50 ピッタリのサイズのところにピッタリのものをはめるのは大変だ。
木工部仮入部三日目
昨日接着した本棚の前に三人並ぶ。
「畑中、そういえば塗装はするのか?」
「いえ、悩んだのですがすぐに欲しいのと、塗装してないのも好きだなと思っていて、できれば今日持って帰りたいなと…」
「そうか、そしたら軽く全体の仕上げをかけたら車を出してやろう」
「ありがとうございます!」
「お前もせっかくだし行くか?」
「?私もいいんですか?」
人の家に何人も入り込んで良いものかと思い畑中さんにそう聞いてみる。
「家は昨日片づけておいたので大丈夫です。お願いします」
「それならせっかくなのでおじゃまさせてください」
話はまとまったので、作業の続きに入る。
昨日の接着の時のままであったクランプを外し、一度全体を点検する。
そしたら鉋で角を45度に面をとる。本棚の内側の鉋が当たってしまうようなところは接着の前にあらかじめ面をとっていたようだ。
自分は最初見ていて、途中からやらせてもらった。
畑中先輩には申し訳ないが、うまくいったかはわからない。
でもサンドペーパーよりやりやすいように思う。
「均一な幅に面をとれる鉋もあるんだが、せっかくこういう部活なんだ。
こうやって手で面を取った方が技術も身に着く」
部活を仕事ではなく、経験を身に着ける場として考えてくれているのかな?
その後全体をサンドペーパーで磨く。
「素地だから、木の木目に沿ってペーパーをかけるんだ。木目を横切ってかけると、サンドペーパーの傷跡が目立つぞ」
「はい!」
要所要所で用務員さんが、注意点を指示してくれる。
かと言ってあんまり細かいことは言わないでいてくれているので、のびのびと作業できる。
二人でサンドペーパーをかけるが、大きいものなのでなかなか大変である。
サンドペーパーをかけやすいように体の位置を変えて動きながらやっていくが、
途中で未来が横の机に体をぶつけて、先ほど使っていた鉋を本棚に落としてしまった!
「わああ!」
未来の顔から血の気が引いていく。
落ちたところを見てみると、本棚が少しへこんでしまった…。
なんといって詫びればいいのだろうか。もう一回作る?いやいやこれは自分で作ったから価値が有るものだ。私が作っても意味がない。
しかしこのままというわけにもいかないので、おずおずとへこんでしまったことを話す。
それを聞いた用務員さんがへこんだところを確認し、そしてタオルを濡らしてその部分にあてて湿らす。
「木に水なんて付けちゃだめだと思ってましたが…」
一旦離して様子を見てみるが、まだへこんでいるようだ。
そこで、濡らしたタオルに上から熱くなったアイロンを押し当てる。
ジューッ!
「えええっ!?」
理解が追い付かない。
そもそもアイロンなんて裁縫部なら分かるが、木工で使うの!?
恐る恐るその部位を覗いてみると、
なんとへこみが消えた!
「そしたらそこをまたサンドペーパーで仕上げるといいだろう。
角だとまず戻らないからな、内側で良かったな」
そうなのか…本当に直るところで良かった。しかしこんな修復方法があるなんて、
当たり前だが、まだまだ知らないことがいっぱいだ。
□ □ □ □ □
「かんせーい!」
未来と畑中は喜ぶ、が。
「まだ喜ぶのは早いぞ。納品するまでが仕事だ。部室棟の入口に車を回すから運んでおいてくれ」
「はい!」
トラックみたいな車かなと思っていたが、バンというのだろうか?後ろに荷物がたくさん積めるような車で運ぶようだ。
ケガをしないように(本棚が)毛布もかけて、先輩と用務員さんは前で運転とナビをして、
私は揺れで本棚が壁にぶつからないように支えたり見はったりする役目だ。
家に着き、先輩が玄関から自分の部屋までドアを開け、動線を確保する。
「こちらです」
「運ぶとき気を付けるんだぞ。せっかくの完成品だからぶつけたら悲しいぞ」
と用務員さんは当たり前だけれど大事なことを言い聞かせる。
でも確かにある程度の大きさのものを運ぶときは、しっかりとモノがどう通るのかを意識していないと、うっかりぶつけてしまいそうだ。
家の階段や、狭い所を曲がるときなんか一緒に持っている相手と呼吸を合わせることも重要だ。
「ここに入るんですか?」
畑中さんの部屋のひと隅にちょうど良さそうな大きさの空間があった。
「うん、ピッタリキレイに納まるように形と寸法を考えたんだ」
そこに持ってきた本棚を納めると、ピッタリ過ぎたのかちょっと奥まで押し込めない。
用務員さんがそれを観察して、本棚を一回取り出し、上部を少し左側に押す。
「これでどうだ」
今度はきっちり入った。
「きっちりと直角に作っても現場が直角とは限らないからな。調整することも視野に入れて、少し逃げの寸法を見ておいた方がいいぞ」
「なるほど」
「しかし、きれいにはいりましたね~。これはすごい!」
「そうかな~」
未来がことのほか喜んで褒めるもんだから、先輩もなんだか照れ臭そうだ。
「いやほんとに良いと思うぞ。オイルくらいは塗っても良かったとは思うが、
この部屋によく合っているな!」
「へへ」
「こうやって自分の欲しいものを自分で作れると言うのは良いな」
用務員さんも自分の事のようにうれしそうだ。
その後、畑中さんの家でお茶をもらい、
先輩はせっかくだから本の整理をしたいのでそのまま帰宅というか学校にはもどらないというか。
なので自分と用務員さん二人で車で学校へ戻った。
「さっきも少し言ったが本当はなにかしら塗装をした方が良かったとは思うんだが、
そうするとまたここから時間がかかるからな、
形が出来てきたらすぐに欲しい気持ちもわかるので何も言わないが」
「塗装は難しいのですか?」
「オイルフィニッシュくらいならそうでもないが。オイルフィニッシュと言うのは油をしみこませる仕上げ方だ。箸作りの時にやったやつだな。簡単に説明するともともとの木目の質感を活かす方法と考えたら良いか。
それとは違って、塗膜を作る塗装となると、木工とも別にそれだけを専門でやっている会社もあるくらいだから、また大変にはなるな。乾く時間とかも考慮しなければならないしな」
木工一つとっても、仕事となるとその中でも細分化されているんだな。
全部をやろうとすると知識と経験、どれだけの時間を費やさなくてはならないだろうか。そんなことを未来は考えた。
「さて木工はどうだったか?短い間だったが、ちょうどいろいろ体験できたと思う。
欲を言えばもう少し自分のものを作らせてやりたかったが、
一からとなるとちょっと時間が短すぎたな」
「いえいえ、すっごく良い経験ができたと思います。
箸を作ったのも嬉しかったのと、めったにない体験ができましたし、
自分のものではないですが、本棚も組みあがって、納めるところまで見ることができたのは中々感動でした!」
「そうか、それならばよかった。
まぁもし、今後何か自分で欲しいものがあれば、相談してくれれば手伝ったり、アドバイスもするのでいつでもここに来るといい。畑中とか他の奴らにも言っているが、部に入ることは強制ではないし、やりたいときにやるのが一番楽しいからな。そういう様な存在であるのが一番だろうよ」
何か欲しいものか…思い浮かべるが、入学してからというものの、
学校での滞在時間が長すぎて、自分の部屋とかに欲しいものというよりは、喫茶店部とか他の部とかでこういう棚があればなぁとかそういう方へ頭が行ってしまっている。
全く私ったら欲のない存在だぜ。




