王子からの手紙
お断りしましたわよね? なぜまたお誘いが?
「お嬢様……お返事を」
手紙を持ってきたメイドが恐る恐る言いました。殿下からの手紙を手にするだけで責任重大ですものね。
婚約破棄をしたばかりなのに変な噂が立ってしまっては殿下にご迷惑をおかけしますもの。追伸として気持ちは落ち着きましたので、ご心配なく。こんな感じで失礼はないでしょう。
「お待たせしてごめんなさいね。殿下の遣いの方にお渡しするように頼むわね」
メイドが持っていった手紙は執事にお願いすれば上手く渡してくれるでしょう。お休みも残り五日ほどで、明日は友人達とお茶会の約束がありますの。婚約破棄したことを伝えなきゃいけませんわね。たった三ヶ月の婚約者でしたけどね。思い返しても大した思い出がないのね……三ヶ月ですもの。
翌る日友人宅へと馬車を走らせた。時間にして二十分ほど。今日は天気が良くてお出掛け日和ですわね。
「リュシエンヌ! よく来てくれたわね」
お茶会の主催者はうちと同じく伯爵家のセシリーのお宅でした。他の参加者は子爵家の令嬢が二人の計四人でのお茶会です。
「わたくしが最後だったかしら? お待たせして申し訳ないわ」
お土産のアップルパイを渡した。
「時間通りよ。二人は先に来ていてお庭の散策をしていましたわ」
セシリーのお宅のお庭は見どころ満載ですものね。今の時期は……例の場所かしら?
「リュシエンヌ、今日の会場は、」
「「乙女の庭!」」
声が重なったところで二人で笑い出す。
「大理石の天使像素敵よね。おばさまのご趣味なのでしょう?」
「えぇ。お母様の希望で作られたエリアよ。お茶会といえば=乙女の庭でしょう? 乙女が好きな物が詰め込まれているお庭ですもの」
通された【通称乙女の庭】では大理石の天使像やタワードーム形をしたガゼボが迎えてくれますの。圧巻ですわ!
「お茶会をすると言ったら、乙女の庭でなさい! とお母様に強く勧められたの」
「楽しみですわ」
お庭を堪能してからお茶会のスタートです。わいわいと話をしているとおばさまが来て挨拶をしました。
「楽しそうね。お邪魔じゃなかったら少しお話ししましょう」
皆、勿論ですわ! と返事をする。
「いつもセシリーと仲良くしてくれてありがとう。リュシエンヌちゃん、今度は婚約者も連れて遊びに来てくださいな」
おばさまは小さな頃から良くしてくれて、おばさまと呼ばせて貰っているのです。
「おばさま、皆さん。お話がありますの」
きょとんとする一同。寝耳に水? といった感じでしょうが……言わないといけませんわね。
「実はこの休みの間に婚約破棄されてしまいましたの」
「「「「え!?」」」」
固まってしまいましたわね……
「驚かれて仕方ありませんわ。理由は性格の不一致ですのよ。まだ婚約して三ヶ月ですからお互い愛情もありませんでしたし、ここ何日かで十分落ち着きましたのでご安心くださいませ。書類も提出しましたので、わたくし婚約者募集中ですのよ」
心配かけまいと、婚約者募集中なんてはしたない事まで言ってしまいましたわ……
「性格の不一致だなんて……失礼な令息です事! しばらくコリンズ伯爵家とはお付き合いしたくありませんわ!」
おばさまはぷんぷん怒っていますわ……
「リュシエンヌは美しくて優秀で私の自慢の親友なのに、コリンズ子息一体何様なのよ!」
「許せませんわ!」
「女の敵ですわ!」
「……皆さん怒ってくれてありがとうございます。でも良かったのですわ。結婚をしてしまったらやり直しはききませんでしょう? たった三ヶ月ですもの。まだやり直しは出来ますわ。わたくしってラッキーですのよ」
ふふっと。笑ってみた。
「リュシエンヌちゃんがそういうのなら……でも一方的な婚約破棄は家の信頼を落としてしまいますわ。許せる事ではないですから」
「……コリンズ伯爵家は令嬢がいるから今後の対応次第で大変な事になりそうね」
貴族社会とは噂が大好きですからねぇ。無傷というわけにはいかないと思いますが……
「コリンズ伯爵は立派な方ですし、奥様も良い方です。暫くは厳しい目で見られるかと思いますが……」
楽しいお茶会が私のせいで台無しになるのも耐えられませんので、話題を変えなくてはいけません。
「わたくしからの報告は終わりですわ。いずれ分かることですから皆さんに報告したまでです。この話は終わりにしてくださると助かりますわ!」
「そうね。リュシエンヌちゃんならすぐに相手が決まるわよ! なんならうちの息子も候補に入れてちょうだい!」
「お母様っ! お兄様にリュシエンヌは勿体無いわよ!」
「そうね……」
おばさまとセシリーのおかげで場の空気がまた明るくなった。持つべきものは友だわ!
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