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第8話

「やっぱり、あなたたちはヒノモトの世界の人たちなのね……?」

「やっぱり……?」


 そう言うローザに尊たちが怪訝な顔を浮かべると、ローザはあたふたとしながら話を続けた。


「女の子を助けに来たと聞いて『もしかして』とは思っていたんだけれど、その刀がムラマサだと聞いて確信したの。……五百年前の話なんだけれど」


 ローザが言うには、尊たちの住む世界はヒノモト、ローザたちの住む世界はムーンガルドといって対をなしているのだそうだ。そして「対をなす世界の陰と陽を交わわせたところに魔王の魂が宿り、世界を破滅させるだろう」という言い伝えがローザたちの世界にはあるという。

 さらに、五百年前にも魔王復活の兆しがあり、そのときにもヒノモトの女性とムーンガルドの男巫おとこみこがダンジョンの奥地へと連れ去られたのだとか。


「ヒノモトの女性は高い霊力を持ったお姫様だったそうよ。そのお姫様を救出に来たのは侍の兄弟と一人の陰陽師だと伝えられているわ。そして、侍兄弟が装備していた刀がムラマサだったと言われているわ」

「……なんか、うちンところのうさんくさい話に似てるな」


 尊がそう呟くと、全員の視線が尊に集まった。尊は居心地悪そうに身じろぎしながら、ぽつぽつと話した。


「うち、鬼に攫われたお姫様を助けてできた家なんだって。で、無事に助けて帰ってきたら、お姫様が『二度とこういうことが起きないように』ってことで、鬼が出た辺りに神社を作ったんだよ。それが命の家の始まり。うちはお姫様を守ったってことで兄侍が神守の姓をもらって、神薙家に代々遣えたってのが始まり……らしいよ?」

「弟はどうしたん?」


 誉にそう尋ねられて、尊は苦い顔をほんのりと赤くしながら、嫌々という感じで答えた。


「お姫様を守り続けるために結婚したって。……それ以来、神薙家に女の子が生まれると、神守家の次男は婿入りさせられる決まりになって、て……」


 恥ずかしそうに俯いて口をつぐんだ尊をニヤニヤと見つめると、誉は合点がいったとばかりに手をポンと叩いた。


「なるほどなー! 命ちゃんが攫われた日は、あんさんたちの模擬結婚式の日だったんやな」


 うぐ、と尊が言葉をつまらせると、陣内が不思議そうに首をかしげた。


「何でそうなるんだ?」

「あのな、数え年で十六いうのは破瓜っちゅうんやけど、コレには処女喪失っていう意味もあってな──」

「昔はシたらしいけど、今はシないから! 添い寝! 添い寝するだけ!」


 顔を真っ赤にして慌てくためく尊を無視して、誉は真面目な表情で続けた。


「うちとカモさん共通の伝説、コレやわ。うちのご先祖も五百年前にダンジョンに潜ったんやわ。……ていうか、ほならマズいわ。あと半年しか時間があらへん」

「半年!?」


 その場にいた全員がギョッとして声を張った。誉はローザを見やると、彼女に問いかけた。


「あんさんところも、結婚前になって相手が攫われたんやろ?」

「え、ええ……。我が王家は、神からの寵愛を一番に受けている御子を王室に迎え入れることで繁栄を保ち続けてきたの。今代、王位継承権があるのは私だけだったから男巫おとこみこを……ということで、リュミエルが還俗することになったの。彼が攫われたのは、還俗の儀をする直前よ。でも、何故それを?」

「御子が御子のまま、かつ清い体のままというのがミソや。ただの男女じゃ、強い力なんか宿らんしな。ほんでもって、こちらが巫女、そちらが男巫という組み合わせとなったタイミングで蝕が起きるのが、ちょうど今だったんやね」


 誉がそこまで言い終えると、エドがハッと息を飲みこんだ。


「そうか……! 蝕は忌術を行うのに適している。そして、次の蝕はちょうど半年後だ!」


 エドが顔を青ざめさせると、誉がウンウンとうなずいた。


「せやから、半年以内に二人を救わんと。それを過ぎたら、命ちゃんの体内に魔王が宿ってしまうさかい……」


 珍しく誉が言い淀んだ。彼女が次に何を言おうとしているのか、誰もが察していた。しかし、尊は認めたくないと言わんばかりに誉の肩に片手を伸ばして強く掴んだ。


「……最悪、命ちゃんだけは殺さんといけなく、なるかも……」


 睨みつけてくる尊から目を逸らしつつ、誉は尻すぼみながらもそう断言した。尊は誉の肩を掴む力をさらに強めると、唸るように声を絞り出した。


「どうすれば、助けられるんだよ」

「痛い! カモさん、痛い! 放して!」

「どうすればいいか、言えよ! 早く!」


 誉に詰め寄る尊の間に、ローザが割って入った。ローザは力いっぱいに尊を押しやると、押されて尻もちをついた尊を見下ろしながら言った。


「言い伝えによれば、儀式は最下層の玄室で行われるそうよ。そこに入るには<護衛者の鎧>をまとう必要があるわ。でも、鎧はモンスター化して、ダンジョン内をさまよっているらしいの」

「じゃあ、その鎧を倒してアイテム化すればいいんだな!?」


 勢いよく上体を起こした尊に、ローザは静かにうなずいた。そして彼女は尊に手を差し伸べながら言った。


「そのためにも、私たち、パーティーを組みましょう。戦力は多い方が心強いし、伝説のムラマサ使いがいてくれたら百人力だわ。……どうかしら?」

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