子爵令嬢2
「優しく……」
「そうよ。女の子は優しい言葉を待っているの。自分だけの王子様を待っているのよ」
ここまできて何を言ってるの? 寝ているモルヴァン嬢の顔をただただ見つめているだけだなんて。
両手両足は縛ってあるし、好きにすれば良いじゃない! 好きにしたところで私はこっそり出て悲鳴をあげ、モルヴァン嬢とシオン様が……と目撃者になればシオンに責任を押し付けられる。あの隊長もショックを隠せないでしょうね。
そもそも騎士団は精鋭部隊で、容姿も重要視される筈なのに厳つい強面が隊長なのよ! しかもこれからだという新人相手に容赦なく打ちのめすだなんて!
これは体罰だわ! 投書箱に何度も隊長を副隊長に譲るべきだと書いて出したわ!
やっとレオン様が隊長になれる。と小耳に挟んだの!
やっとあの隊長が解任されるのか。と胸を撫で下ろしたら【本部騎士団副団長補佐官】ですって!! 最短でエリートコースにのってんじゃないわよ!
本部の騎士団長といえばあの隊長の父親でアルヌール公爵が務めていたわ! 退団したから息子を本部に入れるなんて世襲制っていうのよ! と言うことは隊長は特に秀でるところがなくとも騎士団長になれる? ふざけているわ!
容姿が優れていてもっと優秀な騎士がたくさんいると言うのに。陛下も口出さないところを見ると、身内には甘いんでしょうね! それなら第二王子は美形なんだから第二王子を騎士団に入れれば良かったのよ!
なんで遠い国の王配になんてしたのよ! たまにしかお目にかかれない第二王子は人気だったんだから!!
「早く手を出さないと起きちゃうわよ!」
「意識のない令嬢に手を出すなんて出来ない」
こいつバカなの? 意識があったら拒絶されるに決まってるのに……ずっとモルヴァン嬢を見つめてうっとりしているなんて……変態??
「キスでもなんでも良いからしなきゃ、口実が作れないわよ」
「モルヴァン嬢の瞳に私だけを写して唇を塞ぎたい」
モルヴァン譲の頬に手を当てうっとりとするシオン。正直言って気持ちが悪い。
「寝ている姿も美しい……寝姿を見ているだけで食事が進みそうだ」
だから気持ちが悪いんだってば! モルヴァン嬢って変な男を惹きつける才能でもあるのかしら? ……あ、そういえば!
「ほら。モルヴァン嬢の持ってきてたバスケット」
隊長への差し入れでしょう。あんな男と一緒に食事して何が楽しいのかしら? バスケットを受け取り歓喜の声を上げた。
「こんな豪華な差し入れは見た事がない。キレイに並んだサンドイッチ、マフィン、フルーツ。くそ……隊長め。いつもこれを独り占めしていたのか」
サンドイッチに手を伸ばし頬張るシオン。
「はぁっ……なんて美味いんだ。料理が上手なんだね、リュシエンヌ」
急に名前で呼び始めるシオン。料理上手って……そんなのシェフに作らせているに決まってるでしょうに……バカなの?
「マフィンも手作りなのかな? リュシエンヌから甘い香りがするのはマフィンのせいかも……」
モルヴァン嬢に近づき匂いを嗅いでいた……この光景をずっと見ているのも辛いわね……良い加減に目を覚まして欲しいわ……
そしてようやく
「ん、んんっ……」
と声を上げたので私はさっと隠れた。
「リュシエンヌ目覚めましたか?」
シモンが声をかけた。
「……ここは? 確かわたくしは練習場で……」
息がきれそうになっているモルヴァン嬢。意識がなかったのだから仕方がないわよね。そういう薬だもの。
「あぁ、体調が良くないのですね。無理はしない方が良いですね」
いいからとっとと手を出せ! ヘタレ!!
「私がリュシエンヌの看病をしますから安心して下さい」
モルヴァン嬢の手をぎゅっと握り締めているシオン。
「……やめてください、ここはどこですか、私のメイドと護衛をどこにやったのですか」
「リュシエンヌのメイド達は安全な場所で眠っている。少し大人しくしてもらう必要があったから、もうすぐ解放しますよ」
「手を離してください。わたくしはグレイソン様の婚約者ですわよ? もしこんな事が、」
「ですからリュシエンヌを私のものにしてしまいます。隊長より私の方が年齢的に合うでしょうし大事にしますよ」
そっとシオンはモルヴァン嬢の手にキスを落とした。両手を縛られているから抵抗が出来ないみたい。やめて下さい。と口だけは抵抗出来るのだけど、それも時間の問題。騎士の力に適うはずがないものね。
「リュシエンヌ……」
シオンが椅子に座らされているモルヴァン嬢の前に膝をつき、モルヴァン嬢の胸に顔を埋めた……今ね! 部屋をこっそりと抜け出し廊下へ出た。すると隊長とレオン様が……
「……大変ですのよ、こちらの部屋で、」というなり隊長とレオン様が凄い勢いで部屋に入る。自分の婚約者が不貞をしている姿を見てあの女に幻滅すれば良いわ!




