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閣下は素敵な方です


「お嬢様、閣下と親しくなられましたね……思っていたよりもお優しいかたでしたね。その、見た目は、えっと……体格がよろしいので恐ろしい方かと思っていました」


 メイドのアデールに言われましたわ。



「親しいと言えるのかしら? ……差し入れの時にバスケットを渡してはダメね。閣下は律儀な方だからお返しをもらってしまったわ……」


 きっとそれだけ。優しい方ですもの。私に特別な感情などないでしょうし……ぴりっと胸が痛む? のはどうしてでしょうか。閣下が時折見せる笑顔が、素敵で……


 私も応援隊の方達のように閣下のことを応援出来れば良いのに……大きな声で閣下のお名前をお呼びする事が出来れば……って。


 迷惑がかかるわ。せめて扇子を作ってお名前を刺繍して……ってそんなことをしたら引かれてしまうわね……


 なんですの、この気持ちは! ダメね……閣下のことを考えていると眠れない日々が続いてしまいました。閣下のお声が耳に残って……



******


 試験が終わり、結果を待つことになりました。セシリーと買い物へ行く為に王都へ行きました。雑貨屋さんを回ったりカフェへ行きお話をしているとあっという間に時間は過ぎます。


「美味しかったわ。試験が終わって息抜きになったわ」


 セシリーはケーキを三つも食べていました。私は最近食欲がなくお茶だけにしました。


「リュシエンヌったらどうしたの? 最近元気がないじゃない。何か悩み事?」


「……ううん。試験が終わってホッとしているだけよ。最終試験だったから頑張りすぎたのかもしれないわ」



「ハリス君とパティちゃんに良いところを見せようとして頑張りすぎたの?」


 ハリスもパティも上位グループの成績で姉として鼻が高いですわ。姉である私も頑張らなくてはと思い張り切っていたのも事実。


「……最近疲れが出てるのかしら、少し休んでも良い? 人混みに酔ったのかも、」


 頭がくらっとして、血の気が引いて意識が飛びそうに……



「リュシエンヌ!」


 セシリーが支えてくれて、倒れずにすみました。


「ちょっと、リュシエンヌ! 大丈夫?」


 私のメイドアデールも支えてくれました。


「うん、」


 大きく息を吸い呼吸を整える。



「リュシエンヌ、しっかりして!」

「馬車まで歩けますか? いいえ、従者を呼んで来ます! お待ちください」


 寝不足だわ、最近眠りが浅くて……はぁっと息をして意識を保つ。少し楽になってきたようですわ。


「? モルヴァン嬢ではないですか?」


 聞き覚えのある声が、まさか?



「リュシエンヌの知り合い?」


 セシリーが少し驚いて聞いてきた。えぇ。と返事をして閣下を見る。


「こんなところでお会いするなんて奇遇ですわ」


「……どうしたんだ? 気分が悪くなったのか? 顔色が悪い」


「人に酔ってしまったようで……少し座れば大丈夫だと思うのですが」


 面倒な子だと思われてしまう。でもそれでいいのかも知れませんわ。そうしたらもう、会うこともなくなるもの。




「歩けるか? 無理をするな」


「……はい、大丈夫です」


 


「お嬢様、申し訳ありませんが馬車が渋滞して暫く足止めを……」


 アデールが戻って来て閣下に頭を下げていました。



「すみませんがうちの馬車はどうでした?」


 セシリーがアデールに聞いたところセシリーの家の馬車は別の場所に止まっていて動けるのだそう。


「うちの馬車で送るわ!」


「大丈夫よ、セシリーは先に帰って」


 動かないのなら馬車の中で休めば大丈夫でしょう。少し休めば問題ないわ。



「夕方に近づき渋滞しているのだろう。モルヴァン嬢の友人は帰れるうちに帰った方がいい。モルヴァン嬢は私が送っていくから気にせずに帰りなさい。すまないがモルヴァン伯爵家の馬車に伝言を頼んでも良いかな?」


 懐からメモを取り出してサラサラとペンを走らせセシリーに渡す閣下。



「分かりましたわ。それではリュシエンヌをよろしくお願いします」


「閣下に送ってもらうのは申し訳ないですわ……お仕事中なのではないですか? 家の馬車まで連れてくだされば、」


「君は早く休む事だな。見るからに顔色が悪い。体調が悪い時は無理をせず甘えておけば良い」


「いえ、そういう訳にはいけません」


 そっと閣下から離れました。


「……騎士様はリュシエンヌの知り合いなのですよね? お願いしてもよろしいのですよね?」



「あぁ、怪しいものではない。必ず伯爵家まで送る、彼女のメイドもいるから安心して欲しい。モルヴァン嬢緊急事態だ、失礼するぞ」


 上着を肩に掛けられたと思ったら急に視線が高くなり驚いてしまいました。


「きゃぁ」


「騎士団の詰所が近くにあり乗ってきた馬車がある。とにかくそこへ行くぞ。暴れると落としてしまう、大人しくしていてくれ」


「……は、恥ずかしいですわ」


 これは所謂お姫様抱っこ……あ、憧れの? 私、重たいのに……


「それなら顔を隠せば良い。顔を私の胸元に向ければ隠れる」


 閣下は早歩きであっという間に騎士団の詰め所へ到着。馬車を使うと伝え私を馬車に乗せてくれました。閣下の鼓動が耳元でダイレクトに伝わるので私の胸は早鐘を打っている……心臓に悪いわ。アデールがいてくれて良かった……


 家に到着すると閣下がまた私を抱えてくれました。心臓に悪いですわ……


「もう大丈夫ですわ、一人で歩けます……」


「良くないだろ、無理するな」


 エントランスで待っていた執事がギョッとした顔をした。


「お、お嬢様?! どうされたのですか!! おい! だれか、旦那様を呼んで来てくれ」


 いつも冷静な執事が声を荒げていましたわ……


「とにかく、お嬢様をお部屋へ! 誰かお嬢様を」


「いや、彼女は私が運ぼう。部屋の前まで案内して欲しい」


 有無を言わさぬ態度に負けて執事が案内してくれました。部屋の前に着くと降ろされて挨拶をして閣下と別れました。


 申し訳ありません。と何度も何度も言いました。



 閣下の厚い胸板、軽々と私を持ち上げる逞しい腕を思い出して顔が熱くなりました。


 



 

 


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