第9話
「そのためにも、私たち、パーティーを組みましょう。戦力は多い方が心強いし、伝説のムラマサ使いがいてくれたら百人力だわ。……どうかしら?」
そう言って差し伸べられたローザの手を、尊は握り返した。
「いいじゃん、そうしようよ」
ローザに引き起こされながら、尊はニヤリと笑った。すぐにハッと我に返ると、尊は慌てて陣内に目をやった。陣内はフウと息をつくと、うなずきながら言った。
「俺も、いい提案だと思う。俺らよりも、彼らのほうがダンジョンや、ダンジョンのシステムに詳しいしな。願ったり適ったりだ」
ローザは笑みを浮かべると、腰に手を当てて振り返った。
「そうと決まれば<カフス>を作りましょう。……ルック。道具、持ってる?」
「はいはい、待っててね」
ルックは荷物を漁ると、魔法陣のようなものが描かれた紙と短刀を取り出した。
「はいじゃあ、指の先をちょいと切って、この魔法陣に血判して」
ムーンガルド陣営が手際よく短刀リレーを行うのを眺めていたヒノモト陣営は、短刀を手渡されると彼らに倣って親指の先をピッと切り、魔法陣に押し付けた。全員がその作業を終えると、ルックが何やら呪文のようなものを唱えた。すると、紙が宙に浮き、六ピースにちぎれ、たちまちカフスイヤリングへと姿を変えた。
落ちてきたカフスをキャッチすると、ルックは一人一人にそれを配りながら言った。
「ダンジョン内にいるときは、これを常時耳につけておいてね。そしたら、離れたところにいても会話できるから。これでお互いの座標を教え合って合流したり、情報交換したりしよう」
「あ、あと、これもお渡ししておきますね」
エドは思い出したかのようにそう言うと、荷物を漁って指輪を取り出した。
「さっきお見せした<スキルツリー>を出す秘術は、本来、寺院で司祭にやってもらうものなんですけれど。ダンジョン攻略中にも気軽に『レベルが上がった』とか知りたいし、スキルポイントの振り分けをしたりしたいじゃないですか。……そんな冒険者の声にお応えして、寺院が総力を挙げて作った魔道具が、なんとこの指輪なんです!」
ニコニコ笑顔のエドは尊たちに指輪を配ると、使い方を教えてくれた。
「いやあ、寺院の加護を受けていない方と出会うかもと思って、いくつか持ってきておいてよかったです!」
左人差し指にはめた指輪をジッと見つめていた陣内は、満足げなエドに向かって尋ねた。
「もしまだ指輪を持っているようだったら、少し分けてはもらえないでしょうか? こちら側の人間で、冒険者適性のある者がいるなら、増員をしたいので……」
「いいですよ。ただし、完全にヒノモトの世界に出してしまうと機能しなくなる恐れがあるので、使用の際は一歩でもいいのでダンジョンの中に入ってくださいね」
エドはそう言うと、陣内の手のひらの上に指輪をジャラジャラと出した。陣内は思っていたよりもかなり多い量の指輪が出てきて驚いたようで、目を丸くしていた。
「ひとまず、報告のために一旦戻ろう」
陣内が尊と誉にそう言うと、エドが攻撃量上昇と防御力上昇の魔法をかけてくれた。陣内は助太刀してくれたことや回復魔法をかけてくれたことなどを含め、重ね重ね感謝の言葉を述べた。ローザたちは謙遜して「お互い様」と笑った。
「じゃあ、また明日、かしら?」
「おう、また明日な」
ローザと尊は互いにそう言うと、手を振りながらその場を後にした。
***
陣内はダンジョン内でのことを上官に報告した。上官は陣内レベルで格闘のできる者や言祝家のように人ならざるモノの術を使う者を集めて、ダンジョン内の地図を速やかに作るためのチームを結成するよう指示を出した。
尊と誉については、明日以降は、日中は普段通りに学校へと通い、放課後から夜にかけてで先遣隊としての勤めを果たすようにということだった。尊としては学校なんか休んでずっとダンジョンに籠っていたかったのだが、命だけでなく尊も半年以上の休みが続くというのは学校側から不自然に思われるだろうということだった。
自室に帰ってきた尊は、左人差し指にはめた指輪をつついてみた。エドが言っていたとおり、スキルツリーを見ることはできなかった。やはり、あちらとこちらの物理法則などの違いによりダンジョン内でしか使えないらしい。
尊はカフスと指輪を外して手のひらの上に置くと、それをギュウと握りしめた。
(待ってろよ、命。俺が絶対に助けてやるからな……!)