犯罪予告書き込みを発見したので、実際に通報してみた
7月某日、とある平日のことです。
その日、朝の8時過ぎに目を覚ました私は、コーヒーをなみなみ注いだマグカップを片手に、パソコンのスイッチを入れました。
窓の外からは通学中の高校生の笑い声が聞こえてくる時間ですが、私の仕事はシフト制です。土日祝日に出勤することもあれば、平日お昼のワイドショーを見ていてもお咎めなしの場合もありという生活を送っております。
この時は非番でした。他の職種の友人と予定を合わせるのは面倒ですが、平日休みの日に役所に行きやすく、買い物でも混雑に悩まされないのは、この勤務体系ならではのメリットですね!
朝食のパンをかじりながら、インターネットに接続します。真っ先に開いたのはネットニュース……ではなく『ウマ娘』です。ログインボーナス獲得とデイリーミッションのクリアは、ここ最近朝イチの日課になっています。
とりあえず30分ほどかけてミホノブルボン(1992年クラシック2冠馬)の育成を終えます。この時はスズカさんに『逃亡者』のスキルを見事「あげません!」されてしまいました……おのれスペカスぅ!(八つ当たり)
一息ついて、某巨大掲示板を開いた時でした。
とあるスレッドが表紙に上がってきていたので、何の気もなしにクリックします。
そして画面が切り替わった瞬間、私はディスプレイに釘付けになりました。そこにはこんな書き込みが刻まれていたのです。
「もう頭に来た、東京にある○○に放火してやる! これで俺の名前は我が国の歴史に残るぞ!」
多少のフェイクを混ぜているため実際に発見したものとは異なりますが、おおむねこのような内容でした。投稿はほんの数分前。スレッド内では最新のレスで、コメントなどは投稿されていません。
「あ、これ確実にあかんヤツやん」
開口一番、私は呟きました。
多様な情報に溢れるネット社会ですが、誰でも容易に発信できる性質上、そこには嘘も悪意も渦巻いています。その中でも犯罪予告は特に悪質なものとして、脅迫罪や威力業務妨害など明確に刑罰の対象に規定されています。
書き込み時間から、この書き込みに気付いた人はまだほとんどいないはず。これは第一発見者の責務として、警察まで通報するのが筋でしょう。
それにしても一言で警察と言っても、ネット上の犯罪予告の場合、具体的にどこに通報すればよいのでしょうか。取り急ぎネットで調べてみます。
検索エンジンに『犯罪予告 通報』と打ち込んでみると、「ネットでの書き込みに関する通報はこちら」といった具合に各自治体のサイバー部門など多くのサイトがひっかかります。ですがいずれも受付は電話だけ。メールでの受付は見つけられませんでした。
おそらくは緊急性の高い通報もあるためでしょうか、メールではどうしても時間差が生まれるでしょうし。
さてさて、通報のためにスマホを手に取りますが、ここでひとつ問題に気付きました。
日本の警察は都道府県ごとに管轄が分かれています。大阪府警とか千葉県警とか、ああいった具合ですね。
私は横浜市民、つまりは神奈川県民。しかし書き込みの内容は「東京にある」○○に放火するというもので、東京都警……じゃなくて警視庁の管轄下です。この場合、通報するにしてもどっちにすればよいものやら。
ディスプレイの前で悩んでいてもラチが明きません。イチかバチか、警視庁の総合窓口に電話をかけてみました。
「すみません、横浜市に住む者ですが、ネットの掲示板に犯罪予告に相当するであろう書き込みがありまして……」
「それでしたら神奈川県警に通報してください」
「内容は東京都の○○に放火するぞ、というものなのですが、それでも神奈川県警なのですか?」
「はい、通報先は最寄りの警察署となっております」
へえ、なるほど。実際に事件として捜査するのは警視庁でしょうが、それでも窓口は通報者の地元の警察署が代行することになっているようです。
担当者の方は親切にも神奈川県警の連絡先も教えてくださったので、案内された番号に早速通報です。
「はい、神奈川県警です」
「すみません、横浜市に住む者です。実は……」
掲示板で犯罪予告の書き込みを発見したこと、スレッドのタイトル、レス番号、書き込みの時間まで事細かに伝えます。特にURLを口頭で伝えるのは結構手間取ります。MとNとか聞き間違えやすいので、「マリオのMです」など工夫すると相手にもわかりやすいでしょう。実際に口頭でアルファベットを伝えるフォネティックコードというものもありますし。
「それではお名前と住所、電話番号を教えてくださいますか?」
「はい、横浜市○○区――」
