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家庭菜園部で行こう!!  作者: ゼリー
導入
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5 仮入部してみよう!



 昼休みが過ぎ、その後の授業中も未来は一つのことで頭がいっぱいだった。


 あの人相の悪い先輩(多分?)がさー、手に軍手をはめてさー、ジャガイモなんかにさー「よーし、立派に育つんだぞ」とか語りかけちゃったりして植えていくところを想像しただけで、もうなんというか笑いが止まらない。


「おい、おい司馬?気持ち悪いぞ?」


 はっ、いけないいけない、あまりの妄想の楽しさにトリップしてしまっていた。横の席の鳥居学に、せんきゅーとばかりに手をあげる。教壇ではいかにもトロそうな英語教師が一生懸命熱弁をふるっていた。

 ん?気持ち悪いとか言われた気がするぞ?まぁいいか。



 よし、決めた!とりあえず家庭菜園部に仮入部してみよう。

 実際に活動しているところを見たわけじゃないが、妙に気になるし、ここでならどんなことでも面白いに違いない!むしろつまらなくても自分が面白くしてみせる。



 未来はやる気に満ち溢れ、放課後、また家庭菜園部の入り口に立った。


「たのもう!」


 自分の緊張感をぬぐい去るのと、熱意を身に纏うのごとく声をあげ、プレハブの引き戸を開く…はずが。


「…あ、あれ、扉が開かなっ…」


 扉が固いのか、必死で引こうとするが


「…なにやってんだ?」

「はっ…い、いや、不審者じゃないですよ!?」


 思わず妙な弁解をしてしまった。と、そこに後ろから現れたのは、昼休みに姿を見た男子生徒だった。

こちらをジロリと見た後に、部室の鍵をあけた。


「あ、な、なんだ~、部室は鍵が閉まってたんですね~、いやぁ気がつかなくて、扉固いのかなぁなんて思っちゃって、思わず力任せに一生懸命引っ張っちゃってましたよ~あははっ」


 緊張してるせいか、ぺらぺらと口から言葉がもれだすが、特に反応されずに部室の中に入られた。


「失礼しま~す」


 恐る恐る小さな声で後に続く。中に入ると部室はガランとしていた。

 真ん中に授業で使うような机とイスが1セット、左奥に大きめのロッカー、右奥に資料用の棚…かな?疑問符が付いたのは棚にはほとんど何も並べられていなかったからである。ファイルが一個、二個…。あと家庭菜園の資料用の本が一冊、それと漫画がいくつか。

あと周りをよく見てみると、部室の手前の方にダンボールがあり、シャベルやじょうろが無造作に入れてあった。

ちゃんと活動しているのかこの部は…?それが正直な感想だった。

そこまで思って、未来は小倉の「~君がクラブを立ち上げたけど、あそこちゃんと活動してるのかなぁ」と言っていたのを思い出した。もしかして部員は一人?


「おい、見たところお前一年か?何の用だ?」

「は、はひっ」


 思わず噛んでしまった。言葉尻からやはり上級生かなと思った。

しかし…この先輩も怖いが、自分の好奇心はマイナス要因を振りきるほど大きかった。そして力いっぱい言葉に想いをのせた。


「一年A組 司馬未来!家庭菜園部、仮入部希望です!」


 勢いに押されたのか目の前の先輩はあっけにとられた顔をしていた。

 私の言霊の威力はどうだ!ふふふ、この勢いを利用して家庭菜園部の実権をにぎり、この目つきが悪い先輩を配下におさめ、そしてゆくゆくはこの学園の頂点に

 妄想しているうちにいつの間にか目の前まで先輩が迫っていた。そして首根っこを掴むと。


「わりぃな、部員は募集してねぇんだ」


 と言うとポイっと外に放り出された。


「ちょっとぉおおおお!」


 抗議しようと引き戸を開けようとするが、裏で抑えているのか開かない。

 …今日は仕方なく諦める、と見せかけ反対の扉を開ける!

 開いた…

 この人はアホなのかもしれない…。


「むっ」

「大体、部員を募集してない部って何なんですかぁ!」

「うっせー、俺の勝手だろ!」


 先輩がこっちの引き戸も閉じようとする、

させるか!

 無理やり頭をねじ込む。当然…


「いたい!いたいです!」


 頭が挟まれた。


「おいおい」


 閉じかけた引き戸への力が弱まる。

 くっくっく、作戦通り、この私の石頭をなめ…


「あがっ!?」


 引き戸を一旦開いて、勢いをつけて閉じてきた。

なんだこの男は、人の情けと言うものがないのか?

あまつさえ早く出て行けと言わんばかりに、何回もガンガンと引き戸を頭に打ち付けてくる。


「や、やめっ、だからっいたい、いたいってば!」


 そしてあろうことか私の顔を足蹴にして、入口からつき放した。


「ぐはっ」


 地面に鼻血を垂らして仰向けに倒れこむ私…。ほんとに何なんだろう、ちょっとでもいい人なのか?と考えてしまった過去の自分を恨みたい。

 そして無情にもガシャッという扉の向こうで鍵が閉まる音。

 しかし未来は地面に這いつくばりながらも、静かに燃えていた。


「私は、困難があればある程に目的を成し遂げたくなる女なのですよ…」


 それはもう興味という問題じゃなく、司馬未来と言う人間の意地であった。

 拒まれたからと言ってあきらめたら負け、

 向こうが折れれば勝ち。

 自分の中でそう設定されたのだった。いや、むしろ設定した。

 向こうの心情や都合などお構いなしに。


「とりあえず、もうここにいても解決しなそうですし、情報収集でもしてみますかね」


 未来は体についた土を払いつつ立ち上がり、喫茶店部に向かった。



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