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怪しい人間ではない


 ~グレイソン視点~


 朝から図書館へ行く。休みなのにわざわざ王宮に向かうと言うのもなんだか……知り合いに会いたくないからコソコソと図書館まで行く。ついでに司書に渡された例の本も返却する予定だ。この本を知り合いに見られるわけにはいかない! 周りを警戒しながら図書館までの道のりを行く。決して怪しい人間ではない。


「閣下、朝から珍しいですね!」


 ……びっくりした。この司書も私を怖がらないんだよな。


「あぁ。たまにはのんびり本を読むのも悪くないと思ってな。この本の返却を頼む」


「どうでした? 勉強になったでしょう?」


 【騎士と令嬢の危ない関係】は見ていて辛くて鳥肌が立った。


「……まぁ、そうだな」


「でしょう! またオススメを用意しておきますね」


「…………」


「閣下、もしかして先日の本を読みにこられたのでは?」


 伯爵から譲ってもらった本か。


「あぁ、そうだ、閲覧可能か?」


「はい。陛下も大変喜んでおられましたよ」


「今度伯爵の家にお礼を届けることにするよ。伯爵家の蔵書も素晴らしいんだ」


 などと司書と話をしていたらモルヴァン嬢がタイミング良く現れたのだ。


「閣下ではないですか。司書様もご一緒でしたのね、ごきげんよう」


「モルヴァン嬢、おはよう」


 にこりと微笑むモルヴァン嬢。くそ、爽やかで眩しいな。




「閣下はもしかして休日ですか? いつもの騎士様の制服ではありませんものね? ラフなお姿もお似合いですね」



「……世辞は不要だが、モルヴァン嬢も……今日の装いは軽やかで、似合っている」


 紺色のドレスに白のリボンがアクセントになっていた。落ち着いた服装を選んでいる様だった。パーティーの時のドレスも可愛かったがこのようなシンプルなドレスも清楚でよく似合う。


「まぁ。ありがとう存じます。お世辞でも嬉しいですわ」



(司書はこの二人の雰囲気にいい予感しかしないので、少しだけお節介をしたくなる)



「モルヴァン嬢も来られましたし、閣下例の本を一緒にご覧になってはいかがですか?! 関係者以外立ち入り禁止エリアの本ですが閣下がいるのであればご覧いただけますし、いつものお席でお待ちいただければ私がお持ちしますよ」



「まぁ。先日の本ですの?」


「はい! 閣下どうされますか?」


「モルヴァン嬢が読みたいのであれば……」

「はい、よろしければ是非」


 ソファに並んで腰掛けた……このソファ狭くないか? 近くにモルヴァン嬢を感じる。無言ではいけないがここは図書館、静かに会話を楽しもう。声のトーンを抑えて話をする。


「モルヴァン嬢、先日は差し入れをありがとう。隊員達も皆喜んでいた」


 ミートパイ……残念だったな。


「閣下も召し上がってくださいましたか?」


「アップルパイを頂いた。シナモンが効いていてうまかった」


 レオンも同じことを言っていたな……


「それは……入れ過ぎましたの。それでりんごを急遽増やして……すると量も増えてしまいましたの。パイを包むときに歪になってしまったり……」


「……本当に手作りだったんだな(もっと味わって食べるべきだった)」


 そう言えば貴族の令嬢の手作りという言葉を信用してはいけない。と隊員の誰かが言っていたな。手作り=シェフって笑いながら話しているのを聞いたことがある。


「ほぼシェフが作ったのですよ。わたくしは邪魔ばかりでしたわ。でも、クッキーは得意ですの! 何度も作っていますし、弟も妹も喜んでくれます」


「それは今度作ってくれるという事と捉えてしまうが……」


 口が勝手に!



「閣下は甘いものが得意ですか?」


「すごく甘いものは食べないが、普通に食べるな」


「それではまた差し入れにいきますね。クッキーでよろしければ」



 ……また来てくれるのか。でもなぜ私なんかに差し入れをしてくれるのだろうか。


 何気ない会話をしていたら司書が本を抱えてやってきた。机に置いて肩を並べてページを開く。

 モルヴァン嬢が首を傾けたので何事かと聞く。この文字が解読できませんわ……そうかまだ勉強中だったな。


 これは○□○と読むのだ。なぜそうなったかという理由を説明すると──


 『閣下の説明は分かりやすいですわ』


 頬を染め喜ぶモルヴァン嬢。気がつくと外から鐘の音が聞こえ昼を告げた。もう昼か……時間が経つのは早いな。



「モルヴァン嬢、昼はどうするんだ?」



「いつもはお昼から来るので考えていませんでした。本日は楽しかったですわ、とても勉強になりました。ありがとうございました」


 ……別れ辛い。



「モルヴァン嬢、時間は……まだいいのか?」


「え? えぇ、夕刻迄に帰らなくてはいけませんが」


「……それなら、ランチを一緒にどうだろう?」


「あ、えっと……よろしいのですか? 閣下は休日ですのに」



「もちろんだ。天気もいいから外でどうだろうか? 大したものは用意出来ないが任せてもらっても良いか? 苦手なものは?」


 ……結局は騎士団の食堂へ行くことになるのか。外にランチを誘う勇気は持ち合わせていない。



「ありませんわ」


「分かった。この前私がいたベンチで待っていてくれるか?」


「はい、お言葉に甘えて……」




 図書館を出てモルヴァン嬢がいつも連れているメイドと護衛に説明をしていた。騎士団の食堂へ行くと部下達が何事かと私を見てくるが華麗にスルーした。


 小さな声で女性二人と男二人分を……とシェフにオーダーした。

 ニヤニヤするシェフも華麗にスルーした。するとシェフは何も言わずに四人分を持たせてくれた。



 シチューパイ? 

 フルーツサラダ? 

 パウンドケーキ? 

 フルーツティー? 



 そんなもの普段は出さないくせに。どこから出てくるんだ?



 モルヴァン嬢、メイド、護衛騎士も喜んでいたからまぁ良い。シェフに礼を言っておくか。美味かったと。



 

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