ですからなかったことにはなりませんわよ?
「そ、そんな……」
「お前も頭を下げろ。最後にそれくらいの誠意は見せなさい」
「……そうだ! リュシエンヌには妹がいましたね! まだ成長途中だから、今のうちに手懐けておけば生意気なリュシエンヌのようにはならない。私はリュシエンヌの妹と婚約を結び直しま、」
「「はぁ?」」
お父様、お母様。人相が悪くなっていますわ!
「どうかリュシエンヌの妹の方と婚約を」
これは……もう黙っていられませんわっ!!!!
「アルバート様、いえ、コリンズ子息! 先ほどから聞いていれば失礼極まりないですわ。わたくしの大事な妹をなんだと思っているのですか! わたくし達はあなたの結婚の道具ではありませんわよ! 妹、妹とパティの名前も知らないのでしょう」
あら。嫌ですわ! つい興奮して席を立って大きな声を出してしまいました! これは醜態ですわっ!
「……コホン。皆様無礼をお許しくださいませ。あまりにも腹立たしくてつい」
あら。嫌ですわ! 腹立たしいだなんて。心の声を隠す事が出来ませんわ。
「本当に生意気な女だ! 無礼にもほどが、」
「リュシエンヌが怒るのも当然だ。リュシエンヌが怒ってくれて私は落ち着くことができたよ。この件にパティを出してきたのは間違っているよね」
お父様が味方に付いてくれるとホッとしますわね。
「はぁっ。嫌ですわ。わたくしこの者と同じ空間に居たくありませんわ……リュシエンヌ後はお父様にお任せしましょう」
ずっと黙っていたお母様は、嫌な顔を隠すことなく言いました。子息を“この者”って名前を言いたくもないのですわね。かなり怒っておられますわ!
「その必要はない。コリンズ伯爵、アルバート殿どうぞお帰りください。これ以上コリンズ伯爵家の醜態を晒すのは得策ではありませんよ? もう話はコレで付いたとしましょう」
コレとは鉱山の書類ですわね。正直言いまして、本当に婚約破棄をしてくれて心からありがとうございます。と言いたいところです。顔も見たくありませんわね。
「……重ね重ね申し訳ありませんでした。お時間をいただきありがとうございました。それでは私共は失礼致します」
「え! 父上」
「言葉を発するな。これ以上恥を晒すな!」
伯爵様は青筋を立て見たことのないような形相で子息を睨みつけました。驚いた顔をする子息は鬼気迫る伯爵様の前でようやく静かになりましたわ……伯爵様は当主らしく子息の責任を取り礼儀を通した……そう感じました。
そしてお二人は帰って行きましたが、今後どうなるのでしょうか。リーディアさんはきっかけにすぎなかったのかもしれません。
それにしてもパティの名前すら知らないなんて信じられません! 元婚約者の家族ですのよ?! 名前の一つ覚えられないなんて最低ですわ。
「はぁっ、やっと帰ったか……アルバート殿必死なのは分かるがまさか、パティを出してくるなんてな」
「伯爵も愛人がいるだなんて……誠実そうに見えて人は分からないものですわね」
お母様がお父様に微笑みながら言っていますが目は真剣そのもの……
「さっきも言ったけれど私には居ないからな! 調べてもらっても構わないぞ。私は自他ともに認める愛妻家だし、そんなくだらないことで家族に迷惑をかけない。それに最近では特に愛人を持つ貴族は冷たい目で見られているんだよ! 王太子妃がそういう者たちを毛嫌いしている」
お父様は既婚者なのに人気があるようで夜会で令嬢にダンスに誘われるのだそうです。お父様がダンスに応えるのはお母様がいる時に限るのだそうですわ。変な誤解を受けたくないからだと言っていますが、お母様は愛されていますわね!
(ダンスを断らない理由は、令嬢の評判に傷がついたり家同士の繋がりを壊したりする可能性、そして夜会はダンスを楽しむ場所であることです)
「そこは信用していますわ。もしそんな女性がいたら子供達を連れて離縁致しますわ」
……お母様はきっと私達を連れて出て行くわね。
「絶対にない!」
お父様は自信たっぷり言う。一度媚薬を盛られそうになった事があるようで更に警戒するようになり、そういった薬に対応する中和剤を持ち歩いていて、パーティーで飲み物を口にすることは無いのだそうです。
お父様曰く媚薬は酒に混ぜると分からなくなる事があるそうで、特にカクテル、赤ワインは混入しやすいのだそうです。
甘い香りがしても怪しまれないんですって! 最近の媚薬は進化しているようで無味無臭のものがあるようですが、味が濃い方が媚薬としての濃度が高いのだとか……お父様とお母様はそういった(媚薬を盛られる)経験があるからこそ私にも教えてくれましたのよね。
社交界とは恐ろしいですわね。媚薬の話は置いといてこれからの話をする事になりましたわ。
「鉱山はリュシエンヌの慰謝料の代わりに貰ったものだから、名義はリュシエンヌにするかい?」
え! 面倒ですわ。