6 情報収集!
「あら未来ちゃんいらっしゃ~い、ってその顔どうしたの!?」
小倉はあざになった側頭部と鼻血を垂らした未来を見てそう言った。そしてとりあえず椅子に座らせてもらい、頭冷やすものを持ってきてくれた。
「誰かに殴られたの?」
すごく心配した顔で聞いてくる。さっきの先輩と比べるとこの優しさが心に染みる。
「えーと、そういうわけじゃないのですが…」
これ以上心配かけさせるわけには…という感情と、昨日よりも喫茶店部にお客さんが入ってるため、けがの話は大きくしないことにした。
もしかしたら、あの目つきと性格の悪い先輩が、直属の上司になるかもしれないし…
とりあえず聞きたいことを聞いてみる。
「あの~、小倉先輩は家庭菜園部ってわかりますか?」
「家庭菜園部?ああ、森野君のクラブね、それがどうかしたの?」
やっぱり昨日言ってたのは家庭菜園部のことだったんだ。
「あそこって他に部員とかって…?」
「う~ん、詳しくは知らないけど、いないと思うなぁ、それっぽい人と一緒にいるところとかみたことないし、あ、森野君は私のクラスメートね」
森野先輩と言うのか…覚えておこう。
「もしかしてその顔のケガ、森野君に…?」
「えっ、いやいや、これはうん、私がその辺で転んじゃって…あははっ。と、とりあえず、その家庭菜園部に仮入部に行こうとしたら断られちゃって~」
「う、う~ん、仮入部してまでやる活動とかしてないと思うけど…」
苦笑いされた。
「でも、園芸とかそういうのに興味があるなら、いっそ家庭菜園部をのっとって森野君を手下にして使ってしまうのもいいかもね!」
失礼ながら、まるで発想が同じだなぁと思ってしまった。
「注文いい~?」
「あ、はいは~い、今行きますね~」
他の生徒から小倉が呼びかけられた。
「未来ちゃんごめんね、ちょっと注文入っちゃった。ゆっくりしてて」
そう言うと未来のところから離れて行った。
とりあえずわかったことは、あの不良の名前は森野だということと、小倉先輩のクラスメートということと、どのような活動をしているのかいまいちわからないということ。
「これだけ聞くと、部室を自由に使うために部を作ったとも思えますが…。でもそしたら部室にもっとモノが置かれていてもおかしくないし、部員がいないって言うのもおかしな話ですよねぇ…。かといって部員を募集していないとなれば、やっぱりやる気もあるようには…」
考えても全くわからない。バミューダトライアングルの謎くらいわからないと未来は思った。
本人に聞くのが手っ取り早いが、教えてくれるかどうか…。いや、教えてくれないに違いない。
「ごめんごめん、お待たせー」
小倉が帰ってきた。
「お仕事のほうは大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ~。後はお客さんの面倒を見つつ、最後に今日の売り上げを計算するくらいかな。デザートの仕込みとかは明日の朝やればいいし」
「むむむ、それだけでも大変そうな気が…」
「あはは、慣れちゃえば全然問題ないよ~、普通のお店とかと違ってこうして来てくれた人と気楽に話せるのも、校内喫茶の特権だと思ってるしさっ!」
下手によくわからない家庭菜園部なんかに入るよりも、喫茶店部に入ったほうが、こうして楽しく部活をできるんじゃないかと思ってしまった。
でも…最終的に入部するかはさておいて、謎だらけの秘密(?)を解くことも心が躍る。むしろ未来にとっては、楽しいことが確約されているよりも、そっちのほうが強く惹かれるものがある。
理性よりも本能がそう訴えているのだ。とかかっこよさげなことを思ってみる。
「あのー、クラブがどんな活動をしているのかとか、そういうのわかる方法があったりしませんか?」
「う~んとね、活動報告書って言うのを各クラブでつけるのを義務付けられているから、それをそれぞれの部で見るとか、あと生徒会にも提出するから生徒会のほうで見せてもらうか、どっちかかな?」
「なるほど~、ありがとうございます!」
部で見せてくれと言っても、どうせ門前払いを食らうだろうから、生徒会のほうに行ってみよう。そう考えてた時だった。
「小倉いるか~、ちょっと聞いてくれよ、さっき部室に変な奴がきて…」
「あ、森野君」
「…変な奴とは、私のことですかねぇ」
「げ、さっきのチビ!?」
「チビとはなんですか!」
森野は一目散に逃げ出した。
未来もそれを追う、が、一度喫茶店部から出たとこで、顔だけ喫茶店部に戻し、
「小倉先輩、色々ありがとうございました!」
「未来ちゃん、いってらっしゃい~」
困るわけでもなく、小倉は笑ってそういった。
そして未来は森野を追う。
が、角を曲がったところで森野を見失ってしまった。
「ハァハァ、ここなら大丈夫だろ」
「あ~ま~い!」
「げっ!?」
男子トイレの個室に逃げた森野が上を見ると、何時よじ登ったのかトイレの仕切りの上に、未来が腕組みして立っている。しかし!そのまま立つには天井の高さが足りず、身体がねじ曲がっているのが滑稽だが、返ってそれが不気味さを増している。
「男の行動パターンなんてお見通しですよ!」
「ひぃっ」
バタン!ここにいては追いつめられると判断したのか森野はトイレを飛び出した。
「ま~て~、家庭菜園部にい~れ~ろ~!」
そのまま10分ほど追いかけっこをしたところで森野はようやく気がついた。
「よく考えたらなんで俺はこいつから逃げてるんだ」
突然廊下の真ん中で立ち止まった森野に未来は激突した。
体重の軽さのせいか激突した未来の方が地面に倒れた。
「俺に付きまとうんじゃねぇ」
追われると逃げてしまうところを見ると、普段からろくでもない生活をしているのだろうか?それともただ単にアホなだけなのか。硬派ぶって去っていく森野に、未来はそんな感想を抱いた。
はぁ、押して相手が折れて入部作戦も失敗かぁ。
ですが私はまだまだあきらめませんよ!
未来の脳内の作戦ファイルその2が開かれた。