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転機が訪れたのは、私が13歳の時だった。
生まれて直ぐに親に捨てられ、国の外れにある修道院に拾われ、お世辞にも良い暮らしとは言えなかった。育てた花を街で売り小銭を稼ぎ、院の皆で少ないじゃがいもを分け、ご馳走は時々慈悲で分けてくれるパン屋さんの余り物だった。
身なりは良くなくても、自分達を必要としている大人がいるらしくて、月に1人。多くて2人が引き取られて行く。
だからシスターに貴族らしい人を紹介された日は、「あぁ、私の番が来たのか」ぐらいにしか思わなかった。
「マルク・ウェルスだ。
今日から、君は私の娘だ。よろしくね」
人の良さそうな笑を浮かべ、差し出された手は、ゴツゴツとしていて荒れいた。その手に自分の手を重ね合わせてしまい、思わず手を握ってしまったのは仕方ないと思う。
「宜しくお願いします。アイリスです」
この時、私は初めて自分の名前に違和感を感じた。
マルクさんに連れて来られてやって来た所は大きなお屋敷だった。私が最初にした事は、お風呂に入る事だった。今までに無いぐらい贅沢にお湯を使い全身を人に洗いこまれた。
綺麗になった私は、自分でもビックリするぐらい可愛かった。黒く澱んで灰色かと思っていた髪はピンクのプラチナブロンドだと初めて知った。血色の良くなった肌に碧目が輝いており、大変身した私を見たマルクさんも満足そうに頷いた。私も思わず頷いてしまった。
これまた、美味しいオレンジジュースを飲みながら、マルクさんは色々と説明をしてくれた。
マルクさんは元は商人で腕前を見込まれて男爵の位を授かったらしい。
私を連れて来たのは、貴族との繋がりを増やす為で3年後の16歳に学園に入って貰う為らしい。難しい事は考えず、友達を作って貰えたら嬉しいと言われた。
「その前に、入学出来るように沢山学んで貰わないと行けない。学園に行って貰うのは、私の為だが、君の為にもなるだろう」
「はい、学ぶ機会を下さりありがとうございま。一生懸命頑張ります。」
家庭教師付くのは来週からで、その間体を休めてこの家に慣れるのが仕事らしい。
この上ない待遇に、目を見張りつつお礼を行った。
その後は、マルクさんの身の上に付いて説明してくれた。
今では書類仕事の方が忙しくて現場には出れないそうだが、物に触れ物を仕入れて商人たちと腹の探り合いがしたいと笑っていた。
腹の探り合いなら今では日常茶飯事らしいが、やはり貴族は大変だと言っていた。
「この話は、ここだけ内緒だ」と口に人差し指を当てウィンクをした。その仕草が貴族らしく無く、私は事時初めて笑った。