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(仮)侍中学生くんが幼馴染ちゃんを助けるためにダンジョンに潜る話  作者: 小坂みかん


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第11話

 昼休みが終わってすぐの授業は体育だった。誉から解放された尊は体操着に着替えると、クラスメイトたちと一緒にのそのそと校庭へと出て行った。


「飯食ったあとすぐに運動とか、だりぃよなあ」


 誰かがそう言うのを、尊も笑いながら聞いていた。しかし、すぐさま尊たちから笑い声が消えた。男子の集合場所であるはずのところに、女子たちが群れていたからである。

 女子たちは先生を取り囲んで「カッコイイ」だの「彼女はいますか?」だのと黄色い声を上げていた。すぐに走り幅跳び用の砂場から、女子体育の受け持ちの先生がやってきた。


「こら、陣内先生が困っているでしょ!」

「先生、陣内っていうんだ! 下の名前は!?」

「だから! もう! あんたたち、授業始めるんだから、いいかげんに整列しな!」


 女教師にどやされて、女子たちは渋々と砂場に去っていった。もみくちゃにされてすでに若干ボロボロになっていた陣内は男子たちを整列させ、咳払いをした。


「竹内先生が育休をお取りになったので、臨時講師として赴任してまいりました。陣内護と申します。短い間ですが、どうぞよろしく」


 陣内のフルネームを聞いた森久保君が、突如大きな声を出した。彼は目をキラキラと光らせると、列から一歩踏み出した。


「やっぱり! 似てると思ったんだ! 先生、次期オリンピックで競技化が決定したムエタイの出場選手候補ですよね!? あれ? でも、たしか、所属は自衛隊……」


 無表情で固まっていた陣内は少ししてからにこりと笑うと「他人の空似です」とだけ言った。尊は、心の中で「嘘つくの下手かよ」とツッコミを入れた。


 男子たちの授業はハードル走だった。授業が終わって使用したハードルを体育倉庫に片付けている最中、尊は陣内に近寄った。


「先生、ちょっと話したいことがあるんですけど」

「そうか。じゃあ、放課後になったら、この体育倉庫に来い」



***



 放課後。尊が体育倉庫に顔を出すと、約束通り陣内が待っていた。尊は倉庫の中に入るや否や、陣内に向かって言った。


「陣内さんって、ムエタイの選手だったんすね」

「ああ。他の隊員よりも冒険者としての適性があったのは、それのおかげかもな」


 扉を背にしたまま、尊は気まずそうに俯いた。陣内は「どうした」と声をかけると、自分の隣に来るようにとでもいうかのように、椅子代わりにしていたマットをポンポンと叩いた。尊はおずおずと陣内の横に移動してボスッと勢いよく座ると、俯いたままボソリと言った。


「陣内さんは、生きた何かを殺したことって、ある……?」

「俺も、このダンジョンの任務が初めてだ。それが?」

「そっか、初めてだったんだ。……昨日さ、俺、中々刀抜けなくて、いざ抜いたら、そのあと吐いたじゃん? それで、今日、言祝が『猟友会に入ったとでも思え』だって」


 ああ、と相槌を打ちながら『おもしろい慰め方だな』と陣内は思った。尊は勢いよく陣内を見上げると、切実そうなまなざしで続けた。


「陣内さんはどうして平気だったの? やっぱり、自衛官だから?」

「自衛官として、国民の平和のために万が一のことに備えているというのは確かにあるが……。それでも、俺だって死を見るのは怖いよ。初めてのダンジョンで、仲間たちが次々と死んでいったのも、本当に恐ろしかったし」


 陣内がそう言うと、尊が目を丸くした。陣内は柔和に笑うと、尊から目を逸らして、ぼんやりと宙を見つめた。


「これは機密事項だから、聞いたらすぐ忘れろ」

「うん……?」

「何年か前、海外派遣中に戦闘に巻き込まれたことがあったんだ。支援先の戦闘兵や地域住民に死者が出てな。今まで普通に会話していたはずの人が目の前で死んで、パニックになったよ。正直、『ここでの活動が日本国民の平和に繋がるんだ』なんてことよりも、死にたくない、生き延びなくちゃということしか考えられなくなった」

「うん……」

「だから、お前がダンジョンでのことを怖いと思うのは何も恥ずかしいことではないし、むしろ当然のことだと思う。そんな中、よく勇気を振り絞ったな」


 陣内は尊の頭に手を置くと、わしゃわしゃと撫でまわした。尊はウッと声を詰まらせると、たちまちボロボロと涙を流した。


「俺、最初、命が連れ去られたとき、何もできなくて……。どうしようもなかったから、警察とか爺ちゃんを呼んでさ……。爺ちゃんに刀を渡されて『命を助けに行ってこい』って言われたときも、俺なんかができることなんてないって思ってたし……。モンスターと戦闘になったときも、どうしてこんなことに巻き込まれちゃったんだろうって思っちゃって……」

「うん」

「だけど、本当は誰よりも先に、あの穴に飛び込んで行って、命を助けたかったんだ……。なのに、弱音ばっかりの被害者ヅラな自分が、すごくダサくて……」

「ダサいなんてことはないさ」

「でも……」


 陣内は尊に胸を貸してやった。尊は陣内にしがみつくと、小さな子供のようにワンワンと泣いた。


「俺、強い侍になる……! 俺が絶対に、命を助けたい……!」

「なら俺は、全力でお前を守るよ。言祝もきっと、お前のことを助けてくれるさ」


 嗚咽を飲み込む尊の背中を、陣内は優しく擦ってやった。

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