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家庭菜園部で行こう!!  作者: ゼリー
導入
53/210

53 盛大なる勘違い


「せんぱーーーーーい!!!!!!」


 言い終わると同時に未来は手の力が抜け、


 ま、自分はよくやったと思い、落下しながら目を閉じる。




 そして頭から地面に叩きつけられる、その瞬間


 上から下に落ちるベクトルから、フワっと横方向に体が流れていく、

少しふわふわしたものに包まれて。



「・・・森野先輩、来てくれたんだ」

「ばか野郎、無茶しやがって」


 それは何度も目にした着ぐるみをまとった森野であった。


 未来に負担がないようにゆっくりスピードを落とし、そのまま家庭菜園部の部室に抱きかかえたまま連れていかれ、ようやく降ろされる。


 森野は着ぐるみを脱ぎながら言う。


「大体俺が着ぐるみ着てなかったらどうするつもりだったんだよ。さすがに生身じゃスルーするぞ?」


 着ぐるみ?柔らかいからか?

まぁいいか。


「いや、そこは女の勘ってやつですよ」

「考えなしなだけだろ。

・・・いいか、もっとよく考えろ、こんなやり方じゃ命がいくつあっても足りねぇ、

無茶をしないで人を救える方法を考えろ」

「え、それって?」


 森野は恥ずかしそうに顔を横に向けて頬をかきながら、


「ああ、ここまでされちゃあ仕方ねぇ、

負けたよ、お前の情熱は本物だ。

認めてやる、家庭菜園部の入部を許可してやるよ」



 森野に認められた。

今まで何をやってもやめろだのなんだの言い続けられてきたのに…。


 そんなことを考えていたら

ぼろぼろと目から大粒の汁がこぼれてきた。

こんな顔を見られたくないので、後ろを向く。



「これからよろしくな」


 横目で見ると

 手が差し出されている。


 

 やめてくれ、なんだこの演出は、


 ますます汁が止まらないじゃないか。


 目からでるどころか、鼻からもでるし、油断していると口からも出る。


 一旦これを抑えたいので、服の袖で顔を拭い、

 鼻をすする。


 そして一呼吸入れて

 返事をする。











「お断りします」


「・・・は?」


「いやぁだってこうして家庭菜園部の謎も解けたし?大体、お金も稼げなさそうだし?入ったところで部員も二人だけでしょ?それじゃあつまんないっていうかぁ…ふぐぶぅうじゃぁっふぁ!?」


 森野が無理矢理未来の手を握り、そして潰す。


「ここまで秘密を知った以上、野に放すわけねえだろうがこのくそバカ野郎が!」

「ちょ、てぇつぶれぐじゅるうみぅうなぞ、野郎じゃないし!」

「遺言はそれだけか?マジ死ね!」

「やだ!死なない!」

「死ね!」

「死なない!」


 不毛な押し問答を繰り返した末に森野は何やらごそごそと紙を持ち出してきた。



「もう入部届も用意してある、後はおまえの判を押すだけだ!」

「ちょっと、何で勝手に用意してるんですか、名前も書いてあるし!

っていうかあれだけ普段からなじっておいて、何で事前にちゃっかり準備してるんですか!このツンデレ男が!」

「うるせえなほら、さっさと拇印を押せ!」


 森野は未来の指を無理矢理、紙に押し付けようとする。

 必死に抵抗するが、力ではかなわない。


「これは今流行りのパワハラというやつですよ!」

「大体さんざん人を振り回しておいて、なんだその言い草は!」

「人を振り回しまくったのはあなたでしょうが!」

 



 こうして平和的に(?)司馬未来は無事家庭菜園部に入部することになった。



「落ち着いたか?」


 紙パックのコーヒー牛乳を未来は与えられ、それをストローで飲んでいた。

今現在は購買部のコンビニは時間外であるから、森野が誰か捕まえて無理矢理買ってきたのだろう。

仕事時間外にも仕事をさせるなんて、なんて横暴なお客だろうか。


「私は最初から落ち着いてますよ」


 あえて機嫌悪そうに発言する。


「嘘をつけ噓を」

「大体、紙パックのコーヒー牛乳って何ですか。どうせなら喫茶店部の100%オレンジジュースとかがよかったなぁもう。それに今日だって喫茶店部に何の気なしに行ったら小倉先輩があったかいココアを出してくれたし。先輩としての格が違うんじゃないですか?」

