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第2話

 自衛隊から解放された尊は、家に帰り、自室のベッドに突っ伏していた。


「自衛隊がダメなら、誰が命を助けられるんだよ……」


 尊の家は洞ノ木神社がある丘のすぐふもとにあった。神社のある丘から伸びる階段を下りてすぐの場所にある剣道道場が尊の家である。

 尊と命は同い年の幼馴染だが、よくある”兄妹のように育った”ということはない。というのも、数え年で十六になったら結婚するという取り決めがなされていたからだ。

 結婚といっても、実際に籍を入れるわけではない。あくまでも儀式的なものだ。事件があったあの日は、その”儀式”を行う予定だったのである。


「実際に籍を入れるのは、俺らが十八になってからって言ってたけど……。……まあ、別に? 俺ら、ただの幼馴染だし? それまでに、お互いに好きな人ができたら、それまでのアレだし?」


 尊がブツブツとそんなことを言っていると、誰かが部屋のドアをノックした。


「尊、ちょっといいかな?」

「兄ちゃん? なにー?」


 尊が返事をすると、兄がドアを開けて覗き込んできた。


「じいちゃんが、道場まで来いってさ」

「道場にぃ? なんだろ……」


 尊は面倒そうにそう言いながら、のったりと体を起こした。



***



 尊が道場に入ろうとすると、狩衣を着た老人と鉢合わせた。


「おっと、すみません」

「いやいや、こちらこそ」


 老人は関西訛りでそう言うと、上品に会釈をして去っていった。尊は首をかしげながら、道場へと足を踏み入れた。


「じいちゃん。さっきの人、お客さん?」

「ああ、言祝ことほぎ様だよ」

「偉い人?」

「そうさな。日本を裏から支える、凄いお人だよ」

「裏からって、ヤクザか何か……?」


 尊が苦い顔をするのもお構いなしに、尊の祖父は「ここに座れ」と言わんばかりに指で床を指した。尊が座ると、祖父は立ち上がって床の間へと向かった。そして一振りの刀を手に取ると、尊の前に戻ってきた。

 祖父は尊に刀を差し出した。


「お前にこれを渡しておく」

「は? 何で?」


 尊が戸惑っているのを気に留めることなく、祖父は続けて言った。


「銘をムラマサという。大事にするように」

「えっ!? うちの家宝、名刀・村正だったの!?」


 見せて、というように尊は差し出された刀を受け取った。しかし、少しだけ鞘から刃を出して眺めて見たが、尊には良し悪しがさっぱり分からなかった。


「千子村正とは違う。だが、名刀であることはたしかだ。……お前はこれを持って、命ちゃんの救出に行くことになった」

「は? 何で? 自衛隊も全滅だったのに、どうして俺が!?」


 祖父の言葉に、尊は驚いて刀を鞘に納めた。尊はただの幼馴染で、剣道道場の息子というだけで、それ以外は別段特別なことは何もない、ただの中学生だ。それなのに、何故──?

 祖父を問いただしても「言祝様からのお達し」としか答えてはもらえなかった。釈然としないまま、尊は自室へと戻った。



***



 翌朝、祖父に言われて仕方なく、尊は洞ノ木神社に顔を出した。念のため、刀を持って。すると、昨日と変わらず自衛隊が境内の中をうろうろとしていた。

 昨日取り調べを受けたテントに顔を出すと、狩衣姿の少女が椅子に座り、ゲーム機で遊んでいた。年は尊と同じくらいに見えた。さらにその奥には、昨日ボロボロの姿で帰還したばかりの陣内三等陸曹が座っていた。陣内は尊に気がつくと、立ち上がって上官らしき人物に耳打ちをした。

 上官は尊に声をかけると、テントに入るよう促した。尊がおずおずとテントに入ると、少女がゲームを中断して立ち上がった。


「あー! あんさんが伝説のお侍さん?」

「伝説……?」

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