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(仮)侍中学生くんが幼馴染ちゃんを助けるためにダンジョンに潜る話  作者: 小坂みかん


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第10話

 登校した尊がクラス最後列にある自分の席にどっかと腰を下ろすと、学級委員長がやってきた。彼はメガネをいじりながらプリントの束を差し出してきた。


「これ、昨日の授業のところ。僕がノートにとったのを、全部、コピーしておいたから」

「わ、サンキュー、委員長」


 プリントを受け取ると、尊は内容を見て百面相した。すると、クラスメイト女子の一人が尊に近寄ってきた。


「ねえねえ、神守。みこち、今日も休みなの?」

「ああ、うん。そうなんじゃない?」


 尊がしどろもどろにそう答えると、別の女子が話に加わってきた。


「ねえ、命ちのおうちで昔の爆弾が出てきたって本当? だから自衛隊がうろうろしてるんでしょ?」

「馬鹿、それならとっくに不発弾処理してるだろ」


 尊の近くの席の男子がそうツッコミを入れると、女子が不服そうに頬を膨らませた。


「でも、うち、命ちが休んでるのって爆弾見つけたときに怪我したからって聞いたもん」

「え、そうなの? 私は季節外れのインフルエンザって聞いたけど……」


 女子たちは互いに顔を見合わせると、一斉に尊に詰め寄った。


「ねえ、本当はどうなの? 神守、本当のこと、知ってるんでしょ? ねえねえ」


 尊が笑ってごまかしていると、担任が教室に入ってきた。女子たちが自分の席に戻っていったので、尊はホッと胸をなでおろした。

 担任は出席簿を教卓の上に置くと、教室を見回しながら言った。


「えー、季節外れですが、本日、この三年一組に転校生がやってきました。みなさん、仲良くするように」


 クラス中がざわざわと騒がしくなり、尊も周囲の友人たちと「どんな子かな?」などと言い合った。


「さ、言祝ことほぎさん。入ってらっしゃい」


 担任の言葉に、尊は顔をしかめた。教室前方のドアがガラリと開いて入ってきたのは、ニコニコ顔の誉だった。


「おっ、おま……!」


 思わず、尊は立ち上がった。担任は尊を見つめたあと、誉に視線を移して首をかしげた。


「何だ、お前ら。知り合いか?」

「へえ。爺様じっさま同士が昔馴染みやさかい、昨日おうちに行って挨拶させてもろたんです」


 品よくコロコロと笑う誉に、尊は身震いした。


「家族の仕事の都合で引っ越して来ました、言祝ことほぎほまれいいます。以後、よろしゅう」

「知り合い同士なら、ちょうどいいな。……すまん、森久保。端の列に言祝さん用の席を用意してあるんだが、お前、ちょっとそっち移ってくれる? 言祝さん、まだこっちの教科書持ってないんだよ」


 担任の言わんとすることを察した森久保君が「はーい」と返事をしてガタガタと机と椅子を動かして隣から去っていくのを、尊は青い顔で眺めた。クラスの端から机と椅子を運んできた誉が、ガタンと尊の机に自分の机をぶつけてきた。尊はいっそう青い顔でその様子を見つめた。


「というわけで、神守。言祝さんの面倒を見てあげて。よろしく」

「えぇ~……」


 無責任に言い放つ担任に、尊は蚊の鳴くような声を出すことしかできなかった。



***



 休み時間、誉はクラスメイトに囲まれていた。


「言祝さん、京都の人って本当にドスドス言うの?」

「若い人はあんま言わんよ。うちは爺様たちの影響で、たまに言うてしまうんやけど」

「神守んと知り合いってことは、命ちのうちとも知り合いなの?」

「せやねえ。でも、昨日は神薙さんとは会われへんかったのよ。けど、写真は見せてもろたよ。亜麻色の長い髪の、どえらい可愛い子ぉやな!」


 居心地悪く縮こまっていた尊は、誉が何か言うたびに「おい」と小さな声で声をかけていた。しかし、誉が無視を決め込むので、尊の声はどんどんと大きくなっていった。


「何やの、カモさん。そない大きな声出して」

「いいから。ちょっと、こっち来い!」


 尊は誉の腕を掴むと、無理やり廊下へと連れ出した。そして、彼女に詰め寄ると、小さな声でこそこそと話しかけた。


「何でお前がここにいるんだよ!」

「朝言うた通りや」

「いや……。えー……? ダンジョ──」


 誉はダンジョンという単語を言いかけた尊の口を慌てて抑え込んだ。そしてにっこりと笑うと、小さいながらもドスの効いた声でぼそりと言った。


「昼休み、ツラ貸しいや」



***



「あんさん、お馬鹿さんやの? 機密保持誓約書にサインした意味考えや! 誰かが聞いてるかも分からんところで、ダンジョンのことを言うのは禁止! 分かった!?」


 昼休み、尊は屋上にて誉に絞られていた。尊はしゅんと肩を落とすと、小さな声で「すみません」と謝った。誉は不服そうに尊を睨みつけると、腕を組んで胸を張った。


「他にも『すみません』言うこと、あるやろ」

「え、何……」

「肩! 痛かったんやけど!?」


 尊は昨日、思いきり誉の肩を掴んだことを思い出してハッとした。申し訳なさそうに俯くと、そのまま深く頭を下げた。


「その節は、本当に申し訳ございませんでした」


 誉は下げられた頭を一瞥すると、フンと鼻を鳴らして目を逸らした。


「ていうか、あんな鬼の形相ができるんやったら、最初からバリバリ戦こうてほしかったわ」

「う……。それも、申し訳ございませんでした……」


 ばつが悪そうな尊を見て、誉はフウと息をついた。


「まあ、初めて(・・・)なら仕方ないわな。……ええか、カモさん。ダンジョンのことは『猟友会にでも入った』って思っとき」


 わけが分からないというかのように尊が目を瞬かせると、誉は立てた人差し指をクルクルと回しながら言った。


「イノシシやら鹿やらが増えすぎたら生態系が崩れるから、猟友会が駆除するやんか。それと同じって考えや」

「え、だから、何?」

「だから、害獣駆除のために殺生したからといって人を殺しとうなるわけやないし、罪に問われるわけでもないやろ? ……つまりや。カモさんは大丈夫やから」


 ビシッと人差し指を向けてくる誉に、尊はぽかんとした。そして二、三度瞬きをしてから、尊は首をかしげた。


「もしかして、俺、今、気遣われてる?」

「せやで! うちは優しいからな!」


 プンと横を向いた誉に、尊は感謝の言葉を伝えようとした。誉はそれを「業務連絡」という言葉でかき消した。


「パーティーの連携力を高めるために、日中も一緒に生活せえって。てなわけで、ジンさんも教員として赴任してきてるから。よろしゅう」


 驚いた尊の「え!?」という声が、空に響いた。

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