ミステリー部活動調査報告 逆立ちする幽霊編 2
「いらっしゃいませー」
喫茶店部に来ているミステリー部の水神と鳥居。
鳥居が注文したアップルパイを平らげて、しばらく雑談しながらまったりしていた時、
司馬のそんな声が聞こえてきた。
「いますよ~二人とも」
とこちらに向かってきたのは、案の定森野泉であった。
「な、言ったとおりだったろう?」
「あいかわらずすごいなー。この予定調和っぷり」
「??」
泉の頭の上で?が浮かんでいる。
「まぁいいから座って座って。飲み物はなんか出してくれるってさ」
「おい、その発言だと俺が奢るみたいじゃないか」
「いいだろ?結果的には同じなんだからさー」
「全然違うわっ。あ~今月分の部費が少し余っているから飲み物くらいは出せるぞ。っていう話だ」
「そうなんですね。それでは有難く頼ませていただきます。
それよりすみません。遅れてしまって…」
森野泉は恐縮したように頭を下げる。
「いいよいいよ」
「だからお前が言うなって。まぁ今日は準備もそこそこに時間を潰していただけだからな。
気にすることじゃないぞ」
まぁそう言ったところで気にはしてしまうのだろうが。
「何たのみますか?」
司馬はずっと口をはさむタイミングを計っていたようだ。
「ではミルクティーをお願いします」
「かしこまりましたー」
注文を用意しに戻っていく。
「それで、今日はどこ行ったの?」
「ええと大宰府というところに行ってしまいました…。なんでも梅の絵が描かれたお餅が名物らしく食べてきましたが」
「大宰府って四国か何かだったっけ?」
「福岡の人に失礼だぞ。梅ヶ枝餅だな。あそこは菅原道真が祀られていて、受験などの学業の時にお参りするメッカと言ってもいいな。学、お前には縁のない場所だな」
「よくわかってんじゃん」
「そうなんですね、相変わらず水神先輩はいろんなことをよく知っていますね」
「これくらいは割と一般常識だと思うが…。ああ、泉、お前は地理がアレだから仕方ないか」
「?」
鳥居学はよくわからないといった表情をしている。
そうしているうちに飲み物も運ばれてくる。
「それで、今日の活動はなんなのでしょうか?」
「確かにお前には言ってなかったな。以前にも話したことがあるが、逆立ちする幽霊の調査だ」
「ふむふむ」
「目撃人数が増えているが、問題が起きているわけではないから比較的安全かとは思っている。
油断は禁物だがな」
「どの時間にどこで目撃されているんでしょうか?」
「部活動が終わるくらいの時間帯らしいよー。あと体育館で見られるとかさっきそこの司馬が言ってた」
名前が出たので、何だろうという顔でこちらを当の本人が見てくる。
「なるほどなるほど。どうして逆立ちなのかとかは気になりますが、
そこは実際に見た時の楽しみにとっておきます」
□ □ □ □ □
辺りも暗くなり夜も更けてきた頃、三人は体育館に向かう。
「なんか緊張するなー」
「お前のセリフには緊張感が感じられないな」
「私も緊張しますね。未知のものに出会えるかもしれないっていう喜びといいますか」
「それは緊張なのか?まぁだらけているよりは遥かにマシだが」
体育館に到着する。
部活動はもう終わっているようだ。扉を開こうとした時に独特の感覚を覚える、どうやら当たりなようだ。
「開けるぞ」
当然真っ暗であるので、電気をつける。
「あ、いた」
「こんな広いところで一人で逆立ち…」
「一瞬でみつかりましたね…」
幽霊もこちらに気づいたようで、手招きしてくる。もちろん逆立ちしたままである。
「おう客か、入んな」
客でもないし、そもそもお前の家じゃない。
そんな無粋な返事は吞み込んでおく。
「失礼する」
敵意がなさそうとはいえ、油断させておいて取って食うような妖怪などもいるため、
すぐに動けるように最低限の緊張感は身体に張り巡らしておく。
近づくと口の周りのひげがもじゃもじゃしているのが特徴の幽霊であった。
