グレイソンの怒り
リュシエンヌの話を聞き、シオンに対しての怒りが収まらない。こんな姿をリュシエンヌに見せる訳にはいかない。
「リュシエンヌ、話を聞かせてくれてありがとう。今日は屋敷へ帰った方が良い。私はまだやる事があるんだ」
奴らの今後について……
「……嫌です。レイ様といたいです」
「……困ったな」
「レイ様といます……」
そんなことを言われて断れる男はいるだろうか? いや、いない。
「少し待っていてくれるか?」
こくん。と頷くリュシエンヌ。まずはリュシエンヌの気持ちを優先させることにした。レオンにあの二人を任せてあるから今頃……
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~レオン視点~
「レオン様! 私は悪くないの! そこのシオンに騙されて」
「嘘をつくと更に罪が増えるだけだ。シオンとお前の供述が全く違う。伯爵家の使用人からお前が実行犯だと供述を得た」
「ひどいですわ! 片方の意見だけを信じるなんて! 私とレオン様の仲ではないですかっ!」
「お前が差し入れをしていた怪しい食べ物だがようやく解析結果が出来た。焼き菓子にアヘンを混ぜるなんてどんな神経をしているんだ!」
ぱっと見は全くわからないし、このオンナから渡されたものではなかったら口にしていたかもしれない!!
「そんなものは入れてないわ! 小麦粉と強壮剤、」
強壮剤?!
「中毒性のある悪の華を使ったものだ!」
分析結果のレポートをオンナの前に出した。
「……う、うそでしょ? 嘘よ。だって、」
「試食で頭がイカれたからそういった行為に出たのだろう。ヤク中としてお前は専門の刑務所へ入れることになる。お前の執着や思い込みや強烈な性格はヤク中によるものかもしれん。徹底的に調べることになるから覚悟しておけ」
歳の割に皺があり、目の下にクマがはっきりとある。化粧で誤魔化しているつもりでも時間が経てば崩れる。こうやってみると違和感だらけだ。みるみるうちに目が血走っていく。
「いやよ! 私はレオン様と一緒になるのっ。レオン様は私のヒーローで」
「煩いな、お前は私の顔が好きなんだよな?」
顔が好きだと言われ続けていた。このオンナはただそれだけ。他の好みの隊員にもそう言い差し入れを渡していた。念の為口にしないようにと言ってあるが……
「……レオン様?」
懐から短剣を出し、自ら頬に短剣で斬りつけた。
「きゃぁぁっ…………」
「これで私の事は忘れろ」
「レオン様のかお、私のすきな、レオン、さ、ま」
泡を吹いて倒れた。それを見てバカバカしく思えた。ここにきても私の顔だと? お前の好みの顔に生まれたからこんな事が起きたのか……くそっ!
扉を閉めた。うなされているようだが、知らん。
「目を覚まして五月蝿いようなら猿轡でもつけとけ。ソレル子爵に連絡は付いたか?」
「はい。もうすぐ到着するかと」
「分かった」
……良いよなグレイは。内面を見てくれて尚且つ、瞳が綺麗だとか声が素敵だとか知性があって……なんて言ってくれるリュシエンヌちゃんがいて! 若いしキレイだし可愛いし、控えめで、お菓子作りまで……
言っちゃなんだがめちゃくちゃタイプだ! どこで出会うんだよ! この件が片付いたら絶対に婚活をする!! 私の中身を見てくれる子を見つけるぞ。
とっとと終わらせる為に、シオンの元へと行く。婦女暴行未遂及び監禁は騎士として男として人として許される事ではない。
あのオンナに騙されたと言っているが、だからどうした? と言いたい。それにグレイに嫉妬していた。なんて通用するわけがない! 廊下を出るとちょうどグレイと会った。
「シオンの件だが、」
「上に伝えておいた。騎士団を除籍とし辺境に移動だ。あそこは魔獣被害が未だ続いているから腕の立つ奴が行く事に反対はなかった。シオンの父親に連絡をしたらすぐに来た。応接室にいるから話に行くぞ」
「おう」
グレイは流石に仕事が早い。
「ところでその顔はどうしたんだ?」
そろそろ血が止まる頃だ。表面しか切っていないからな。その方が血が出て驚くだろう?
「ちょっとな……」
「必ず医務室へ行けよ」
なんとなくグレイは察したのかそれ以上は言わなかった。
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~少し前~
モルヴァン伯爵家に遣いを出しリュシエンヌの両親に来てもらい、隊長として謝罪をした。
「レイ様は悪くないの! 私が油断をして、」
「リュシエンヌは黙りなさい。騎士団でこういった事が起きたということが問題なんだ! グレイソン殿どうなんだ!」
怒りを露わにするモルヴァン伯爵。
「……はい。隊員が騎士団でやらかした事は私の責任といえます。いかなる罰でも受けます」
「絶対にこの事が世間に漏れないようにしろ! リュシエンヌを守ると約束したよな!」
「それは勿論のことです。この件に関して知っているものは私の部下で副隊長レオン、実行犯の二人、伯爵家の使用人二人です。連行するにあたって携わった騎士達は内容は知りません。規律違反を犯した騎士を捕らえたとなっています。騎士団本部に報告する義務はありますが、令嬢が関わっていますので漏れることは有りません」
深々と頭を下げた。
「リュシエンヌ、怖かったよな。よく無事でいてくれた……」
夫人に抱かれているリュシエンヌの頭を伯爵が撫でた。
「リュシエンヌはこんな事があって、グレイソン殿を信用出来るか? 一緒にいる価値のある男か?」
……そうなると想像はしていたが、実際に聞くと辛いな……
「お父様、わたくしはレイ様の事を信用しています。レイ様は絶対に助けに来てくれると思っていました。レイ様も辛い思いをされたのですわ。レイ様と一緒にいます」
……こんな私でも良いというリュシエンヌを愛おしいと思わずにいられない。
「おい……もしリュシエンヌをまた危険な目に遭わせでもしたらその命に変えて償ってもらうから覚悟しておけ」
「……約束します」
モルヴァン伯爵はリュシエンヌに似て、綺麗な顔立ちをしている。そして怒りに満ちた顔はとても迫力がある。伯爵は家に連れ帰ると言っていたがリュシエンヌは私といたいと言う。無理やり連れて帰ろうとすると夫人が無理強いは良くないです。と伯爵を宥めていた。
「リュシーがグレイソン様といたいと言うのならそうさせてあげましょう」
伯爵が折れた。この家でいちばん発言力があるのは夫人なのかもしれないな……
「すみませんが、まだ時間が掛かるのでその間はこの部屋に居てください。リュシエンヌを頼みます」
あまり待たせるわけにはいかないが、報告だけはしといて後の処理を考えないといけない。




