交流は深まった
ハンナに朝早くから起こされた。
「いつの間にか寝ていた」
食堂に軽い食事が用意されていた。昨日のパーティーの後片付けなどで徹夜をしている使用人もたくさんいるので“疲れた”などとは言えない。
「まさか奥様を待てないほどに疲れていたとは……久しぶりに奥様と過ごす筈でしたのに」
ハンナの小言を聞きながらコーヒーを飲む。
「起こしてくれても良かったんだぞ? リュシエンヌに申し訳ないことをしたな」
「そうお思いなら、休みを取って奥様と坊ちゃまとお過ごし下さいな。奥様はそれが一番喜ばれますよ」
ハンナから見てもリュシエンヌに何かプレゼントしろ。とかではないんだな。女王とエリック殿下が滞在中は家に帰れそうにない。
「ハンナ、リュシエンヌは今日も公爵家に泊まるんだったよな?」
両親がニコラと過ごしたいと言った。こんなことがなければ、こちらからは中々顔を見せに来れないしリュシエンヌも快諾していた。
「はい。大奥様はニコラ坊ちゃんのお顔を見ると若返るそうですわ」
ニコラが可愛いと喜んでいるからな。
「可愛がってくれるのは良いが、小さい時から甘やかしすぎるのもどうかと思ってしまう。厳しくする時は厳しくしないと、将来が不安だ」
「坊ちゃんのあの可愛らしい顔を見て誰が厳しく出来ると言うのですか! 少なく見積もってもうちの坊ちゃんは天使様ですよ!」
厳しくして嫌われたくない。って……教育に良くないな。少なく見積もって天使とは……わがままな子や甘ったれた子に育って欲しくないだけなんだが。まぁ、まだ赤子だし、甘やかされてなんぼの年頃だ。
ニコラは髪の色こそ私に似たがライトブルーの瞳はモルヴァン家の良いところを引き継いだ!
「そろそろ行くかな。ハンナも朝早くから悪いな」
席を立とうとする。
「奥様が見送ると言っていたのですが……奥様もお疲れでしょうから、」
まだ早朝といっても良い時間。社交を再開したばかりで疲れているだろう。
「起こさなくていい。寝顔を見れただけで十分だと伝えておいてくれ。それとリュシエンヌが屋敷に戻る時に花を用意させてくれ」
リュシエンヌに感謝の気持ちを込めてピンクで大輪のガーベラをアレンジしてもらってくれ。と伝えた。
「それはようございます! お喜びになりますわよ」
「リュシエンヌとニコラを頼む。行ってくるよ」
公爵家の使用人達に見送られた。忙しいのに手を止めさせてしまったな……数年ぶりに実家に泊まったような気がする。
馬車に揺られ、王宮に到着した。朝の予定は陛下と王妃との会談だったな。
「閣下、エリック殿下がお呼びです」
「何かトラブルでもあったのか?」
「いえ、そうではないようですが、閣下が登城したら伝えて欲しいと言われました」
当番の騎士に言われエリック殿下の元へ行く。
「グレイソン殿朝早くからご苦労様。今日の予定を一部変更したくて相談に乗って欲しいんだ」
「女王陛下はどうかされましたか? 体調を崩されたとか……」
公爵家で口に入れたものが合わなかったとか? それなら大問題だ!
「……いや、それは大丈夫なんだけど、疲れているから休んでもらう事にした」
なんで顔を背けるんだ? 耳が赤いのも気になる……あぁそうか。女王に迫られたのか。なるほどな。
「仲が良いようで何よりです」
って私は何を言っているんだろうか……
「っ! まぁ、うん。そうだね。初めはリル王国へ行くのを躊躇っていたんだけど、行ったからには女王を支えていきたいし、両国の為に何かをしたいと思って探している途中なんだ」
大人になったな……昔は可愛いだけだったのに。
「そうですか。エリック殿下の気持ちを女王陛下が聞くと喜ばれるでしょう」
「どうかな? 彼女は強い人だから“不要”と言われるのが怖いだけかもしれない。グレイソン殿、私がリュシエンヌを好きだったことは知っている?」
「……えぇ」
「私の初恋はリュシエンヌだったんだ。リュシエンヌに婚約を申し込むタイミングが悪くて、バカなことをしてしまった。後悔しかなかった」
「今もしていますか、後悔?」
していると言われてもリュシエンヌは私の妻なんだけど。
「してないよ。今のリュシエンヌはとても幸せそうで、グレイソン殿の事を深く愛しているというのも伝わった。リュシエンヌは私から見て大人びた綺麗な令嬢というイメージだったのだが、グレイソン殿といる時のリュシエンヌは可愛らしくてイメージが変わったよ」
リュシエンヌは出会った時から可愛い。
「それは、なんとお返しして良いのやら、」
「初恋の話を彼女に聞かれたことがあったんだ。それでリュシエンヌの話をしたら興味を持たれた。彼女は私のことを思って幸せじゃなかったら国に連れ帰っても良いわよ。なんてバカなことを言っていた。もう終わった話なのに」
は? 女王には自分をもっと大事にしろ。と言いたいな!
「差し出がましい話ですが……女王陛下はエリック殿下が、相手で良かったと言っておられましたよ?」
「グレイソン殿にそんなことを言ったのか? 短期間でそこまで心を許せる相手になっているとは……私は時間が掛かったのに」
「エリック殿下は女王陛下に言葉で気持ちを伝えた方が良いですよ。きっと喜ばれると思います」
「ははっ。強面のグレイソン殿からそんなアドバイスを受けるとは……リュシエンヌのおかげですか?」
「……まぁ、そうですね」
リュシエンヌ以外にそんなことを言える訳がない。私の唯一はリュシエンヌだからな。




