球技大会 次の日 2
拓と霧島に誘われ、喫茶店部に一緒に来ていた未来、
注文したメニューをある程度食べ進んだところで、昨日の球技大会の話題になった。
「こいつもお前の球を避ける動きを見て、感心してたぞ」
「お、おお…それは光栄ですねぇ」
「あれだけ球をよけ続けられるとは思ってなかったし、
その状態でも冷静な判断力を保っていたのがすごいなと」
あんまり褒められ慣れていないので、そこまで言われるとつい押し黙ってしまう。
憎まれ口にならすぐ皮肉で返せるのに。
「あの状態のままだったらこちらも決め手に欠いたし、
もしかしてドッヂボールを元々やっていたとか?」
「いやいや、いやいやそんな褒めすぎですよ!」
「それか、球を避けれるような特別な鍛錬をしていたとか?」
ギクッ
その霧島の一言にパフェを食べてる手が一瞬止まる。
拓の方を見ると、同様にハンバーグを食べる手が止まっていた。
「でもあれか、お前らの入ってる部活は家庭菜園部だもんなぁ」
あれ、冷たいパフェを食べているはずなのに汗が垂れてくるぞ?間違えてホットで注文したかな?
「ん?そういや拓も昨日一発ももらってないんじゃないか?やっぱり何か秘密特訓でもやってんのか?」
「・・・はは、まっこいつは最終的には頭にぶち当たってたけどな」
ナイスフォロー!・・・ナイスフォロー?
「そ、そうですよ、結局は取れませんでしたし!それに霧島先輩が当たったのも自分見てませんよ?」
「いや、こいつ実は一回戦目の最初の球で当たってんだよ」
「ばらすなって」
「ええっ!?全然想像つかないんですけど」
「ぼーっとしてやがんの」
「あれはお前が話しかけるから!」
「でもさ、私見てたけど、あの時の方がなんか試合スムーズだったよね」
小倉が不意に話に割り込んでくる。
「あー、内野が俺で外野に梨菜子がいたからサンドイッチで攻撃できたからか?」
「そうかも!」
「私としては当たったことの方が不本意なんだがなぁ」
・・・確かに、外と内に分かれられると、集中を両方に向けなければならないから、想像するとえぐいなぁ。え、なに、じゃあやっぱり負けるのは必然っていうこと?
くやしいが認めるしかないのか?いや、もう結果は出ているのだから認めるも何もないのだが。
その後も話は盛り上がり、ちょうどの区切りのところで私が用事を済ませたいと申し出て、
この会はお開きとなった。
ちなみに用事というのは家庭菜園部の畑の世話である。用事も何も部活動なのであるが…。
あと一番盛り上がったのがファイヤートルネードサンダーのネーミングセンスについてであった。
それを打ち取った二人の技をファイヤートルネードサンダードラゴンにすればよかっただとか、
明らかにバカにしている。もちろん私もバカにした。
「それじゃあ、ちょっと部室寄るんで先行ってるわ」
「おう、俺もあとから追いかける」
拓の返事を聞き、霧島は先に支払いを済ませ去っていった。
二人でどこかに出かけたりするのだろうか?
まぁどうせ後で部活動(本来の)で顔を合わせるのだから、それまでの時間、遊んでいようが何しようが気にすることでもない。
「じゃあ俺らもいくか」
「?霧島先輩だけ先に帰したからてっきり何か話があるのかと思いましたが…?」
拓はそう言う未来を無視し、会計を済ます。
もちろん支払いは昨日の球技大会でもらった校内だけで使える金券だ。ちゃんとお釣りも出るぞ。
1000円単位は金券で返ってくるが。
「ほらよ」
というと、お釣りの金券を未来の手のひらに乗せた。
「え、え?」
「お前、自腹切って家庭菜園部のモノ買ってんだろ?少ししか足しにならねえが使えや」
なんてこった。普段はだらしがなくて粗暴なくせに見るところは見てやがる。
でもせっかくの好意だ、大事に使わせてもらおう。
「ありがとごぜーます」
「ま、どうせあぶく銭だしな。だったらちゃんと使ってもらったほうが気分も良いってもんだ」
江戸っ子か!
「じゃあな、あとでな」
□ □ □ □ □
一通り畑の世話を済ませた後、
暗くなるまでの時間、未来は屋上に来ていた。
寝そべり、ただただ空をぼーっと見ている。
この夕方から夜にかけての、
空の色が刻一刻と移り変わっていくさまを見ているのが好きだ。
日が山の向こうに沈み、そこから漏れている光が闇に少しづつ浸食されていく。
その途中、頭の中で僅かにラジオの電波のようなものを感じ取った。
未来は胡乱げな様子から一転、
瞬間的にバチリと目を見開き覚醒した。
拓と合流しなければと思い、いきおいよく屋上の柵を飛び越える。
・・・柵を、飛び越える?
「あっやばっ」
着ぐるみを着ていないことにたった今、気が付いたが、そう思った時には既に遅く、
「あああああああ・・・!!!」
地面に向かって落ちていく。
「せ、せんぱい~~~~~~~~」
ボフッ
地面スレスレのところで、モフっとしたものに包まれた。拓の着ぐるみの腕であった。
そのまま拓は走って家庭菜園部の部室に飛び込む。
暗くなってきたとはいえ、まだ校内に人が残っているからである。
部室で未来を降ろした着ぐるみのクマは、
表情が見えなくとも怒気をはらんでいるのが分かった。
クマの頭を外し、
「おい」
「なんですか?」
顔を横に向けて返事をした。
無理矢理顔を正面に向けさせられる。
「昨日言ったばかりだろ!着ぐるみの時とそうでない時を混同するなって!」
「だってぇ…」
「だってじゃねぇ!」
「大体前にも全く同じこと言ったが、俺が着ぐるみ着てなかったらどうするんだよ!
あまつさえ誰かに見られたらとか、そもそもいなかったらだとか、しっかりしろよ!次は死ぬぞ!」
「すいませ~ん」
未来はふくれっ面でそう答えたのであった
「あっ、そういえばさっき何か現れたっぽいんですが」
「ああ気にすんな、どうせ昨日の残滓かなんかだろう」
「残滓?」
「いやお前には関係ないから大丈夫だ」
「んん~?」
未来は頭を捻る。
ついでだし思っていることも言っておこう。
「そういえば毎日着ぐるみ着て訓練しているのに、なんか全然敵が現れないんですけどどうなっているんですか?」
「あのな~、平和なのに越したことはねえだろうが。
それに俺らのやっていることは警察みてえなもんだ。いざって時だけでいいんだ。
話し合いで解決する場合もあるだろうしな」
「そんなもんですか」
「ああ、そんなもんだ」
出番があまりないと聞いてガクッと肩を落とす未来。
「まぁ安心しろ、どうせいずれ出番が来る。そしたら嫌でもやらなきゃなんねえ」
この発言からすると、拓は何かしら力が必要な相手が現れると確信しているようだ。
私にはまだわからないが根拠でもあるのだろうか
今回一つ分かったことは、
球技大会での動体視力のように、着ぐるみを着ての訓練が実際の自分の肉体にも身につくということ。
これがどう活動に影響があるかはまだわからないが、意味のないことではないのは確かだろう。
そしてそれを過信せず、うまく活かしていくべきなのだろう。
もう屋上から落ちるのだけはまっぴらだ。