ここで初めて知ったのですが、警察では原則として匿名での通報は受け付けておらず、通報者の情報も収集することになっているそうです。匿名での通報というのは特殊詐欺などに限って受け付けているようですね。
たしかに匿名でも受け付けてしまうと、イタズラ目的の通報が増加してしまうでしょうね。基本的に電話での通報になっているのも、メールだとイタズラがしやすいからでしょうか。
ひとしきりの内容を伝え終え、電話を切ります。決して体力使ったわけでもないのに、朝からどっと疲れた気分です。こういう時はウマ娘で気分転換するに限ります、ちょうど中距離先行型で強い子が欲しかったので、トウカイテイオー(1991年クラシック2冠馬)の育成に取り掛かりましょう。
それから10分も経たない頃でしょうか。机の上に置いていたスマホが、突如ブブブと鳴りだしました。表示されていたのは見慣れない番号です。
「はい、悠聡ですー」
「すみません、警視庁△△署なのですが」
なんと、都内の警察署からでした。
「先ほど神奈川県警からファックスが送られてきたのですが、その件で確認がしたくて」
「いえいえ、どうぞ」
改めて通報の内容を伝え直します。事実の再確認と、通報者が嘘を吐いていないかの確認の意味合いも含まれているのかもしれません。
あれから既に1週間以上が経過しましたが、正式に捜査が行われているのか、書き込んだ者がどうなったのかといった情報は現状聞き及んでおりません。ですが神奈川県警からも情報が入ったという記録は残されているはずですから、何かしらの対応はなされているものと思われます。警察など公的機関が開示請求を行えば、運営企業も返答せざるを得ないでしょう。
実は私自身も警察に通報するという経験はこれが初めてで要領も心得ていかったのですが、警察職員の皆様が丁寧に対応してくださったために滞りなく通報を済ませることができました。日々業務に当たっている警察職員の皆様には、この場で感謝の意をお伝えしましょう。いつもいつも、ありがとうございます!
さてさて、ネット掲示板での書き込みを見つけたことから通報に至った今回の一件ですが、こういった出来事は昼夜あちこちで起こっていることでしょう。
広い広いネットの世界、どんな過疎コミュニティであっても、誰がいつどこで見ているかわかりません。特に掲示板は自分の書き込みを消去して訂正することもできないので、一時の激情に任せた文章が半永久的に残ってしまう恐れがあります。私が目にした掲示板も書き込みは数日に1回程度という過疎っぷりで、犯罪予告を見つけたのも本当に偶然でした。
書き込んだ本人にとってはジョークのつもりだったかもしれませんが、第三者からはそれが本気か嘘なのか推し量る術はありません。ネットの書き込みが原因で、警備を増員したりイベントを中止するなど何らかの対応がなされた事例は珍しくなく、そして実際に逮捕に至った事件も枚挙に暇がありません。
そういった過去の事件を経て以降、匿名掲示板でも個人が特定されるとある程度広まったからでしょうか、最近は犯罪予告による逮捕は一時に比べて減少したような印象を受けます。
今回は犯罪予告という性質上、警察への通報という対応を取ることにしました。しかし犯罪とはならずとも、悪意ある嘘は掲示板に限らずネット上のあちこちであふれ返っているのが現状です。むしろ老若男女一般層までユーザーが広まってしまったことで、かつての嘘があって当たり前という認識が共有されていたアングラ時代よりも悪化してしまったとさえ言えます。
悲しいことにこの小説家になろうにおいても、特定の個人を誹謗中傷したり真偽不明のデマを喧伝しようとする作品や感想は時折見られます。フェイスtoフェイスなら口ぶりや表情から冗談かどうかある程度見抜けますが、字面だけで書き込んでいる側が本気か嘘か判断する難度は跳ね上がります。
この一件で私自身も掲示板やSNSに書き込む際には、送信ボタンを押す前に一度内容を読み直し、本当にこれで良いものかと再考する必要性を改めて実感しました。特に小説家になろうは文字だけのコミュニケーションツールなので、受け手が誤解しないよう発信する内容には細心の注意を払うべきだと個人的には思います。犯罪予告にせよ誹謗中傷にせよ、通報に値する事案には臆せず通報していきたいものです。
そして何より、これから始まるキャンサー杯決勝ラウンドに向けて、マイル適性に全振りしたより強いオグリキャップを育てたいところですね! ところでCygamesさん、メイショウドトウちゃんはいつになったら実装されるのですかぁ!?