球技大会 6
自陣に一人になってしまった未来。
ここからは一つのミスも許されない。
しかし過度な緊張は動きを鈍らせる。呼吸を止めないようにし、体を揺らしてリラックスする。
無理して取りに行かないように、基本は避ける。よし、方針はこれでいい。
避ける、避ける、避ける。
見える。普段の着ぐるみを着て動く訓練が身になっている。
だんだん、二つのボールの動きがスローに見えてくる。
最後の一人なので無理はできないが、かわすことくらいなら問題はない。
場のボール位置を把握し、後ろの外野に回ったボールも意識下に置いておく。
着ぐるみ装着時とは違い、背中までは視えないが衣擦れの音や、足が地面を踏む音などで
来るタイミングは把握できる。
最も注意すべきは前方にいる拓と霧島の二人なので、そこだけは絶対注意を逸らしてはいけない。
拓が甘い球を投げてくるが、アレはそちらに気を取られた隙にもう一つで仕留めようという魂胆が見える。
しかも球はさほど速くも無いが取り損ねるように猛烈に横回転がかかっている。
避けるが吉、だ。
霧島のパワーボールも取りに行かなければ問題はなさそうだ。
挙動が大きいので、投げる前に動いておけば狙いも定まりにくく力が発揮されにくい。
こちらのスピードに合わせてか、霧島が動作が素早くコンパクトな球を投げてくる。
といっても一番最初に肩慣らしで投げたレベルの球だ。
一瞬取れるか?と頭をよぎったが、拓がボールを持って狙いを定めているところが目に入ったので、
無理をしないで避けておこう。油断も隙も無い。
霧島が攻撃型のアタッカーだとすると、拓はフォロー型兼防御型となるのだろう。
どちらかというと自分も拓と同じになるのだろうが、拓の方が取るのが得意な分
ドッヂボールという競技である以上はこちらの方が不利である。
すばしっこさなら負けてないと思うのだが…。
くそう、霧島先輩以外の人間の球は正直ゆるゆるに見えるのに、拓先輩がこちらをよく見てるから、
うかつに取りに行けない。
自分が当たらなければ負けもないけれど、
何にしてもボールをキープできないと勝つことも出来ない。このままじゃ体力をじわじわ削られていくばかりだ。
「未来ちゃん、どこかで取らないと!」
「わかってます!」
うん、分かってはいるんだよ。とりあえず、拓がもう一つボールを持っていない状態の時に、
霧島先輩のパワーボール以外の球を狙って…。って来た!
一つ球が外野に渡った状態で、霧島先輩の速攻重視の肩慣らし球が投げられた。
球の軌道の正面に入り
ボールに手を伸ばそうとする
「ばかっ、お前!」
聞きなれたその声が耳に入った瞬間
バフッ
未来の顔面にボールがヒットした。
華麗に鼻血を吹き出しのけぞったところで、
もう一つの外野から投げられたボールが後頭部から当たり、
その勢いのまま未来は地面にぶっ倒れた。
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気が付いた時にはベッドに寝ていた。
「ここは…?」
きょろきょろ見渡すと、どうやら保健室らしい。健康優良児である未来にはあまり縁のない場所だ。
「起きたかー」
森野が何やら飲み物を抱えて保健室に入ってきた。
「なんか飲むか?」
「じゃあコレ」
「ほい」
何故か森野が選ぶ飲み物は紙パックが多い。好きなのだろうか?その中からバナナオレ的なものを選んだ。コーヒー牛乳に、プリンオレ、イチゴオレとだだ甘いものが多い。
以前俺が甘いもの好きだと思ったか?とか言ってたような気もするが…。
「甘くて口の中の水分持っていかれるものは嫌いだ」
飲み物なら良いのか?
「私、負けちゃったんですね」
一息ついてからそう言う。
自分の口で言うと尚更、悔しさが滲んでくる。
ボクっ娘ほどではないけれど、なにかにぶつけたいような気持ちになる。
「負けたというか、一応顔面セーフだったがな。
まぁ続行不能なもんでうちのクラスの優勝にはなったぞ。
…まぁそのなんだ、全学年いる中で一年坊で準優勝というのは中々のもんじゃねぇの?」
慰めているつもりなのだろうか。拓先輩が?ちょっと笑ってしまう。
「まったく、先輩はフォローがヘタですねぇ」
「なんだと」
一旦飲み物をストローでチューチュー吸う。
「あ、そういえば気絶する直前先輩のばかっって言う声が聞こえた気がしたんですけど」
「気のせいだろ」
「う~ん、いや、絶対聞こえました」
そう未来が言うと、拓はキョロキョロと辺りを見まわし、未来が寝ているベッドに腰掛ける。
「あの瞬間、俺から見てだが、お前は集中しすぎて着ぐるみを着た時のように認識能力だけ加速状態だと感じた。ただ運動能力だけは普段のままだからな。あのままだと危ないと思っただけだ。
つまり普段の着ぐるみを着ての経験が脳では認識されていて、
着ぐるみを着ているときと着てない時の区別がついてないってこったな」
だから、取るのが間に合うと思ったのに手が追い付いてこなかったのか。
「ということは先輩もそういう経験を?」
「さぁな」
「だが、着ぐるみの時と普段のお前は違う、別のモノだと思っておいた方がいいぞ
今日は遊びだからこの程度で済んだが、例えば何かの怪異に出くわしたが、万が一何も身に着けていない状態だった場合。
また着ぐるみ着ているような感覚に陥るか、もしくはなんとかできると思ってしまったら、
取り返しのつかないことになるかもしんねぇ。腕の二本や三本無くなるか、最悪死ぬこともあるかもしれない」
「腕は三本ないですよ?」
「例えだ例え!」
遊びといえば一つ気になっていたことがあった。
「そういえば拓先輩、今日は絶対本気じゃなかったですよね?」
「気付いてたのか?」
「そりゃまぁ。あえてフォローに回ってた感じだったので。余裕もありそうでしたし」
「あー、なんつーかな。さっき言ったことと同じだな。
着ぐるみ着たイメージで本気で投げると、多分2,3発で肩がいっちまうからな。
それでもお前を打ち取れる確証はねぇし、ヘタすると外野も取れないしな。目立ちたくないというのもあって、梨菜子のやつ(←霧島のこと)をある意味利用させてもらった」
いやいや、十分目立っていましたけど?
外野も取れない球って、霧島先輩のパワーボール以上っていうことだろうか?
そういえば余裕なかったのでうろ覚えだが、あの球も外野がとる時二人がかりで取っていたような…。
特殊な訓練もしていないのにそんな球を投げられる霧島先輩もすごすぎるが…。女子だし。
「・・・はぁ」
つまり自分達が今回負けたのはある意味必然だったということか。
ため息もでるってもんですよ。
「ま、今日は部活動休みにするから、家帰ってゆっくり休めよ」
「そしたら水やりだけはお願いします!」
「わーったよ。ったく」
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サブマリンを使いこなすのがキーポイントでもなんでもなかった。




