第3話
「あー! あんさんが伝説のお侍さん?」
「伝説……?」
尊が顔をしかめると、自衛隊の上官が咳払いをした。
「神守尊君だね? この機密保持誓約書にサインを。それが済んだら、さっそく言祝誉さんと一緒に<ダンジョン>へと潜ってもらう。陣内三等陸曹を護衛につかせるから、安心して欲しい」
尊は上官を睨むと「ダンジョン!?」と声をひっくり返した。
「待ってよ! そもそも、この、陣内さんだっけ? 陣内さんだって、昨日ボロボロの状態で帰ってきたばかりじゃんか! そんな人と得体の知れない場所に行くなんて、安心できるわけがないだろ!? しかも、女の子と一緒にとか! ワケ分かんねえよ!」
ぎゃあぎゃあと喚く尊を残念そうに見つめると、少女──言祝誉はフンと鼻を鳴らした。
「上官さん。これはあきまへん。こないな小童、邪魔なだけどす」
「はあ? 小童!? お前、俺とそんな年変わらないだろ!?」
指さしてきてまで憤る尊に、誉は肩をすくめた。
「いややわ。人に指さすとか。ありえなーい。ていうか、言祝様に対してそないな態度、ようしはりますな?」
「んだと、てめえ!」
一瞬、聞いた覚えのある単語が聞こえたような気がした。けれども、尊は怒りで頭がいっぱいで、それどころではなかった。
「そもそも、これからダンジョンに潜るいうてますのに、何で戦闘装束じゃあらへんのよ。おバカさんやの?」
「んなもん、聞いてねえもん。ていうか、俺は制服でも十分強いから」
「そない言うなら、せいぜい見させてもらいまひょか。このツンツン頭」
「んだと、和コスツインテ。上等だ、オラ」
尊はボールペンをひっつかんで乱暴に誓約書にサインをすると、自衛隊の上官に投げつけるように渡した。
ガンの飛ばし合いをする尊と誉のことを、大人たちは呆れはてて静かに見守った。