間話〜ハリス&パティ〜
「お姉様良かったね」
「そうだね。安心した」
ハリスとパティは二人お茶を飲みながら話をしている。
「お姉様、元気がなかったものね」
「そうだね。元気そうに見えていたけど空元気だって分かっていたから見ていて辛かったよね」
「お姉様、恋してる。って気がついてなかったのよ! 凄くない? あんなに楽しそうにお菓子を作っているお姉様を初めて見たわ。このお茶は閣下から頂いたの。クッキーに使うお茶は閣下から頂いた物を使いたいのだけど、大丈夫かしら? ってシェフに相談していたもの。お義兄様から頂いたチョコレートを一つだけね? って私達にもくれたわよね」
大事にちょっとずつ食べていたのに、僕とパティにも分けてくれた。遠慮しようと思ったけれどあーん。ってされたら自然と口を開けてしまった。美味しかったけどね。
「姉様ってさ、不思議だよね……エリック殿下は王子だし顔もいい。初対面の時は悪い印象じゃなかったから僕はエリック殿下と姉様がくっ付くと思っていたんだよね……元婚約者は無いとして」
「初対面? なんでハリスが知ってるのよ!」
「数年前に姉様と出かけた時に雨が降って、雨宿りしていた時に先客がいたんだ。黒い髪の毛をしていたけれど、あの時の先客はエリック殿下だったからね。姉様は気がついてないのかも」
「へぇ。雨の日に出会うなんてロマンチックね。殿下は姉様に婚約を申し込むまでだったのにどこで間違えたんだろうね? お義兄様は上手くいったのに」
「姉様に変化球は通用しないんだよ。婚約破棄をされて嫌な思いもしただろう? 平然と振る舞っていても婚約破棄をされた。という事で後ろめたい気持ちがあるんだと思うよ。気にしなくてもいい。って周りが言うたびに申し訳なさそうな顔してたし」
「だから大人のお義兄様に惹かれちゃったの? お義兄様は怖そうに見えるけれど、お姉様といると優しそうだし、お姉様も可愛らしく見えるよねっ。大人の包容力っていうのかなぁ?」
リュシエンヌの作ったクッキーをさくさくと食べながらハリス&パティは話をしていた。
「……それは義兄様だからじゃ無い? 本の趣味も合うみたいだしね。若いのに古代語が共通の趣味なんて……義兄様は古代語に造詣が深いようだし、なんたって騎士様だろ? 姉様の愛読書には騎士様の本が多いんだ。令嬢憧れの職業は騎士だろ? 姉様は口に出さないだけで無意識に憧れているんだよ」
今度義兄様にこっそり教えてあげよう。喜びそうだ。
「騎士様ってキラキラしたイメージがあるけれど、お義兄様は無骨な感じがするわね、でも浮気の心配はなさそう……? お姉様しか見てない。って雰囲気だったよね! それに隊長さんで公爵家の人って凄くない? うちと釣り合う? 苦労しないかな……」
「公爵家は長男の方が継ぐからそこは良いとして……たまたま好きになった相手が義兄様だったんだろ。公爵家だって王族の血は流れている……って凄いな姉様は!」
「しっかりしているように見えてちょっと抜けていて、見た目は綺麗なのに中身は純粋で可愛いんだよ? お姉様を知れば知るほどお義兄様は夢中になるわね!」
「もうなってるって……婚約に向けての準備も早いよきっと?」
******
それから恋人期間とやらを得て、あっという間に婚約をして、今度は結婚準備なんだって! あれから義兄様と何回も顔を合わせた。顔は怖いけれど僕たちに歩み寄ってくれる。僕達も義兄様が好きだ。
「へぇ、ハリスは学年で三位なのか? 凄いな、優秀なんだな」
「そうなんです! ハリスは頑張り屋さんなんです」
義兄様が僕達に話しかけてくれるんだけど……
「ハリスやパティに縁談の申し込みが殺到していると聞いたが……」
「うちの子たちは可愛いのでしんぱ、」
「姉様、心配は不要だから義兄様と出かけて来たら? 僕達をダシにしていちゃつきたいの? 見せつけたいの?」
「え?」
「なんで驚くのさ……義兄様が僕達に話を振ってくれるのになんで姉様が答えるんだよ。しかも僕達の自慢をして恥ずかしいったらないよ」
なんで二人とも照れているんだよ……見ているこっちが恥ずかしい!
「お義兄様とお姉様が仲良くて、そんな姿見ていたら私も好きな人と結婚したくなっちゃって、相手が決まらないんだからね! 焦って変な人と結婚したらお姉様とお義兄様のせいだから!」
パティは可愛いからモテるんだけど、姉様が義兄様と婚約したから、僕もそうだけど公爵家と親戚になる。だからどこの誰でも良いというわけにはいかない。
「パティ……変な人だなんてやめてね、お姉様悲しくなってきた」
「……パティ、気になる男が出来たら言ってくれ。とことん調べ上げてやるからな」
二人ともズレている。義兄様は姉様のことをとことん調べたのか? それなら怖いんだけど……
「ハリスもだぞ、変な令嬢には捕まるな。リュシエンヌが悲しむぞ」
「……そうですね」
姉様が悲しむから変な令嬢に捕まるなって……僕だって嫌だよ!
「それと、剣の稽古だが良かったら私が指導するぞ、手っ取り早く実戦に入れば、」
「……いえ。遠慮しておきます」
この前、僕の剣術の稽古を何も言わずにじっと見ていた。先生も緊張して変な空気になったんだ。
義兄様の縁のある地で一週間魔獣退治とか……しかも宿泊先は前陛下のお屋敷って。
「レイ様、お怪我だけは気をつけてくださいね……心配で夜も眠れませんわ」
「リュシエンヌの睡眠を妨害するような事はしないと誓うよ」
パティがもう付き合っていられない。とぼそっと僕に言ってきた。同感だ。姉様が幸せそうだし良いんだけど僕達の姉様なのに! 姉様と二人で出かけることがなくなって正直寂しい……
「そろそろ買い物に出かけたらどうですか? 予約してあるんですよね」
「もうそんな時間? 今度街にね新しい本屋さんが出来るようなの。洋書も並ぶらしいから一緒に行きましょうね、ハリス」
僕とパティにキスをして義兄様と出ていった。新しい本屋か……姉様とのお出かけは久しぶりだ!
「ハリスばっかりズルい! 私もお姉様とお出かけしたいのに」
「頼んでみたら? 姉様喜ぶと思うけど」
「うん! お姉様にドレスを選んで貰うわ」
……姉様がパティのドレスを選ぶと可愛いデザインになっちゃうぞ。パティは姉様のようなドレスが着たいのに。姉様にとって僕達はいつまでたっても可愛い双子だからね。
母様は流石にお揃いの服装を着せるのは諦めてくれた。それだけが救いだ。