「にいちゃんねえちゃん、よう来たな!」
「なんかフランクな幽霊だな」
「そういう差別はいけねぇよ!」
「差別?」
「ホラ、人間だとか幽霊とかよ、俺っちだって幽霊になる前までは人間さ、
だったら同じくくりでもいいじゃねぇか」
そう言い出したら、生者と死者の区別がつかなくなるから大問題だと思うのだが…。
まぁ機嫌を損ねると聞きたいことも聞けなくなるので、余計なことは言わずに置いておく。
「まぁなんだ、何にもねえところだがくつろいでくんな」
「ちょっといいか?この会話をビデオに撮ってもいいか?」
「おう!撮んな!」
幽霊に個人情報とか肖像権なんてものがあるかはわからないが、
水神が一言断っておいたが、相手は特に考えもせずの即答であった。
これは見られたがっているんじゃないかと言っていた学の想像が大当たりだな。
「だがよぅ兄ちゃん、俺っち幽霊だろ?ビデオに写んのかねぇ」
「まぁ映らなくても、こちらの会話は取れるだろう?そしたら記憶を頼りに思い出すこともできるだろう」
「頭いいなぁ」
「じゃあ私、メモ取ります!」
「おっいいぞお」
というか幽霊と人間区別するなとか言ってた割に、ビデオに映るのかは気にするのか。
そう思いながらビデオカメラを設置していると、鳥居学がこそこそ話しかけてきた。
「なぁなぁ、幽霊ってビデオ映んのか?」
やれやれ、そんなのやって見なきゃわからないというのに結果を求めたがるというのは、
最近の若者はせっかちである。
「さぁな、ただ…。俺が思うに“今回”は映らないと思うぞ」
「ええ、なんでなんで?」
自分で考えろと言いたいが、このひげ面逆立ち幽霊との会話の途中だ、とりあえず餌をやるのが良いか。
「あの幽霊自体がビデオに映ることに半信半疑だ。
前にも言ったかもしれないが、霊的なものは思いの強さで現世に縛られる可能性があるからな、
霊がそう思っているならそういう可能性もあるだろうよ」
「ふ~ん」
その間、森野泉は霊に、逆立ちしながらピース出来ますか?とかなんかミーハー(?)なことを言っている。
霊も霊でちゃっかり、それに応じている。
「よし、準備できたぞ。
それじゃあすまないが、質問していくから、出来たら答えてほしい。
応えられない質問があれば、そう言ってくれれば構わない」
「おう、どんとこい超常現象」(※)
お前が超常現象だ。水神と鳥居は心の中でそう突っ込んでいた。
森野泉は真剣なまなざしでメモを持ちながら幽霊を見ている。
「では始める。まず一体ここで何をしていたんだ?」
「あんちゃん見て分かんねえか?もちろん逆立ちさ」
「逆立ちをしている理由は?」
「いやよぉ、さっきも言ったがよぅ、俺は幽霊である前に人間さ。
人間なら立って歩きてぇと思うんだよ」
「しかし幽霊には足がない?」
「おっ、兄ちゃんよくわかってんじゃねぇか」
「それで、代わりに手で逆立ちをして、歩いているようにというわけですか?」
「そうそう、そしたら少なくとも地面に立ってるように見せれるんじゃねぇかと思ってよ」
「なぁなぁ幽霊って重力あんの?フワフワとんでるイメージもあんだけど」
再び鳥居がこっそり質問を投げかけてくる。
「それもさっき言ったようなことだな、おそらく彼はお前と同じようなイメージを持っているはずだ。
なので重力もないし足もない。だから逆立ちして歩いてはいるが、普通の人間が逆立ちをするのとは違い
大変ではないはずだな」
「ん?そういやあの森の霊は足あった気がするな~」
「そうだな、だからすべての霊に言えることではなく、この幽霊だからこそこういうことになっていると言えるな」
「ほ~ん」
疑問を持つことは結構だが、納得したら興味を失くすところはやめてくれと言いたい。
※どんとこい超常現象
以前テレビで流行った、トリックというミステリーの主人公の相方が出した本の名前。だったような。




