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ハンカチ


 ある日私宛に包みが届いた。差出人の名前はないので不思議に思い、執事監修の元それを開くことにしましたの。


「なにかしら?」


 怪しいものではないようなので近くに寄ってみる。


「ハンカチのようですね」


 包を開いてくれた使用人がそう言いました。普段は差出人のないものは処分されたりするものなのに、怪しくないからという理由で私に渡った。という事ですか?



「ハンカチ……?」


 そっと手に取ってみた。


「まぁ! これは私のハンカチですわね。たしかこの刺繍は……」


 あの時、雨宿りをした男の子のに渡した物ですわ。捨ててくださいと言ったのに……私の正体を知って送ってきてくれたのかしら? 数年経っているのに律儀な方なのね。それにしても差出人がないからどなたか分からない。


「それとこちらも」


「お花?」


「はい、庭師に聞くとラナンキュラスだそうです」


「何か意味とかあるのかしら?」


 花を贈る時は花言葉を考えて贈るのが習わしですもの。お花の意味で勘違いが生じたりしますから慎重に選びますのよね。


「黄色いラナンキュラスは“優しい心遣い”なんだそうですよ」


「ハンカチのお礼という事かしら? この花を送ってくれた方こそ優しい心遣いが出来る方ですわよね?」


 執事が頷いていた。


「お花はどうされますか?」


「せっかくだから部屋に飾って貰おうかしら」


 一輪でも絵になる可愛さがある。とても立派なラナンキュラス。選び抜かれた一本だと言うことが見てとれました。


「あ、花瓶は私のお気に入りのガラスの一輪挿しが良いわ」


「畏まりました。そのように伝えておきます」


 ハンカチは人に渡った物だし数年前の事だからすっかり忘れていたのに、思い出が戻ってきたようなノスタルジックな気持ちになりましたわね。


 こんなお返しをできる方なので、今ごろ立派に活躍されていることでしょう。名前を告げていない私の事が分かったくらいですからやはり、あの方は貴族の子息だったのでしょうね。名前を告げられないほどの高貴な方? それとも恥ずかしがり屋さんとか? ふふっ。ミステリアスな方ですのね……



 ******


 週が明け学園へ復帰した。学園の噂は殿下の話で持ちきりでしたわ。


「リュシエンヌ! おはよう。今日からやっと復帰したのね! ところで殿下のお話聞いた?」


 親友のセシリーに声をかけられました。


「えぇ。突然だったから驚いたわ」


 本当のことは誰にも言わない。もう家でもこの件について両親に聞くことも話すこともしない。そういう約束。


「殿下はリュシエンヌの事を気になっていると思っていたのに、残念だわ……学園じゃないと殿下のお顔を見ることが出来ないのに、卒業を待たずにリル王国へ行ってしまわれるなんて……」


「そうね」


「でもリル王国の王配だなんてすごい縁よね? ロイヤル同士の結婚だもの。王女は美女だと我が国まで噂に上るくらいだし、結婚式は華やかに行われる予定だってお父様から聞いたわ」


「王女と手を取り合って素晴らしい国を作っていただきたいわよね。殿下の未来に幸あるようにお祈りしなきゃね」


 この話はここでお終いですわ。それよりも私達は学生ですから学生の本分は勉強です。


「それよりセシリー、私が休んでいた時のノートありがとう。本当に感謝しているわ。大変だったでしょう? 何かお礼しなきゃ」


 自分の分と私の分、合わせて二人分のノートを取ってくれるなんてさぞかし大変だったでしょうし、時間を取らせて申し訳ない気持ちです。セシリーのノートは丁寧で分かりやすくて時間をかけて作ってくれたのだと思いました。


「それがね、リュシエンヌの分もノートを作っていたら復習にもなってすっごく勉強も捗ったのよ。だから今回のテストは期待しても良いかもしれないわ。でもお礼をしたいというのなら、新しくオープンしたカフェでケーキをご馳走してくれても良いわよ」


「カフェが出来たの? それは是非行きたいわ! ご馳走させて貰うわね」


「いいの? 遠慮しないからね? いっぱい注文するからね」


 セシリーと話をしていたら普段と変わらない学園生活が戻ってきた。としみじみ感じました。


 それから例の上級生も学園に戻ってきたようで、私の顔を見て一言。



「変な噂を流して悪かったわね。あと怪我をさせて申し訳なかったわ」


 言うだけ言って去ってしまいました。上級生は侯爵家のご令嬢で殿下の婚約者候補に挙がっていたようです。殿下がリル王国へ行くことが決まり、令嬢も新たに婚約者が決まりそうなんだとか?


 婚約者候補に挙がっていた令嬢達は王妃様がお見合いの場を設けて早々に婚約の取り決めを行ったようでした。侯爵令嬢が伯爵令嬢に謝罪をするなんて思いませんでしたし、勇気がいる行為だったと思いました。


 噂の出所なんて気にしませんし、放っておけばそのうち忘れられてしまうのです。良いも悪いも噂好きの貴族ですから。


 





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