初めての家庭菜園部 3
「こりゃすごいな」
司馬未来の跳躍に森野は正直に驚いた。
着ぐるみを着ているとはいえ、基本ベースの能力は本人に則している。
つまり、本来の未来が高く跳べるからこそ、
木々を越え、校舎の高さを越え、空と一体化するほどの高さまで到達することができたのだ。
恐らく自分ではそこまでは行かないだろう。
「だが、ちょっと後先考えてないな」
- - - - -
「@@@@@@」
ん?森野がこちらに向かって声をあげている。耳の感度をあげてと
とその瞬間、
「うわあああああああああああああああ!」
「落ちるぞー」
「もう落ちてますよおおおおおおおおお!」
ドーンと地鳴りがする。
フワッと夢見心地の状態から、急に強烈な重力に引っ張られたもんだから、
それはもう口から魂が出そうな状態のまま地面に衝突することになった。
着ぐるみのおかげで全くダメージは無いのだが、ぶつかったときのショックで起き上がれない。
そこへクマがやってきた。
「お前なー、もうちょっと考えろ。正直あんなところまで飛べるとは思ってなかったが、飛んだら落ちるのは当たり前だからな。山だって上ったら、下りなきゃならないんだぜ。上るのに全力を使いすぎたら下りる体力も残らないだろ?その辺ちゃんと見極めてセーブしろ」
「はい」
普段なら悪態の一つでもつくところだが、今は素直に受け取った。
経験からくる言葉と。それと
まださっきのドキドキが自分の中に残っている
ぐぅ~~~~~
その余韻を搔き消すようにおなかが鳴った。
そういえば歓迎会とか称して連れてこられていたから、ずっと何も口にしていないな。
それに気づいたら気づいたで、もうおなかがすいて動けなくなる。
騙されて連れてこられたことにも腹が立つ。
しかし食べてきていたら食べてきていたで、きっと吐いていたとも思うので結局はこれで良かったと思わなくもない。もしかしたらそういう親心であろうか。
「よし、今日はこんなところで上がるか」
校内の中庭にある家庭菜園部のプレハブに戻ってきた二人は、ロッカーに自分の着ぐるみを仕舞う。
そして時間も時間なので、学校が始まる時間までコンビニで買ってきた朝食を屋上で食べながらのんびりしている。
ここで言うコンビニとは購買部のコンビニではなく、正式なコンビニである。購買部のコンビニは今は早朝すぎるので閉店中。
「どうでもいいですが、拓先輩って呼んでもいいですかね?」
「なんだ藪から棒に、それとどうでもいいとか言うな」
「いやだって、泉ちゃんだって森野じゃないですか、紛らわしいんですよね」
「もうひと、いや、あいつはいいか。しかたねぇな、まぁ名前で呼んでもいいぞ」
「?・・・ああ、私のことも未来ちゃんと呼んでいいですよ」
「誰が呼ぶか!呼び捨てなら呼んでやる」
「あとそういえば、拓先輩は何でこんな部活やってるんですかねぇ?自分から進んでって柄じゃないでしょうに」
「俺の事をよくわかっているな。まぁなんだ、学園長に命令されたんだよ」
「えっ、直々に?なんで!?」
「さぁな。まぁしいて言うなら、部活もやっていなかったし、成績も悪いし、
素行もいいとは言えねぇ。都合がよかったんじゃねぇの?」
「ふ~ん、じゃあ家庭菜園部ができる前はなにしてたんですかね?」
「あ~、それはだな…。お前にもイメージしやすいように言うとだな、
この学園って文化部の方が力入っていると思わねぇか?」
「…たしかに。そういう方針なんですかね?」
「いや、そこは生徒に自由にやらせていたら結果的にそうなったようだが。
ま、スポーツよりも、より一般的な職業に近い部だと、身近に見本があるからな、
目指すものが分かりやすいのかもしれない。
そういった理由もあっておそらく力が入ってるんだが、
そうなってくるとやっぱりやる気のある生徒はやる気のある部活に入りがちだ。
どうしてもスポーツなんかはプロになるとかは、目標が高すぎてぼやけてしまうんだろうな。
だからお世辞にもあまりうちの体育会系のクラブは強いとは言えない」
「ふむふむ」
「強くもないし、あまつさえ人数も足りないなんてこともざらだ。
そうなると、練習試合をしようなんて思った時はどうすると思う?」
「ああ、分かりました!助っ人を呼ぶんですね。
ということは、運動部の助っ人を?」
「ああ、わりと毎週のように休みになるとお呼びがかかってな、
助っ人に行ってたぞ。ある意味部活巡りのようなもんだな」
めんどくさがりだと思っていたが意外と面倒見がいいのがそういうところにもでているな。
いや、めんどくさがりなのは寝不足のせいか?
てっきり自分の予想だと、やる気のない非行少年に学園を護るという目的を与えて、更生させようとしてたんじゃないかと予測していたのだが、
話を聞いていると、自分から部活に入るとかは無いようだがそれなりに交友関係も広く学園生活を送っていたと見て取れる。目つきは悪いが、人と訳もなく諍いを起こしたり、窓ガラスを割ったりするような人物ではない。目つきは悪いが。ああ、でも初めて着ぐるみのクマに出会った時窓ガラス割っていたな。
「そうだ、一つ忠告しておくぞ。着ぐるみ着た時の状態だがな勘違いするなよ?あれは借り物の力だからな、自分の力だと思って無暗矢鱈に行使するんじゃねえぞ」
森野はそう言った。
確かに。人によっては自分が強くなったと勘違いして、尊大にもなるかもしれない。
「だけど時には必要な力だからな。うまく付き合っていけ」
それを何よりも分かって実行しているのがこの人なのだろう。
家庭菜園部がここまで表ざたになっていないのがその証拠である。
誰にも褒められないけれど、
誰にも認められないけれど、
淡々とこの学園の平穏を守っている。
だから色んな人を知り、色んな人を好きになるよう、
部活巡りをさせたのだろう。
「いや、あれは単なる思い付きだ」
ガーン、なんかすごくいい雰囲気(自分の中だけでだが)のところだったのに、
全て台無しにするとか、馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?そう口にも出しておこう。
「知るか!お前が勝手に解釈したんだろっ」
そういうと森野はその場でゴロンとふて寝をした。
「まったく、素直じゃない先輩だ」
大丈夫、ここできっとやっていける。




