婚約破棄となりました
「ただいま戻りました。お父様はいらっしゃる? お話がしたいので時間をとっていただけるか確認してきて欲しいの」
お父様の馬車があったから屋敷にいるはずですわ。
「旦那様ですね。かしこまりました、すぐに」
そう言って執事が頭を下げました。時間がかかるかと思い部屋で待とうとしたら、すぐに執事が戻ってきて執務室に案内してくれました。王宮に呼ばれたので何事か聞きたかったみたいですわ。
ノックをして返事を待ち扉を開けた。
「リュシエンヌおかえり。ソファに掛けなさい」
ソファに掛けるとお茶の準備がされ、お父様が向かいに座りました。
「急に王宮に呼ばれるなんて何があったんだい? 呼び出し主はアルバート殿だったようだが?」
一昨日手紙が届き王宮で待つ。と書かれていたのよね。もちろん家族には報告済みで、皆が口を揃えてなんのために王宮へ? と言っていましたし私もそう思いました。まさか婚約破棄だとは……
「言いにくいのですが……」
前置きをしてから話し始めました。
「アルバート様に婚約破棄をされましたの。立会人までしっかりとご準備されていて、分かりました。としか私の口からは出ませんでしたの。お父様申し訳ございません」
座ったままでしたが頭を下げました。
「……………………」
お父様が難しい顔をされている。怒っているのかもしれませんわ。婚約破棄されるような娘でごめんなさい。
「お、お父様」
沈黙に我慢ができなくなり、私から声を掛けた。
「ん、あ、ぁ。すまない今後の段取りを考えていたんだ。リュシエンヌは悪くないよ。婚約してまだ三ヶ月だと言うのにアルバート殿は何を考えているんだろうか……そう思うと、」
にやり。とお父様が悪い顔をしましたわ!
「もしかして、この婚約の裏には何かあると言うのですか?」
私にそろそろ婚約をしないか? とお父様に三ヶ月前に言われました。同じ伯爵家の子息で釣り合いは取れるのだけど、アルバート様のお家は少し傾きかけている。という噂がありましたの。なんでも現当主様が鉱山を買ったらしいのですが、掘ってもお目当て物が出てこないとか? それでお父様に権利を半分渡すから共同で採掘をするという事になったのだそうです。婚約する時に、お父様と伯爵様が何か契約を交わしていたので……
「例の鉱山はうちのものになるな」
「え? あの掘っても掘っても何も出てこない、あの鉱山ですか?」
「そうだ。婚約をする際に交わした契約書があってな、あちらに非がある場合は鉱山はうちのものだ。あちらは慰謝料を払えるほど余裕はないはずだ。あの家には三人の娘がいるし、今後三人の娘を婚約させるとなると金がかかるだろうからね」
「掘っても何も出ない鉱山なんて持っていても仕方がないのではないですか? うちもかなりの金額を出資していると言っておられましたわよね?」
共同とはいえあちらに主導権があり、それに従っているのですわよね? うちの人達から不満の声が聞こえてきていましたもの。
「鉱山はうちのものになるから、これからは私達のやり方で進めるだけだよ。忙しくなりそうだなぁ。その前に……婚約破棄となってしまったようだが、落ち込んだりしていないかい? リュシーのどこに問題があったというのだろうか。何か理由は聞いている?」
「えぇ。大きくいうと性格の不一致という事ですが、アルバート様は成績が悪くて美しくなく、人気がなく爵位は高いか低いかの女性が好みらしいのです」
アルバート様の好み? なんでしょう。細かすぎて伝わりませんわよねぇ。難しいですわ。爵位についてはうちは伯爵家。中途半端なのでしょうか?
「……ん? どういう事だろうか? リュシーとは正反対の令嬢が好みならそれは仕方がなかったのかも? しれない」
私が首を傾げながら話をしていたからお父様まで不思議そうな顔をしていますわね。あ、そうですわ。もう一点。
「お父様はリーディアさんというアルバート様の家のメイドの事は覚えておられますか?」
「もちろん。伯爵から謝罪を受けたからね。リュシー付きのメイドに怪我をさせたり、リュシーのドレスを汚したりとんでもないメイドだ。あのようなメイドがもしうちにいたとしよう。来客が来たら奥に下がるように言うものなのだがな。遠い親戚で、礼儀を学びに来ていると言っていたが、伯爵家では何を学んでいるのだろうね」
親戚だからクビにしないのだろうが他家だとクビレベルの粗相だね。とお父様が不思議そうに言った。
「リーディアさんに厳しくあたった。と咎められましたわ。正直言いますとリーディアさんには何を言っても無駄なような気がしますわ」
「アルバート殿はそんなに愚かな男だったのか……それにしても何故王宮でこんな話になったんだい?」
「あら、大変ですわ。お父様にお伝えしておりませんでしたわ。立会人が第二王子殿下でしたのよ」
「は? なぜ、そこで殿下が出てくるんだ」
「いくらアルバート様の友人だとしても不思議ですわよねぇ」