球技大会 2
〇登場人物その2〇
・森野拓
二年生。家庭菜園部の部長で司馬未来の先輩。普段だらけているのに、
着ぐるみを着ての修行の時は未来に厳しい。ストレスをぶつけてるんじゃないかと未来は思っている。
・霧島梨菜子
森野拓と同じクラス。新聞部の部長で土屋咲の先輩。バカで単純だが、運動神経だけはずば抜けているらしい。運動している時はかっこいい。授業中は主に寝ている。
・小倉杏
森野拓と同じクラス。喫茶店部所属の看板娘。混みあっている店内を自在に動き回ることができ、
“空間の魔術師”の異名を未来が勝手につけた。やさしいが喫茶店馬鹿である。
生徒会
今回の球技大会には参加せず、審判として活動する。
普段は部活動や生徒たちの為の行政活動や相談、雑用などまとめて行っている。
・副会長
三年生。凛々しい。とにかく隙を見たことがない。
・書記
三年生。学ランで坊主頭。怖そう。今回初めて見た。
- - - - -
『本日行う球技はドッヂボールだ、ただ普通にやっても面白くないからな、ボールを二つ使う』
球技大会の開会式のため、生徒たちが集められたグラウンドで、
生徒会の副会長からそう発表された。
それと同時に校庭がざわっとどよめく。
未来もボールが2つとなると戦術も出てくるから、うまくやらないとだなぁ。でもパワーのある男子と当たってもやりようはありそうだ、等と考えていた。
「どのクラスが強そうですかねぇ」
その後の教頭の相変わらず長い話の間に土屋咲に話しかける。
「やっぱり一番は霧島先輩のクラスかな。私たち一年生のクラスだと多分準決勝か決勝まで行かないと当たらないけども」
霧島先輩と言うのは家庭菜園部の拓のクラスメートであり、
咲ちゃんの新聞部の先輩でもある。
「ひいき目抜きで?」
「もちろん。前に新聞部の取材で校内うろついていた時にさ、野球部のボールが飛んできたのよ。よくわからないけどホームランくらいの距離を。それをかるーく投げ返してたし。他にも普段の体育の授業とかでもやっぱり目立つみたいで、二年生の今でも部活にしょっちゅう誘われているよ。あ、未来ちゃんも知っていると思うけど森野先輩もそれなりに運動できるみたいだよ」
確かに森野拓が家庭菜園部で普段やっていることを考えれば運動できると想像に難くない。
着ぐるみのおかげでケガはしないけれど、組み手のようなことをやっていて何度ものされてきた。
・・・私の反射神経をもってしてもアレだけやられているのだから、“それなり”というレベルじゃないと思うんだけどもなぁ。と未来は思った。
もしくはそれだけ新聞部の霧島先輩が化け物なのか…。
あとは、あのクラスだと小倉先輩か、
空間の魔術師の異名をとる(勝手に未来が言っているだけ)あの人なら、
その空間把握能力でドッヂボールならよけるのも得意そうだ。
「私?でないよ」
たまたま開会式が終わった後に見つけた小倉に聞いたら、すぐさまそう言われた。
球技大会が終わった後は、昼休みも放課後も喫茶店部が激混みするんだそうだ。なにやら打ち上げとかそういった理由で。
「優勝賞金もらえたらそれでよし、仮にもらえなくとも、喫茶店部に落としてくれればそれでよし、一石二鳥だね」
と言ってブイサインをしていた
そう、参加者だけでなく、今回はクラスの全員が優勝賞金をもらえるのである。
「一石すら投げていない気が…」
「まぁまぁ細かいこと気にしない」
背中をバンバン叩かれた。
「どちらにしても忙しくて死ぬし…。未来ちゃんはそのかっこだと選手として参加するんだね、
頑張ってね」
とさわやかにウインクして去っていった。
「男の人だったら、あんなのイチコロだろうなぁ」
切にそう感じた。
○ ○ ○ ○ ○
ルールは初期位置は中6人、外4人。
当てても復活はなし、当たって出ていくタイミングで最初外だった人間は入れ替わりで入る。
決勝までは時間制限での残り人数で判定あり。
決勝のみ全滅まで行う。
というルール説明が生徒会のメンバーからなされた。
なんか坊主頭でごつい人である。生徒会の部屋に行った時も見たことのない人だった。この人も参加するのだろうかと思ったが制服を着ているところを見ると参加しないのだろう。
その辺りをこそっと聞いてみたら、事前に球技を知っているため公平性を保てないとかで参加しないんだと。
余談だが、副会長は万が一自分のクラスが優勝したら、自分の分の賞金は学園の図書館に本を寄付するために使うらしい。相も変わらず清廉潔白という言葉がふさわしい。
だが本人としてはそうではなく、あくまで自己満足だと言い張っている。中々に頑固者である。
しかし万が一と言い含めているところをみると、自分のクラスが勝つ可能性は少ないなどと思っているのだろうか?