「そりゃ悪かったな」


 なんかついつい森野といると素直になれずに悪態をついてしまう。

 ダメだな、ちょっと自分の悪いところかもしれないと反省した。


「先輩」

「なんだ?」

「もしかしてですけど、4月の間、私に部活巡りをさせたのって、いろんな人とつてをつくらせて仕事をしやすくするためだったんですかね?」

「…さぁな」

「先輩ってただの馬鹿だと思ってましたが、結構深く考えてるんですねぇ」


 ゴチン

 森野のゲンコツが未来に頭にヒットした。


「お前は俺を何だと思ってるんだ!」

「いたたた、ただの三年寝太郎だと思ってました」


 もう一発ゲンコツが頭に入ろうとしたとき、

未来は先を読んでよけることに成功した。


「フフフ、いつまでも同じ攻撃を受け続ける私じゃないですよ!」

「生意気なやつだな」


 今度は横から両手のゲンコツでこめかみが挟まれる。いわゆるウメボシというやつだ。


「ああ…!いたいいたい!それはギブギブっ!」


 と、その時急に部室の扉が開いた。


「あ~、いたー!」


 二人してそちらの方を見る。


「もう~、ちょっと未来ちゃん!探したんだからね!」


 小倉であった。いつになく怒っている様子だ。


「ふらっと喫茶店部に来て、ふらっと荷物置いたままいつの間にいなくなって、

閉店時間にも帰ってこないから何かあったんじゃないかと心配したんだよ!様子もおかしかったしさ!」


 確かに荷物を置いたままであった。今の今まで忘れていた。

 実際に何かあったわけであるが、(しかも生死が掛かるほどの)それを小倉に言うわけにはいかない。


「それには深い事情がありまして…ごにょごにょ。ええ、それは山より低く海より高い理由が…」


 小倉がカツカツと距離を詰め寄り、

 そして未来をギュッと抱きしめる。


「ほへぇ!?」


 予想外の行動にあっけにとられた。

 しかもあったかいし、いいにおいがする。

 女の子って柔らかいんだなとまるでおっさんみたいな感想ももった。


「はい」


 離された後、鞄を渡される。


「ありがとうございます。心配させてすみません」

「よろしい」



「おう、小倉。こいつはうちが貰うことになったぞ」




「え・・・?」


 




 未来は泣きはらしたような目をしていて、

 微妙に服装も乱れている。

 そして夜に部室のプレハブに二人きり…



 そのまま数秒、時が止まった後。



「森野君のバカーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 そう言って小倉は走り去っていった。


「おいっ!・・・あん?あいつはどうしたんだ?」


 森野は何もわからず、と言った顔でその場に立ち尽くしている


「はぁ、全く森野先輩は女心が分からない男ですねぇ」


 盛大な誤解を残し、今日の夜が更けていく。




 □ □ □ □ □




 後日



「一応お前も関わったから報告しておく。件の飛び降りをしようとした女生徒は自主退学したそうだ」

「そうですか…。まぁ霊に憑かれていたくらいだから、きっと弱っていたんでしょう」

「なんでも恋人にこっぴどく振られたそうだ。そのことでひどく思い詰めていたんだろう」


 う~ん、と未来は思う。そんなことで死にたくなるほど思いつめるなんて、正直よくわからない。

まぁ自分もであるが、まだまだ高校生なんて子供であるから世界が狭いのかもしれない。

色んな所に意識が向いていれば、恋人に振られようが諦められる、という言い方だと悪いが、良い風に言えばもっと楽しいことを探そうと前向きになれるかもしれない。

 色んな部を経験した今だからこそ思えることだろうし、そもそも恋愛というものを全く理解していないだけかもしれないが・・・。


「ていうかお前霊が見えるのか?」

「え、はいそうですけど?」

「だからお前あの時、俺より早く屋上に行っていたわけだな」

「ん?てことはもしかしてあの時、屋上から落ちた私を拾ってくれたのは

叫んだのを聞いたからじゃなくて待機してたってことですか?」

「そうだぞ。他のやつに見つかるわけにもいかないし、向かっている最中に落ちでもしたらまずいと思ったからな。だからお前のセリフは屋上に着いた時から聞いてたぞ」

「ぎゃああああああああああ」


 未来は茹でだこのように顔が真っ赤になる。

 興奮して、勢いで言ってしまったことまで聞かれているなんて…

 うわぁほんとやだ、恥ずかしいわ死ねる…


「まぁだからこそ、お前の熱さ加減かバカさ加減かに感化されて入部を認めようと思ったのもあるがな」

「うう…」






   ― 導入 了 ―




導入はこれで終わりです。

次の話から本編になったりならなかったりします。

ひとまず読んでくださった方々、ありがとうございました。

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