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嫌な予感(グレイソン)


 リュシエンヌはどうしたのだろうか? 来てないのか?


『レイ様の最後の公開練習ですから必ず見学に行きます! お弁当頑張って作ってきます。楽しみにしていてくださいね!』


 とか言っていたんだけどな……リュシエンヌが約束を破るとは思えない。いつもならメイドと護衛を連れて嬉しそうに駆け寄ってくれるのだが……タオルで汗を拭きながら観覧席を見てみる。


「いないな……」



 家で何かあったのだろうか? だとしたら連絡が来るはずだし……



 練習が終わり、おかしいと思い頭を掻きながら歩き出した。リュシエンヌが乗って来た馬車がなかったら伯爵家へ遣いを出そう。忘れている……のか?


 伯爵家の馬車がいつもの場所に停まっていた……


「……なん、だって?」


「お嬢様でしたらメイドと護衛を連れて、閣下の練習を見に行きました。私はいつも通りこちらでお待ちしていました……」


 従者が震えながら言った……しまった。いつの間にか従者を怖がらせていたようだ。



「リュシエンヌの姿が見当たらない……まさか騎士団の練習場で何かあるとは思えないが……嫌な予感がする。君はここで待機してくれ。リュシエンヌ達が戻って来たらすぐにその辺の騎士を捕まえ私の名前を出して報告してほしい」



 駆け出したい気持ちで一杯だが、まずは深呼吸をした。焦っていては周りが見えなくなる。必ず何かおかしな点があるはずだ。


 練習場は公開練習時以外は閉鎖されているから鍵を持って来て開けた。隊長、副隊長しか鍵は持っていない。マスターキーは本部へ預けてある。


 リュシエンヌが見学するときはいつも控えめに後ろの座席にいた。応援隊の令嬢達は座席が決まっているようでいつも最前列の場所を陣取っていた。


 そう思い後ろの座席をぐるりと一周する事にした。特に何かあるわけではなく……ってそうだよな。

 鍵を閉める前に忘れ物がないかチェックをしているからあるわけないか……先に忘れ物がないか見に行こうか……


「……なんだ?」


 キラリと座席の下から何かが光ったように思えた。


「……狭いな。取りにくい」


 座席の間が狭くて腕が入らない……足を使い蹴飛ばし取ることに成功したのだが……


「……これはリュシエンヌにプレゼントした耳飾りだ!」


 ピンクサファイヤのティアドロップ!


「やはり来ていたんだ!」


 耳飾りを手に取り、騎士団の詰め所へ走って行く。





「誰か、リュシエンヌを見たものはいないか!」

 

 知りません。見ていません。と皆が首を振る。



「……そうか、分かった」


「グレイどうした? リュシエンヌちゃんとケンカでもしたのか? 休憩中にお前に会いにこないなんて、」

「レオン、ちょっと来てくれ」


 肩を掴み執務室へと連れてきた。


「なんだ、なんだ?」


「リュシエンヌがいないんだ……今日必ず練習を見に来ると言っていた。伯爵家の馬車はあって従者が言うには、練習場に向かった。というんだがリュシエンヌの姿もメイドの姿も護衛の姿もない。何かあればリュシエンヌのことだから私に遣いを出すと思うんだ……だから……」


 何かあったに違いない。騎士団の練習場で何かあったなんて考えられない……と言うことは……


「リュシエンヌの耳飾りが落ちていた。これは先日私がプレゼントした物で間違いない……ここ(騎士団)で何かあった。となると……」


「……内部犯がいる。と言う事か?」


 レオンの顔が厳しい面持ちに変わる。



「あぁ……顔見知りの犯行だと思う。しかし事を大袈裟にしたくない。誰かに攫われたなんて噂にでもなったりしたらリュシエンヌが……」


 リュシエンヌを悪意ある噂から守ろうと思っていたのに、まさか自分のテリトリー内で……なんて無力なんだろうか。


(攫われたとなると貞操を疑われてしまう……)



「話は分かった。私だって仲間を信じたい。しかしお前の言う通りここで何かあったのなら、内部犯を疑わざる得ない。ちょっと気になることがあるんだが……」


「なんだ! 何か思うことがあったなら言ってくれ!」


「今日さ、休憩中にソレル嬢が来なかったんだよ。ほら、いつもなら他の令嬢を押し退けて来るだろう?」


 ソレル嬢といえばレオンの悪質なストーカー令嬢だ。ソレル子爵家の令嬢……そういえばリュシエンヌから話を聞いたな!


「ソレル嬢といえば、色々と練習場でも騒ぎを起こしているよな? 勝手なルールを設けたり、気に入らない応援隊の子を出入り禁止にしたり……次に何か問題を起こしたらソレル嬢を王宮立ち入り禁止にすると警告を出した」


「応援席には居たんだよ……」


 レオンが思い出そうとしている。


「いつまでいたっけな……」



「ん? 待てよ、それなら私も気になることが……いや、まさか……」


「なんだ? 勿体ぶらないで言えよ。何かヒントがあるかもしれないぞ」


「……なぁ、シオンはどうした?」


 ……休憩になると令嬢に囲まれていた騎士団人気No.3のシオン。練習に出ていたか? 出席は取ったが……



「おい、シオンは今週倉庫番になっている」


 倉庫の管理は当番制となっている。整理整頓をし適正在庫を保つ。当番表を見ていた。


「あぁ、そうだな。ソレル嬢とシオンの繋がりはあるか?」



 レオンはソレル嬢の名前を出すと嫌そうな顔をした。


「……分からないが、あの女は何をするか分からない」


「……倉庫か、行くぞ」


「……グレイ思ったより落ち着いているんだな」


「……軽蔑するか?」


「いや。尊敬する。いかなる時も落ち着きを持って行動するのが我々騎士団の努めだ」


 もちろん気持ちは焦っているが、落ち着いている自分もいる。そんな自分が嫌で堪らない。リュシエンヌの身に何かあったのなら私は──

 

 

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