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「うん、すごい勢いで視聴回数まわってるね」
「チャンネル登録者数も既に十万超えたな。ごんぎつね朗読動画一本だけなのに」
「このまま投稿していけば収益化も通るね」
「はえー」
うーん、実感が無い。
「次はどうする? また朗読動画撮る? それとも生放送?」
「生放送はまだ怖いから勘弁してくれ」
「じゃあ朗読?」
「いや、俺の紹介とされたら嫌な事を撮ろう」
抑止力にならないだろうか。一応チャンネルの自己紹介の欄にある程度書いてはあるが。
「信者は言う事聞くだろうけど……」
誘拐未遂とかしそうな奴は聞かないだろうな。まあ言わないよりましだと思う。なので早速撮影に入る。
「どうも初めまして。先週投稿した動画を観てくれた方はありがとうございます。俺の名前は知ってる人は知ってると思うけど本名は出さないでくれると助かります。ただ、銀一とだけ。それだけでお願いします」
カメラに向かって一礼。
「それと、住所を調べて家に来るのはやめてください。過去に何度も警察沙汰になっています。重ねてお願いします」
また一礼。
「さて、俺、銀一は見ての通り、聞いての通りの人間です。前の動画のコメントにCGですか? とありましたが生身の人間です。……ただの漫画とゲームが好きな中卒の引きこもりです」
思わず苦笑が漏れる。
「引きこもりになった理由は純粋に外が怖くなったからです。正直何をされるか分かったものじゃないので身を守る為とこれ以上犯罪者を出さない為に引きこもっているわけですね」
カメラの向こうにいる弟も苦笑している。
「まあ、これからはYtuberとして色々動画を投稿したり、心の準備が出来たら生放送したりするのでよろしくお願いします。短いですがこれにて動画は終わりとさせていただきます。それでは」
一礼して手を振る。……ふう。
「オッケー。なんかいい感じの音楽とか編集でつけとくよ」
「頼んだ。俺も編集出来た方がいいんだろうけど……」
「いいよ。それより歌の練習しといて」
「やっぱり歌わないとダメか?」
「せっかくうまいんだからさ、どんどん歌っていこう」
「むう」
神様に歌の才能貰ったけど自分じゃうまいのかどうかいまいちわからないんだよな……。音楽の授業で歌ったらみんな泣いてたけどさ。音楽の先生はこの歌を聴く為に生きてきたんだとか大袈裟なこと言うし。
「しかし歌か。何歌おうかな」
「なんでもいいよ。それこそ童謡とかでも」
「最近の曲は難しいのが多いからなあ」
「父さんみたいなこと言わないでよ」
前世含めると父さん越えちゃうからしょうがないだろ。
「……子守唄でも歌うか。寝る前に聴いてくれるだろ」
「寝れなくなるんじゃない? ……そうだ、朝起きた時に兄さんがおはようって言ってくれるの需要あるから動画撮ろう」
「おはようだけでいいのか?」
「そうだね、挨拶一通り撮ろうか。」
「了解」
おはよう、おやすみだけでなくいってらっしゃいやお疲れ様とかを撮った。
「オーケー、編集とかほとんど必要ないからさっさと投稿しちゃおうか」
「まだちょっとこわいんだよな、投稿するの」
「まあ、すぐ慣れるでしょ」
そうかなあ。外に出るのと同じくらい怖いとは言わないけどさ。似てるんだよな、怖さ。
「そろそろ夕飯だから下降りよう」
「そうだな」
まあ、もう一回投稿したんだ。二回も三回も変わらんか。どうにでもなーれ。
☆
朝起きるのが憂鬱だった。
仕事に行くのが憂鬱だった。
仕事自体が憂鬱だった。
家に帰るのが憂鬱だった。
妻との会話が憂鬱だった。
夜眠るのが憂鬱だった。
だが今は。
朝の目覚めが素晴らしいものになった。
意気揚々と仕事に行けるようになった。
意欲を持って仕事を出来るようになった。
家に帰るのが楽しみになった。
妻とは会話をしなくても通じ合えるようになった。
安眠を確信して眠れるようになった。
全ては彼のおかげだ。
彼は愛だ。
ああ、世界は愛に満ちている。
☆
「コメント欄こわ」
「また? ……うわ」