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「さて、今日はいよいよ生放送の日なわけだけど。どう?」
「大丈夫、覚悟は決めたつもりだ」
「うーん、不安だ」
俺も不安だ。
「チャット欄読めるかなあ」
「多分止めないと読める速さじゃないだろうね」
「だよな」
「他のYtuberさんの生放送じゃチャット欄と会話してたから俺もしたいんだが」
「そもそも会話成立するようなチャットしてくれるかなあ」
「それは……どうだろう」
俺の顔と声に対する賛美で埋まりそう。
「でもやるんだよね?」
「やる」
「んじゃ準備するねー」
「頼んだ」
「待機所のチャット欄、まるで滝だね」
「駄目だ見えん」
「ちょっと止めてみよう。……うわ」
「うわ」
怖い。
「すごいね。狂信的というか」
「俺はいつから救世主になったんだ」
「信者の一部がそう呼んでるのは知ってたけどここでもか」
「俺って太陽だっけ」
「アフロディーテが全面降伏するらしいね」
「APP20ってなんだ?」
「さあ?」
他にも色々あるなあ。神が作り給うた最高傑作とか。神様は彼を指差して言いました。美とはつまりこれである、と。とか。そりゃそうだろ。俺の容姿は神様印だからな。
はあ。なんかすでに疲れてきたなあ。
ふー、……よし。
「始めてくれ」
「本当に大丈夫?」
「ああ」
「うん、じゃあ……スタート」
「どうもこんにちは銀一です」
一礼。
「えー、今日の生放送で何をやるかというと、本当はチャット欄と、まあ、会話をしようかと思っていたんですが。いやー、ちょっと難しいですね」
苦笑。
「流石に流れが速すぎます。ので、こう、ランダムに止めて、で、その中で目に付いたチャットに答えようかと思います。自分のに答えてもらってない、というのは、まあ、勘弁してくださいね」
「では早速」
ぽちっとな。
「えー、と。すごい、生きてる、ですか。どういうことですかね。そりゃもう生きてますよ」
「お、ありがとうございます、おかげさまで今日も生きていけます。ですか。いやー、俺の活動があなたの活力になっているのであれば幸いです。これは嬉しいですね」
「ん、これは……なぜ芸能界とかではなくYtuberなんですか? か。えーこれはですね、そもそも俺が外に出なくなったのは、えーと、色々あって、このまま外を出歩き続けると人死にが出るんじゃないか、と思ったから、そういう危惧を持ったんですね。だから外に出なきゃいけない芸能界はお断りさせていただいたんです。でも、これからずっと親のスネをかじり続けるのは良くないとも思ったんです。で、そんなとき弟にYtuberにならないか? と言われたんですね」
「おお、そうです、弟いますよ。今もカメラの向こうにいます。俺、編集とか出来ないんで弟にやってもらってるんですよ」
「弟は出ないんですか? 出ませんね。聞いたら、兄さんと比べられたくないって言われました。皆さん、そんなことしませんよねえ」
「歌ってみた毎日聞いてます。ですか。ありがとうございます。嬉しいですねえ。これからもちょくちょく歌ってみた出していこうと思っているのでよろしくお願いしますね」
「人力ボーカロイド化されていますがどう思っていますか? えっ、人力ボカロになってるんですか?! い、いやまあ、すごいですねえ。そうなんだ。あとで調べてみますね。……変な事しゃべらせてないですよね?」
「えー、好きな食べ物はなんですか? いやこれねえ、答えると買い占める人出てきちゃうので答えられないんですよねえ。なので今飲んでるこれは某ミネラルウォーターなんですが、ラベルを剝がしても形状で特定されたりするので百均のピッチャーに移してます。……百均のピッチャーを買い占めたりしませんよね?」
「ん? なに? えっ、もう一時間たったの? ありゃー。楽しい時間はあっという間ですねえ」
「次回は予定していませんがまた近いうちに生放送しますので140をチェックしてくださいね」
「それでは皆さんまたお会いしましょう」
手を振って一礼。
「おっけー。終了したよ」
「ふー」
「おつかれ。楽しそうだったじゃん」
「ああ、疲れたけど結構楽しかった。まるで友達と話してるような……南とか近本元気にしてるかなあ」
「連絡はとってるんでしょ?」
「連絡だけな」
あいつらも俺に関わらなきゃまともな学校生活おくれただろうに。お節介どもめ。なんか声聞きたくなってきたな。久しぶりに通話するか。
「風呂入る?」
「先入っていいぞ」
「んじゃお先」
さて、通話つながるかな?
☆
「元気そうだな」
「ああ。って通話かかってきた。ははは、本条だ」
「はは、久しぶりにだべるか」
「そうすっか」
南と近本は五パーセントです