グレイソンの怒り
「今すぐにリュシエンヌから離れろ!」
リュシエンヌの胸に顔を埋めるシオンに怒鳴りつけるつもりが先に体が動いてしまい、シオンの首根っこを掴み剥ぎ取った。
「リュシエンヌ大丈夫か!」
リュシエンヌの両手と足はロープで……信じられない光景に目を疑りたくなった。現実であって欲しくない。すぐさまロープを取ろうとするが手が震えて中々解けないでいた。
「レイ様……」
「リュシエンヌ……すまん少し目を瞑っていてくれ」
懐に忍ばせている短剣を取り出しロープを切った。リュシエンヌの肌に傷がつかないようにそっと。ようやく手足が自由になったリュシエンヌはホッとしたようで、私に抱きついてきた。
「絶対にレイ様が助けに来てくれると思っていました……」
「遅くなって悪かった。心細かったよな……よく頑張った」
私に出来ることは震えているリュシエンヌを抱きしめることだけだった。なんて無力なんだろうか。
「リュシエンヌちゃんが無事でよかった……何か変なこと、」
「レオン、それ以上言うと(殺す)」
変なこと? リュシエンヌの心の傷を抉るな! レオンを思い切り睨みつける。
「……グレイ、リュシエンヌちゃんが潰れるぞ」
「は、すまん。苦しかったか……」
思ったより力が入ってしまったか……華奢なリュシエンヌが潰れるところだった(決してリュシエンヌは華奢ではなく女性らしい体つきでグレイから見たら小さくて華奢に思えるだけ)
「いいえ。レイ様」
そう言ってからまた抱きつかれた。リュシエンヌの背中を優しくさする。リュシエンヌの温もりを感じる事が出来て安心した。
「さて、どうするかね……」
レオンが珍しく恐ろしい口調と顔でシオンとソレル子爵令嬢を見た。普段の優しい顔はそこにはない。
「まぁ。レオン様ったらそんなに怖いお顔をして……わたくしはただそこの令嬢とシオン様の逢引き現場を目撃しただけですのに……」
「手足を縛られた状況で逢引きとは物騒だな。君はそういうプレイが好みなのか?」
「……レオン様になら何をされてもよろしいですわ」
ふふっと笑うソレル子爵令嬢が薄気味悪く映る。
「伯爵令嬢でありグレイソンの婚約者を連れ去ったのはお前たちで間違いないな?」
「連れ去っただなんて! 逢引きですわ! ねぇシオン様」
「そうです。私とリュシエンヌは密かに愛し合う仲なのです。リュシエンヌ、演技は良いから私のところへ」
シオンがリュシエンヌに向かって手を出そうとするがその手を叩く。
「リュシエンヌ、」
ぶつぶつと何かを言い目が虚でいつものシオンではない。それにリュシエンヌの胸がどうとか! そういえばリュシエンヌに抱きついていたな、こいつ。
「これは騎士団内部で起きた不祥事だ」
「そうだな。騎士団の中でこんな事件が起きたなんて世間にバレたら困るよな」
公にするとリュシエンヌが傷物にされた令嬢となってしまい社交界から追放となり、私との婚約も無くなってしまう。しかしこの二人を罰さない訳にはいかないのだ。
騎士団には鉄の掟がある。いや騎士として自分の行いに責任を持たねばならない。
「モルヴァン嬢はもはや傷物ですし、二度婚約破棄されたからと言って世間はなんとも思いませんわ! シオン様が責任を取って新たに婚約を、
「黙れ。その減らず口が叩けないようにするぞ。リュシエンヌが傷物? 二度の婚約破棄? ふざけたことを吐かすな!」
「ひいっ」
騎士団員も恐れるこの顔で子爵令嬢を睨みつける。
「レオン、人を遣すからこの二人を王宮の地下牢へ連れて行ってくれ。話は通しておく」
「分かった。とにかくリュシエンヌちゃんを安全なところへ。メイドと護衛は医務室にいる」
リュシエンヌを探す途中でメイドと護衛を見つけた。眠り薬と痺れ薬を嗅がされたようだが意識があり医務室へ運んでおいた。余計な詮索をされないようにこの件は黙っていて欲しい。と二人に言うと頷いていた。
「リュシエンヌ、まずは二人の安否を確認するか?」
こくん。とうなずくリュシエンヌ。怖かったよな。ごめんな。
二人の安否を確認し私の執務室へと連れてきた。そして温かい茶を出し並んで座った。
「遅くなってすまない……何があったか言える範囲で良いから教えてくれないか? リュシエンヌを守るどころかこんな事件に巻き込まれて。隊員が起こした事は私の責任でもある。すまなかった」
深く頭を下げた。こんな頼りない男をリュシエンヌが嫌いになるかもしれない。捨てられるかもしれないな……
「……頼りなくてごめんな。嫌になっただろう」
リュシエンヌが何も言わないので次に発せられる言葉が怖くて仕方がない。
「……レイ様は私の言葉を信用してくださりますか?」
弱々しい言葉だった。もちろん信用する。
「当たり前だろう。何があった?」
「レイ様が助けに来てくれるほんの少し前まで私は眠っていました。その間のことは分かりませんの。目が覚めてからはあの方に抱きつかれたのは間違いありませんし、手にキスをされて……」
……聞きたくない。が事実確認は必要だ。ぐっと拳に力を入れる。
「それは……怖かったな。ごめん」
リュシエンヌが力を入れた拳に手を重ねてきた。
「レイ様のせいではありませんわ。私が油断してしまいましたし、でも気持ち悪かったです。私は……レイ様が良いです」
ポロポロと流れる涙……申し訳なさと愛おしさが入り混じった。
こんな事があっても私の事が良いと言ってくれるリュシエンヌ……リミッターが外れるかと思った。それだけ私はリュシエンヌを愛してしまった。




