなってきた。
なんだろう、ドギマギする。
再開して歩くと、呱々原さんが再度ひっついてきた。
鼻血が出そうなんだけど。
ドーナツ屋さんに入ると、土曜日にしては店内が物静かだった。
人混みが凄いと呱々原さんが気絶しそうだから持ち帰りにしようと思ってたんだけど、これならイートインでも行けそうだ。
それぞれ、ドーナツと飲み物を頼んでテーブル席に座って食べる。
「……お、おいしい」
隣で美味しそうに食べる呱々原さん。
幸せそうで何よりだ。
ところで何で隣に座ってるのかな?
向かい合わせで座れる四人席なんだけど。
「……い、行け、行け」とか言いながら座ってきた事だけは分かってる。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ……て、天気、良いよね」
恥ずかしくなってきたのか、他愛もない話を切り出してくる呱々原さん。
無理があるよ。
ちなみに今日は曇りである。
顔をトマトみたいに紅潮させて、ブルブル震えだす彼女。
「……もう死にたい」
「た、確かに! す、凄い天気良いよね! 雨が降ってないだけで神だよね!」
呱々原さんだけに負担させる分けには行かない。
俺も勇気を出して、彼女の方に体を近づける。
「……」
「……」
密着するのかしないのか絶妙な距離。
呱々原さんからは仄かなラベンダーの香りがしてくる。
持って帰りたい。
このまま密着して呱々原さんを抱きしめても、無罪になるんじゃないか。
そんな本能を抑えつつ、俺は鼻息荒くドーナツを頬張り続けた。
■■■
ようやく映画館に到着。
幸せだけど、命がいくつあっても足りない。
予約している映画の上映時間までまだ時間があるので、二人してポップコーンとドリンクを頼むことに。
俺からも、攻めていいんじゃないか?
朝の呱々原さんの爆撃によって、理性の要塞が破壊された俺は、そんなことを考える。
「こ、呱々原さんさ。ポ、ポップコーン一緒に食べようよ。ハーフ&ハーフの奴」
「っ!? ……う、うん」
箱の真ん中に紙の仕切りがあって、両サイドに別々の味のポップコーンが入るメニューである。
これなら小食な呱々原さんも食べられるし、残したら全部俺が食べるし。
っていう建前の元手を繋ぎたいだけなんだけど。
二人でアニメ談義に多少花を咲かせて気まずい空気を誤魔化していると、上映時間になった。
今回見る『鹿娘』は鹿を擬人化した美少女達の育成ゲームが原作のアニメで、ゲームアニメともにストーリー性、キャラデザイン、育成システム、流れる音楽など、どれも一級品の名作である。
俺も呱々原さんも、デートとは別に楽しみにしていた。
二人でスクリーンの座席に座って、真っ暗闇の中、上映される映画を眺める。
この緊張は、映画の雰囲気によるものか、呱々原さんとのデートによるものなのかは分からないけど、居心地がよかった。
ちなみに上映中にポップコーンを取る仕草で一回呱々原さんの手に触れたけど、彼女がビックリしてポップコーンを落としまくったので、食べるのを控えた。
以降呱々原さんも手に取らないので、気になって隣を見ると、リスみたいにほっぺにチャージしていた。
上映終了。
神作画で描かれる壮大なストーリーとアクションはすさまじかった。
ラストの感動の余韻で、涙が出そうになる。
「……凄かったね呱々原さん」
見ると、呱々原さんが涙を流していた。
「……え、あ」
俺が見てるのを見て、慌ててバッグから拭くものを探そうとしてるけど、見つからない様子だ。
俺はポケットティッシュを彼女に渡す。
「……で、でも」
「ううん。良いよ」
申し訳なさそうに俺からティッシュを受け取ってずびっと鼻を噛む呱々原さん。
持ってきてよかった。