8 尾行する!
「なぁなぁお前、今日何やってんの?」
4限目、つまり3回目の休み時間が終わったところで未来は、隣の席の鳥居にそう話しかけられた。
「しっ、今は授業中ですよ」
そう返すと、
「いいじゃん気になるんだからよー、休み時間の度にどこにすっ飛んで行ってんだ?」
「君はそのミステリー部の天使のことだけ考えてればいいと思います!」
「お、気になるか?いやぁ~ほんとやっぱり泉ちゃんは天使なんだよ~…」
聞いてもいないのに勝手にしゃべりだした。とりあえずとなりの人間は置いといて授業に集中する姿勢をとりつつ、他のことを考えた。つまりどのみち授業は聞いていないわけだ。
鳥居の言うとおり休み時間の度にすっ飛んで教室を出て行き、森野の観察をしていたのだが、まぁ初日と言うのもあり何も成果は上がっていなかった。クラスメイトの女の人と話してたり、トイレに行ったりで。
これで誰か女の子と接吻なぞをしてればそれをネタに脅したりするんですけどねぇ…。
と、段々森野の観察と言う目的が違う方へ行ってる気もするが、どちらにせよまだ面白い事は無い。正直この授業も抜け出して観察に行きたくてうずうずしているが、次は昼休みだし後は放課後にもなれば何かしら発見はあるかな、と自分を何とか抑える。
と、色々考えごとをしていたら、授業終了の鐘が鳴った。それと同時にかばんの中に入ったあんぱんと牛乳を取り出し、教室を出ようとする。
「おい…まだ授業は終わってねぇぞ、どこへ行く」
しまった…この授業は数学だった!
入学初日に出会った先生の授業だということを忘れていた自分を未来は呪った。
「敵前逃亡は体罰の刑だな、神に祈れ」
胸ぐらをつかんで今にも殴ろうとしてくる教師に、周りの生徒たちは引いていた。乱暴そうだということは今までの授業から皆何となく理解していたのだが、実際に殴ろうとするところをみるのは初めてだったのだろう。
きっと教育委員会が!とか言っても、この学校&この教師には無駄なんだろうなぁ…。しょうがないので神に祈ることにした。
「あ、あそこに幽霊が!」
「!?」
「幽霊だと?非科学的な存在が、殴り殺してやる!」
と言うと数学教師の凛は走って行ってしまった。
目を白黒とさせていると、鳥居が、
「危なかったなぁ、あの教師、噂だとクマを素手で殴り殺したとか、瓦50枚割りに成功したとか、さまざまな伝説が」
「君のキャラクターを考えると礼を言うのはなんだか癪ですが、おかげで助かりました、ありがとうございます」
「お前、口に出てるぞ」
未来の皮肉(?)にも動じずに、笑いながらそう返した。意外と大物なのかもしれないなぁとそう思った。
「ちょっと急ぐのでこれにて」
「なんか面白いことなら、俺にも言えよ~」
鳥居以外ポカーンとしてるクラスを置いて、未来は走り出ていった。
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「はぁはぁ、あ、あの…森野先輩は…」
ひと悶着あったせいか、森野と小倉のクラスに着いた時には、もう目当ての人物はいなかった。なので息を切らせながら、先ほどの休み時間に森野と話していた、ボーイッシュな女の先輩にそう聞いてみた。
「ああ、あいつになんか用か?さっきどっか行ったけど?」
「むぅう…」
「多分屋上とかにいるんじゃないか?」
「あ、ありがとうございます!」
「ほら、バカとなんとかは高いところが好きって…」
その女の先輩が言葉を言い終わる前に未来は走り去っていた。
「はぁはぁ…!いた」
森野は屋上でサンドイッチと紙パックのコーヒーを広げていた。
いたのはいいが、これはこれで何も調査が進みそうにないなぁと思った未来は、自分もあんぱんを森野から見えないところでほおばることにした。
途中、一人の女生徒が屋上に入ってこようとしたが、なんか入りづらい異様な空気を感じ取ったのか、そそくさと立ち去って行った。
その時に森野は振り返っただけで、後はずっと空を見ていた。
まさか、ここにいることで大気中の気温や湿度、天気を読み取り、それを家庭菜園に活かしてるんじゃ…!
と精いっぱい森野を立てようとしたが、鼻ちょうちんをぶら下げて居眠りをしだした森野を見て、高いところが好きなばかだったか…と、理解した。
・・・ザワザワ
「…ん」
何やら校門の方が騒がしい。森野を見ているうちに自分も寝てしまっていたようだ。大きく一度伸びをし、眠たい目をこすりながら屋上から様子を見てみる。
すると何やら警察車両と救急車が来ていた。何か事件でもあったのだろうか?
ふと屋上を見まわしたが、森野はすでにいなくなっていた。
結構寝ちゃってたのかなぁと、自分のドジっぷりに呆れてしまう。
とりあえずもう授業が始まる時間なので教室に戻ることにした。