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「梅下さん梅下さん」
「ん、どした、坊」
「あのねえ、お願いがあるんだけど」
「あー、一応言ってみろ」
「カップラーメン食べたいんだ。皆に内緒で」
「なんでだよ。母親の飯で我慢しとけよ」
「母さんのご飯はそりゃあうまいけどさ、それとこれとは別じゃん。……昨日の夜さ、友達と通話しててさ、学校帰りにコンビニで買い食いした話になってさあ」
「はん。食いたくなったわけだ」
「うん」
「で、買ってこいってか?」
「お願いできる?」
「俺ぁ、警備であって使いっ走りじゃねえんだぞ。……まあ次の休憩の時に買い出しついでに買ってきてもいいが。どこで食うんだ? ……離れで俺と一緒に食うのか」
「そうなるね」
いやあ、梅下さんは優しいなあ。
「はあ。で、なんのカップラーメンだ?」
「新発売の担々麺のやつで」
☆
なんつーか。普通のガキだよな。坊は。話聞いた時は可哀そうな子供だと思ったもんだが、そんなそぶりはあまり見せない。聞いた話だけでも性格歪みそうなもんだが。
可哀そうな子供は紛争地帯で吐くほど見たが、坊の可哀そうさはベクトルが違う。恵まれすぎて可哀そうなことになるってのもなんつーか。
えーと。頼まれたのはこれだな。あとは松田の煙草と、大竹さんの飴だな。あとは……俺もカップラーメン食いたくなってきたな。一人で食うのは侘しいだろ。食うか。何にするかな……。
☆
ズルズルー。
「うーんこれこれ」
「坊ってなんでもうまそうに食うよな」
「……俺にとっちゃ食事は人生の楽しみの半分だよ」
「食う寝るヤるで三分の一だと思うが」
「やる相手出来ると思う?」
「よりどりみどりだと思うが」
「あー、違った。俺がやりたいと思う相手は出来ないと思う」
「やりたい相手って? 外見じゃなくて中身を見てくれる相手とか言うなよ」
「」
「図星かよ。無茶言うな」
「無茶かなあ」
「無茶だろ」
むう。ズルズルー。カーチャンの飯とは違った良さがあるよな。こういうジャンクなフード。
「ふう」
「満足したか」
「うん。……またお願いしてもいい?」
「ああ? んん、まあタイミングが合えばな」
「それでいいよ。ありがとね梅下さん」
「せいぜいばれないようにな。俺ぁ聞かれたら答えなきゃいけねえからな」
「お仕事だもんね。分かってるよ」
「ならいい。そろそろ休憩も終わりだ。戻んな」
「うん。それじゃね」
☆
はあ、甘いな俺も。だがまあ、可哀そうなガキの慰めになるんだったら、まあ、いいか。
☆
「兄さん? もしかして」
「黙秘します」




