23
「どしたのじいちゃん」
夕食をとっているとじいちゃんがやってきた。忙しいじいちゃんにしては珍しい。
「今日は色々あってな。夕方からの予定はキャンセルした」
「なにがあったの……あ、聞いてもいいやつ?」
「うむ。お前に関係がある。……銀一。政治に興味はあるか?」
「政治と野球とおでんの具に興味は無いよ」
「そうか。……おでん? いやまあそれならいいんだ」
ふむ?
「何の話?」
「あー、ある政治家がな。お前を紹介してくれと言ってきてな」
「……もしかして俺の信者に票を入れさせろって話?」
「そこまであからさまには言ってはいないが、おそらくお前のことを巨大な票田だと思っているはずだ」
「うへえ……そういうこと考えるってことは五パーセントかな?」
「多分な」
「断れる?」
「是非断ってくれ」
「じゃあお断りだよ。勘弁してほしい」
大体、将来選挙の時どうしようかまじで悩んでるんだぞ。
「よし。そう言ってくれると助かる。ああ、ひかりさん、すまんがなにかつまめるものでも頼めるか」
「はい、今用意しますね」
カーチャンがじいちゃんの前に緑茶を置いて台所に戻って行った。
「ふー。……最近はどうだ、銀一」
じいちゃんが緑茶を一口飲んで気の抜けた様子で尋ねてきた。
「どうって、まあ、ぼちぼちやってるよ。配信者活動の方はいつものローテーションでマンネリ気味だけど」
「ふむ。視聴者の反応はどうだ? マンネリ気味だろうが喜んではいるだろう?」
「そうなんだけどね。でもやってるこっちとしては不安になるよ」
「ふうむ。……そういえば英語の勉強をしているんだったな。ならそれを生放送でやるというのはどうだ? 教育者……どこかの教授やら塾の講師やらが動画で授業している逆だな」
「需要あるかなあ。あ、でも視聴者と一緒に勉強するって形にするといいかも?」
「まあ、そこらへんは自分で詰めてくれ。おお、ひかりさん、すまんね」
カーチャンが揚げ出し豆腐に大根おろしを添えたやつをじいちゃんの前に置いた。うまそう。
「……うむ、うまい」
じいちゃんもえびす顔だ。やっぱカーチャンの飯は最高やな!
「あれ? どうしたのおじいちゃん」
風呂上がりの弟がやってきた。
「なに、色々あってな。疲れたんで休みに来たんだ」
政治家云々の話は弟にはしないらしい。
「? そうなんだ。いつも忙しそうだもんね」
「うむ。……最近はどうだ晃」
「うん? まあ、ぼちぼちやってるよ。なんか兄さんが新しいネタが無いってうるさいけど」
「ははは。そう言ってやるな」
むう。青椒肉絲もぐもぐ。うまーい。
「ふー。なんだか眠くなってきたな。……ひかりさんすまんが泊まっていってもいいか」
「あ、はい。なんならお風呂もどうぞ」
「うむ……」
大丈夫かなじいちゃん。無理せず長生きしてくれよ。