○ ○ ○ ○ 〇
一回戦は同学年の隣のクラスだ。
体育の時間など合同で行うことも多いため、顔見知りくらいはいるが特段授業で目立っている人や仲の良い人物もいない。
運動部の人間が数人いるが、私たちに比べればモブであると言っても良いだろう。
「では、はじめ!」
最初の立ち上がりは互いに様子見の体であったが、
途中で味方の甘い球からボールが二つとも向こうに行ってしまった。
「狙われているよ咲ちゃん!」
「わ、わかってるよ~」
集中的に咲が狙われ始めた。
確かに彼女は運動神経は、女子としては中の上とか上の下くらいかもしれないが、
男子生徒が入り混じったこのフィールド上ではお世辞にも俊敏とは言い難い、男女入れて中の中くらいの平均人間である。
強いて言うなら、身長が低いから当たりづらい位だろうか?
…おそらく誤差の範囲だが。同じく身長の低い自分としてもなんとしてでも誤差の範囲だと信じたい。
ここでも身長が低いということを認めたくない自分がいる。
ボールをキャッチしに入ろうにも、同時に二つで狙われている以上、下手に手を出すのも危険だ。
この状況をどう打破するかと思っていると。
「アウトだ。土屋、外野へ」
「えーーーーーっ、わたし当たってないですよ?」
確かにぎりぎりよけているように見えたが、…一体。
「そこだ」
生徒会のごつい人が指さしたのは…
「髪の毛ぇ?」
よくよく見ると、たしかにいつもはピンと立っているはずの玉ねぎ頭の葉の部分の先端が曲がっている。
ボールに当たったのだろうか。と言うかそれ以外考えられない。
「咲ちゃんのばかーーーー!何でこういう時までそんな頭してんのさーーーー!」
「あ、あうあうあうあうあぁ…」
「まぁまぁ、何とかなるから大丈夫だぜ」
鳥居の何の根拠のない大丈夫の発言も大丈夫か?とは思ったが、彼が冷静で落ち着き払っているところを見ると、何故かきっと大丈夫なんだろうという安心感がある。
「俺は水神先輩と違って分析とか得意じゃないけどさ、
なんとなく感覚で人のクセとかくらいなら分かるんだぜ」
鳥居に指でちょいちょいとされたので、近くに寄ると耳打ちをされた。
ふむふむ、相手チームのあの人は少し足を引きずり気味だから足元を中心に狙っていくのと、
あの人はボールが相手の中心に行きがちだから、正面で取れやすいか。
なるほど。よく見ているなぁコイツは。
その後、相手側は無傷だが、こちらが数人やられたときに何とかボールを二つ確保することができた。
よし!
「反撃開始ですよ!」
「おらいくぜぇ!くらえ、ひっさぁーーつ!ファイヤートルネードサンダー!!!」
炎なのか竜巻なのか雷なのか、鳥居よ、せめて属性は一つに絞れ!未来は心の中でそう思った。
「なにぃーー!」
ついに一人打ち取った。威力自体はなかなかのものだったが正面に行ってしまい、ボールを取られるかと思った時に、ボールがぶれたように見え、相手は取り損ねたようだ。
相手陣営がざわめいた。こちら陣営もざわめいた。
「あれはまさか、…無回転ボール!?」
外野に出てやることのない土屋咲が解説役に回った。
今まで余裕を見せていた相手チームに緊張感が生まれる。これはチャンスかもしれない。
相手に当たりこちらまで戻ってきたボールを再び鳥居がつかむ
「みたか!俺のファイヤーハリケーンサンダーを!」
「さっきはファイヤートルネードサンダーだったよ?」
土屋のツッコみは正しいのだが、真面目に返しすぎてなんだか恥ずかしくなる。
「こ、こういうのは勢いが大事なんだよ…」
鳥居の言葉が痛々しい…。
しかし、これは使えるかもしれない。
「もう一回だ!ファイヤートルネードサンダーーーー!」
相手チームの体がこわばる。鳥居のファイヤートルネードサンダーを取りに行くリスクよりも確実によけたほうが良いと判断したのか、相手は大きくかわす。そこへ未来が狙い撃ちする。
「へへ、漁夫の利ですよ」
「ナイスチームプレイだぜ!」
褒められた。
その後もファイヤートルネードサンダーを警戒されつつ、漁夫の利作戦も警戒させつつ、
なんとか制限時間には相手を上回り勝つことができた。
やったやった!
試合終了後、健闘をたたえ合う握手が交わされる。
ただのモブだと思っていましたが、なかなかやるモブに昇格しましょう。おめでとう!
心の中でそう言っておいた。




