長引きますのね、この痛み
学園を休んで五日が経とうとしていた。毎日エリック殿下から手紙とお花が届きます。歩くと響くし、部屋の中にいる事が増えて趣味の刺繍をしていました。エリック殿下は、他国からのお客様の対応もしなくてはいけないらしく忙しい毎日を送っているのだそうです。
本日はお花と手紙のお礼に返事を書きました。
【お忙しい中、毎日お花とお手紙をありがとうございます。少しずつ回復しています。ご心配をおかけしました】
お見舞いに来る。と言われてお父様は断固お断りをしたようです。未婚の令嬢の元に婚約者でもない男性が来るのは好ましくありませんものね。それと肩をぶつけて制服を汚されたのは、偶然ではなく故意だったようであの令嬢達は謹慎中だそうです。
彼女たちは殿下を密かに思っているファンの人達で、特定の令嬢と話をしている姿を見て、つい魔が差したと供述したようです。
その後令嬢達の家から謝罪をされ、お母様が対応したようです。私はその時ベッドの上の住人でした。本当に本当に痛いんですの! よりによってお尻だなんて……馬車は揺れるでしょう? あの揺れはまず無理ですの。あの日学園から帰って来た時に、揺れと痛さで吐きそうになり顔面蒼白だった。とお母様がそれはそれは心配しておりましたの。
弟ハリスの手を借りてなんとか部屋まで辿り着いた程です。お父様も帰ってきて、慌てて部屋までお見舞いに来てくださったのです。
“お尻が痛くて……”と言うとなんとも言えない顔をして“暫くは学園を休みなさい。何か欲しいものがあったらすぐに用意するから……”と笑われてしまいました。
殿下には腕と足が痛いと言っていますのに、手紙のお返事なんておかしいかしら……
それよりも今日は親友セシリーがお見舞いに来てくれると言うので朝から楽しみにしているのですわ。
ソファにたくさんクッションを置いて(囲まれて)いるので痛みは抑えられますし、ふんわりとしたワンピースを着ているので押さえつけられることもないので、大丈夫でしょう。何かあっても家ですしね! なんとかなりますわ。
セシリーが来た。と連絡を受けましたが、出迎えることは出来ませんのよ……階段の上り下りが辛いのです。階段の上り下りってお尻と腰の負担がすごいと言うことを学びましたわ……安静が一番ですわ。
「リュシエンヌ! 久しぶりね」
「セシリー心配掛けてごめんなさいね」
数日ぶりに会うだけなのに懐かしく感じてしまいますわ。セシリーはクラスの友人達からの手紙を持って来てくれました。それと差し入れと言い、人気の菓子店の焼き菓子と行きつけの裁縫店で新色の刺繍糸が出たようでそれも持ってきてくれました。持つべきものは親友ですわね!
「あの後殿下が不審に感じたようで、リュシエンヌが転んだところを調べていたら三人の令嬢が現場に来て、隠れたらしいの。するとキョロキョロと汚れた場所を掃除し始めたらしくて怪しさ倍増よね。普通は汚れていても自分で掃除しないもの。人を呼ぶわよね」
……犯人は現場に戻ってくる。っていうのは実際にあることなんだわ。妙に納得してしまいましたわ。
「掃除をしながら、リュシエンヌの話をしていたものだから殿下と側近の人に聞かれたそうよ。側近の人が先生を呼んで令嬢達に事情聴取して発覚という感じらしいわね」
「殿下の手紙には書いていませんでしたわ」
「聞き耳立てていた事を知られたくなかったんじゃない? それより調子はどう?」
「……まだ、回復には時間がかかりそう」
「そんなに捻ったの? お医者様はなんて?」
「セシリーにはきちんと言うわね。実はぶつけたところはお尻なの……」
「え? お尻」
「えぇ。真相はわかっているとのことだから肩がぶつかって尻餅をついたの。思いっきり転んだものだから痛くてね……馬車に乗れないから学園にいけないのよ」
「……それは深刻ね、っ。ぷっ……お尻って……」
「笑い事ではないのよ! 本当に痛くてね、馬車の揺れで痛くて吐き気はするし大変だったんだから! 歩くとお尻と腰に響くし階段も時間が掛かるのよ」
二人で笑い合った。令嬢の話に何回お尻の話が出てくるのか……セシリー以外とはこんな話できませんもの。
「あぁ、リュシエンヌが元気で良かったわ。これ授業のノートよ。まぁリュシエンヌは授業なんて聞かなくてもトップクラスから落ちることはないと思うけれど」
「授業をきちんと聞いているからテストの範囲が分かるのだもの。勉強は好きだし、学年で一位になりたいとかそこまでの野望はないわよ?」
趣味の刺繍や古代語の勉強もしたいし地盤についても調べたいし、勉強だけが人生ではないもの。いつか役に立つことはあるだろうけど、先生になりたいわけではないから、勉強はそこそこで良いのよね。
「うん、私はわかっているから大丈夫」
「? その含めた言い方ってなにかあるの?」
セシリーが言うには上級生が最近私の良くない噂を流しているのだそうです。




