婚約の打診
「父上、今日図書館でモルヴァン伯爵家のリュシエンヌと会ったというのは本当ですか!」
リュシエンヌとお茶を飲んでいたら陛下にお会いして本を選んでもらいましたの。と言われて驚いた! 父は本が好きで図書館へお忍びで行っているのは知っているが、令嬢に自ら声をかけるような人ではない。
「偶々会ったんじゃ。若い令嬢が古代語を勉強したいと言うのでわしは嬉しくてな。つい声を掛けてしまったんじゃ」
「父上、私はリュシエンヌに求婚しようと思っています。許可してくださいますか?」
父上はリュシエンヌを気に入っているようだから、ダメだとは言わないだろう。
「しかし彼女は婚約が一度ダメになっておる。すぐに婚約者を望むだろうか? もう少し時間がいるのではないか? 国の法律で令嬢は婚約がなくなってから半年は新たに婚約を結べない」
……それでは遅い! 彼女の元へは既に釣り書きが送られていると聞いた。また誰かに取られる前に彼女との約束が欲しい。結婚は先でも良い。せめて婚約をすると約束をさせて欲しい。
「私はリュシエンヌの人柄を好ましく思っています。父上はそう思わないのですか?」
「良い子だと思っておる。お前の相手になってくれれば嬉しいとも思うが、彼女の気持ちはどうだ? 友人だと思っているのに求婚されたら戸惑うだろう。しかも相手は王子だ。それに王妃がお前の相手にと候補を選んでおるではないか。それはどうするんだ?」
「母上には心に決めた相手がいる。と言いました。納得はしていませんでしたが、話は聞いてくれると言いました」
「……しかしだなぁ」
「許可をください」
「何かあったら責任は取って貰うぞ」
「……はい」
言質は取った!
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「旦那様! 大変でございます」
執事が慌てて執務室へとやってきた。珍しい事があるもんだ。いつも冷静な男なのに。なんだ? と要件を聞く。
「ん? 第二王子からの使者が来た? 何のために?」
「手紙を持ってこられたようです」
「そうか。今行くから応接室にお通ししてくれ」
何の用だろうか??
「お待たせいたしました」
王宮から来た使者殿に挨拶をした。
「モルヴァン伯爵。急な訪問をお許しください」
「いえ、構いませんよ。ところで急用とはどういった事でしょうか?」
「第二王子エリック殿下からお手紙を預かってまいりました。返事は急ぎではないとの事です」
これまた立派な封筒だ。煌びやかで手に取るのが憚れるような怖さがある……
使者はそのままじっとこちらを見てくる。今この煌びやかな手紙を開けと言うことか? 返事は急がないんじゃなかったのか……まぁ、いいか。
「失礼して……」
緊張しながら手紙を開く。なぜ第二王子から私宛に手紙が届くのだろうか……リュシエンヌが王宮に呼び出され、婚約破棄をされた時に第二王子がいた……と言うことを聞いてから困惑している。一貴族の婚約破棄に友人だからといえ、王子が立会いなんてするか? 今まで面識もない。
そして婚約を破棄をした側の友人だという第二王子が、リュシエンヌを友人だと言って手紙を送ってきたり、さっぱり意味がわからん……リュシエンヌも同じくそう思っているようだし。
そして手紙を開き私は固まった。
「……婚約の打診? なぜうちの娘に……」
「陛下もご存じだそうです。一度お話をしたいとエリック殿下が申しておりました。返事は急ぎではありませんが、よくお考えくださいませ」
使者は頭を下げて、出て行った。
「いやいやいやいや! 意味がわからない」
「嘘だろっ!」
「第二王子と?!」
「いや、想像もつかない! 断るしかない! でもリュシエンヌがどう思っているか確認しないと!」
応接室のソファの周りを腕を組みながらうろうろとする。
「落ち着かん。リュシエンヌはまだ帰ってこないのか?」
近くにいた執事に声を掛ける。執事も思考が停止していたようでハッと我に帰る。
「本日は坊ちゃまと街にお買い物に行かれました。もうすぐお帰りの時刻になります」
「そうだった……リュシエンヌが帰ってきたらすぐに私の執務室へ来るように伝えてくれ」
「かしこまりました」
……何が何だか分からん。考えても仕方がないのでリュシエンヌの帰りを待つことにする。何で今日に限って屋敷に誰もいないんだ!
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答え:リュシエンヌはハリスと街に。リュシエンヌ母は知り合いの家にパティを連れてお茶会に行きました。
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