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「当たり前のようにクリア出来なかったわけだけれども」


「俺が下手じゃなくてもクリア出来なかったと思うんですけど」


 とんでもねーゲームだった。


「まあでも良かったね、ゲーム作った人喜んでくれて」


「ああ、どういう反応されるか怖かったんだが」


 売上爆増したらしい。本当に良かった。一時間の苦行が報われた気がするぜ。


「視聴者の反応も面白いよね」


「なんか敵討ちとか言ってるよな」


「配信者の人達がやってるね。敵討ちクリアチャレンジだって」


「ふふ、コラボは出来ないけどこういう繋がり、なんか良いな」


「そうだね……コラボかぁ。出来るんならしたいところなんだけど。まあ、無理だよねえ」


「うーん……悪い予測しか出てこないなあ」


「だよねえ」


 悪ければ相手が炎上、良くてもコラボ依頼がひっきりなしに来てパンク、みたいな。


「ま、それはそれとして、ついに黒耳が届いたわけだけども」


「届いちまったな」


「覚悟決まった?」


「黒耳だけで三十万したからな。周辺機器含めるともっと。気合も入ろうってもんよ」


「おー、いつになく前向きだね」


「ASMR配信を聴きまくって勉強もしたしな。万全よ」


「……どんな配信聴いたの?」


「これとか」


 マウスぽちぽち。


「女の人じゃん」


「これとか」


「……男性だけど声無しじゃん。男性の声有りは?」


「……俺も、やっぱり、男ってことなんだよな」


「聴いてないわけね」


 差別するわけじゃないんだけどなんか聴く気にならなかったんだよ。


「参考にするなら男性の声有りを聴くべきだと思うんだけど。……ん、いやまてよ、これはこれで、アリ、か?」


「あん?」


「まあ、初めてだから探り探りやってみるのもいいかもね」


「そうか? それじゃあお兄ちゃん張り切って配信しちゃうぞー」






 よし、始めよう。囁き声を意識してゆっくりと。


「どうも、こんばんは。今日は届いた黒耳を早速使ってASMR配信を行います。よろしくお願いしますね」


 癒し系ASMRお姉さんの魂よ! 今こそ我に宿らん!


「では、ん、んんっ。……今日も一日お疲れ様です。疲れた皆さんの為にお耳のマッサージをしますね……」


 すりすり。すりすり。


「ゆっくり、力を抜いて、そう、ゆっくり、ゆっくり……」


 すりすり。すりすり。


「深く、深く、沈む様に、深く、深く……」


 すりすり。すりすり。


「あなたは今日一日頑張りました……あなたにはゆっくり休む権利があります……」


 すりすり。すりすり。


「目を閉じて……力を抜いて……何も考えず……」


 すりすり。すりすり。


「あなたはだんだん眠くなる……」


 すりすり。すりすり。


 ………。


 ……。


 …。







 …。


 ……。


 ………。


 ──ぅあ?


 あぅぁ──。


 あー。







「コメント欄が過去一支離滅裂」


「こりゃひどい。草でもキめたのかな?」

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