手紙を書く
~エリック視点~
視察が終わり父にモルヴァン伯爵の令嬢と婚約をさせて欲しい。というと渋られた。
「婚約破棄された令嬢だろう? 王子の相手としては世間体がなぁ……」
「優秀なんですよ? 学園でもトップクラスの成績ですし、人気もありますし、伯爵家といえども裕福ですし人柄も良く美しいのです」
「しかしなぁ……」
父上が渋るのは分かる。でもここで引けない。
「例えばですよ? 私が他国の王女と婚約をしたとしましょう(嫌だけど)。そうすると王太子妃である義姉の立場がないではないですか! 王太子妃とはいえ身分でいうと王女の方が高いですし、侯爵家もいい顔をしないと思うのです。今王家と侯爵家はいい関係ですし、侯爵家が王家に苦言のある貴族達を抑えているんですよね?」
「……そうだが、王配との話もあるんだぞ。それに他にも候補者が挙がっているが、モルヴァン伯爵令嬢の名前は出てこなかったではないか?」
そうなんだ……出ていたら話は早かったが、縁談を申し出てくる家にモルヴァン伯爵はなかったのだ。
「彼女が良いんです。父上もどうか会ってみてください、きっと気に入りますから」
……そうだ! 会えば彼女の良さを分かってくれる。
了承されたわけではないけれど、とにかく会ってもらうことにしよう。それから婚約話を持ち出せばいい。
十日間ある休みの間は無理そうだな……とにかくお茶会をすることにしよう。さすがに母に内緒という訳にはいかない。
「母上、お話があります」
「エリックから話なんて珍しいわね。何?」
お見合いの話が面倒なので最近母を避けていたのは事実だが、お茶会をする。となると話を通してないと面倒だ。王宮はセキュリティーがしっかりしているから、プライベートな場所に人を呼ぶ。となると許可が必要。
「学園の友人を誘ってお茶会をしようと思っているのですがよろしいですか?」
「良いわよ。許可を取るということはプライベートという事ね?」
「えぇ。学園が再開したらと思っています」
「許可します」
「ありがとうございます」
頭を下げて一目散に部屋を出る。母が何か言っていたが、恐らく誰を招待するかとかそんな事だろう。
さてどうやって誘おうかな……そうだ!
******
ようやく学園が始まる。学園自体は何が変わったというわけではなく、セキュリティーが強化された。生徒にもプライバシーがあるから学園内と言っても映像を映す装置を置けるわけではない。もちろん話には上がったのだが、高価で王宮でも一部しか取り付けが出来ないような代物を学園に取り付ける訳にはいかない。
裕福な貴族の家でも門の前に一台あるくらいだ。この映像装置は怪しいことはない! と証言する事が出来るので高価だが人気の代物だ。怪しい客が来たり怪しい取引をしていたら、その映像が証拠となる。
校門には見るからに屈強な男が立ち、学園に生徒がいる間もパトロールを強化。扉はピッキング出来ないような仕掛けになり生徒に下校の際は私物を置いて行かないように徹底させた。芸術品はガラスの飾り棚を取り付け中に入れた。
ガラスを破ると警報器が作動するし、廊下に飾ってある絵画も手を掛け持ち上げた瞬間に警報器が鳴る仕組みだ。
「パッと見た目には分からないね」
防犯アドバイザーに説明を受けていた。
「いろんな意見がありまして、見た目には盗難防止が付いているとは分かりませんが、ガラス棚は盗られないようにという意図が伝わると思います(防犯ブザーが見える)。全てを警戒しているわけではない。と思わせる事により生徒達も安心して学園に通える事かと思います」
「なるほど。分かりました。図書館の方はどうなりましたか?」
図書館の改修工事が始まる。工事責任者に尋ねる。
「貸し出しは今まで通りです。大事な書籍は王宮の図書館へ一時運ぶ事になりました。雨水でダメになっては困りますから」
大事な資料が濡れては困るし、歴史的に重要な物もある。
「分かりました。引き続きお願いします」
彼女は良く調べ物をしていたよな。これらを王宮の図書館に移して王宮図書館へ誘えば良い。国立図書館よりも品揃えは豊富だ。
「あ、貴重な書物は今日中に運んでもらえますか? 今日は天気が良いですから」
「そうですね。準備が出来たものから運び出します」
……よし。準備は整った!




