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王宮に行きます

お出かけの日は雨が降っていた。



「急に呼び出してすまんかった。学園を休んでいると聞いておるが体調はどうじゃ?」


 ここは王宮の応接室。陛下と王妃様、両親、それに私が机を囲んでおります。


「はい。お医者様が仰るにはそろそろ学園へ通っても良いとのことなので、週明けから復帰しようと思っております」


 馬車に乗っても大丈夫そうでした。少しの違和感はありましたが、お父様がクッションをたくさん置いてくれたのが幸いでしたわ。って陛下に王妃様と同じ空間にいるなんて! なんですの! この時間ーー!


「そうか、それは良かった。しかし学園でエリックのせいで嫌な目に遭っておるのではないか?」


 ……!


「いいえ。問題ございませんわ」


 お父様とお母様にじぃっーと見られて視線が刺さって痛いわ! 命に関わる問題はありませんもの。


「そうか。令嬢は優しいな。エリックのことなんぞ罵ってやっても良かったんだぞ」


 ……? 罵る?


「殿下は……殿下なりに助けてくださったのだと思います」


 不敬に当たるかしら……殿下()()だなんて。



「そうか……もう聞いておるとは思うが、エリックは来月リル王国の王女と結婚する運びとなった。令嬢には迷惑をかけたな」


 ……昨日お父様とお母様に聞いて驚いてしまいました。私が婚約をしたくないと言ったから? というとそういう問題ではない。と答えられました。


「いえ、わたくしこそ申し訳なく思っております。わたくしが殿下と、」

「その先は言わなくて結構よ、リュシエンヌさん。エリックは自分の為に一人の子息の将来を潰したの。リュシエンヌさんも婚約破棄された令嬢だなんて言われる事もあるでしょう? 立会いなんてバカな真似をしてはいけなかったの。両家の話し合いの元、婚約しているのですからちゃんと筋を通すべきでした。卑怯なやり方でリュシエンヌさんと婚約を結ぼうとしたその根性が許せないのよ」


 王妃様はご立腹の様で延々と話は続きました────



「コリンズ子息も悪いところがあり罰を受けた。その上でコリンズ伯爵も信頼回復に努めると言っておった。何も悪くない君も噂をされたり、エリックと話をしているという嫉妬から怪我をさせられたり、大変な思いをしているだろう。エリックのせいで離婚の危機なんて家もある様だし、このままわしらだけが何にもせんわけにはいかない」



 ? ……離婚の危機って誰の事かしら? お父様達はご存じなのかしら? お父様を見ると汗をかいているみたい。室内の温度はちょうど良いですのに。


 

「陛下、その話は」

「おぉ、すまんかった。つい口が滑ってしまったわい」


 悪気はなさそうで、お父様を揶揄っている様なそんな感じがしました。この件はこれで終わりにしましょう。王妃様の一声で今回の件は終わったという事です。陛下と王妃様がそう仰るのなら、もう私は何も言えません。




「リュシエンヌ、もう少しだけ陛下と話をするから少し待っていてほしい」


 大人だけでのお話ということですよね? それなら私は……


「図書館に行っても良いですか?」


「あぁ。そうだね、図書館で時間を潰していてくれ。終わり次第迎えに行くよ」


「分かりましたわ。わたくしのことは気になさらずに」


 ごゆっくりと。と言いかけてやめた。だって陛下も王妃様もお忙しい中お時間を割いてくださるのですものね。ごゆっくりと、という言い方はよろしくありませんわね。


 雨が降る中、図書館へと向かった。屋根があるので濡れずに済んだ。


 なんとなく本を読む気にはなれなくて、扉に手をかけずに雨音を聞いていた。


 ざぁざぁ……と音を立てる。私は雨の日が嫌いではない。雨が止んだら空気が綺麗になり木々は喜び美しいと思う。


 でもなぜか寂しくなる、そんな気分……




「あれ、リュシエンヌ?」

「エリック殿下……」


 とても驚いた様子でした。ここは王宮ですから偶然ですわよね。


「図書館に入らないの?」

「……雨音を、聞いていました」


「寒くない? 風邪を引くよ」

「そう言えば……エリック殿下にお借りした上着をお返ししなくてはいけませんね。それとキレイなお花、ありがとうございました」


「上着はいいよ。もう着ることもないだろう。替えもあるし捨ててくれ」

「そういうわけにはいけませんわ。お借りしたものはきちんとお返しをしないと」


「頑固だね、リュシエンヌ」

「普通ですわよ?」


「……そんなものなのかな? それにしても雨止まないね」

「そうですわね。昨晩から続いていますわね。でも私は雨が嫌いじゃないです」




「雨が?」

「はい。そう言えば数年前に弟と王都へ行って、急に雨に降られてしまった事を思い出しましたわ」


「……弟か」

「弟はとてもしっかりしていて、たまにわたくしが注意されるほどです」


「リュシエンヌもしっかりしているよ」

「まぁ、ありがとう存じます。その時弟に街歩きとはこういう事態も発生するので備えておかなくてはいけません。と、言ったら弟は姉様は街歩きが初めてではないのに備えてないの? と言ってきました」


「それはしっかり者の弟君のいう通りだね」

「えぇ。こんな会話をしていたら先客がいらして笑われましたのよ」


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