48 箸作りするよ!
「それじゃあいよいよ箸作りをやってみるか。
なんてことはない。この細い棒を治具のここに置いて、小鉋で削っていくだけだ」
「斜めに勝手に削ってくれるということですね?」
「そうだ」
「これはどこまで削ればいいのでしょうか?」
「それもこの治具の影響で刃が出ている分だけ削れるようになっているから、
削れなくなったら終わりというようになっている」
「それはすごい!へぇ~、面白いですね!」
「ま、こういう治具をどう作るかが腕の見せ所だな」
「なるほど」
未来が削り始める。
が、先ほどと違いスーッと削れず、カンナくずも全然出てこない。
「斜めに刃が入る形だから、少しずつ削れていくのであまり気にせず削っていくといいぞ」
「はい!」
言われた通り気にせず削っていく。何回か削るうちに少しずつカンナくずが出てくるが、先ほどとはなんか感覚が違う。
そういえば、ふと思ったのだが最初に練習で削っていたものと材料の色が違う。
もしかしたら固さも違うのだろうか?それも聞いてみる。
「そうだ、一応説明しておくと、最初に練習で削ったのはアガチスという柔らかくて削りやすい材料だ。今削っているものはマダガスカルローズウッドという材料で、
分かるかどうかは分からないが、有名なところでいうとバラの香りがするローズウッドや紫檀という木の仲間だな」
それを聞いて未来は匂いを嗅いでみるが。
「これはそのバラの香りがしないんですかね?」
「仲間だが違う種類だからな。それに一応ローズウッドもあるにはあるが、箸からバラの香りがしてもちょっと嫌じゃないか?」
「確かに…!」
「この箸の材料は知り合いのクラシックギター作家からもらったものだ。
ちょうど良いサイズの端材が余っていたからな」
「へ~」
クラシックギターと言われてもピンとこないが、なんだか良さそうな材料だ。
「木の中でもかなり堅い部類だから最初にしては大変だが、頑張ってみろ」
やっぱり固かったのか!予想が当たっていた!
その後も削り続けるが、いまいち凸凹してしまい、上手く削れてる感じがしない。
それを見かねてか、用務員さんが貸してみろと言い、削るのを見てると、
スーッと、削れている。何故!?固さのせいじゃないのか?
「まぁ、この辺の力加減はそのうち掴めるから大丈夫だ。
いままでやった奴らも最初はそんなものだ」
と言ってはくれたが、ちょっとまだ出来るような気がしない。
一応考えながら少しづつやってはいるのだが…。
そのまましばらく削って行くと、途中で削れなくなった。
「お、一面終わったな」
「終わりですか?」
「残り三面あるぞ」
「ふへぇ」
意外と体を使うのでちょっと疲れた。残り三面なんて体力が持つのだろうか。
と思って二面目を削り始めるが、
途中で気が付いた。最初よりもなんだかスッスと削れていく気がする。
「お、力加減が馴染んできたな」
やはりそうなのか。これならまだまだ行けそうだ。
「今までこの学校でもそうであるし、ワークショップなどでも箸作りをやってきたが、
大体途中で自然と力加減が分かってくるんだ。もちろん個人差でどのくらいかというのは違うが、一膳作る間にはほとんどの人ができるようになるな」
「おおっ!」
その後は割とスムーズに進み、最初の一面を削った半分くらいの時間でできるようになったかと思う。
しかし、スムーズとはいえ力は使ったので、四面削り終わるころには未来は正直疲れてしまっていた。
「できたー」
「まだ終わりじゃないぞ?」
「ふへ!?」
箸の形にはなったと思うのだが、まだ工程があるのか。
このままでも使えそうなのだが。
「今、棒を四面削ったばかりで、角が立っているだろう?
このまま使うと指もそうだが、口に入るときにも角が当たるので面取りといって、
角を取るんだ」
「面取りというと、えーとたしか、大根とか煮るときとかに聞いたことがあるような?」
「やることはそれと一緒だな。
慣れていれば鉋で取ってしまうのだが、道具を使い慣れないと指まで削ってしまったりするので、今回はサンドペーパーで行おう」
と用務員さんが言うと、サンドペーパーを程よいサイズに切り、木材の小さいのを裏にあて、箸の角を削り始めた。もちろん私が削ったものとは別の箸だ。
というか私が知らない間に箸を作っていたのか!?
「こんな感じか」
と言うと見本代わりに置いておいてくれた。
「とりあえずこれは簡単に角をとったが、自分が使いやすいとか、触って違和感がないように面をとったらよいと思う。まぁそこは考えてやってみたらいい」
なるほど、自分の好きに作ったらいいのか。
正解とか不正解の判断を自分で決めればいいというのは、今までの部活と違い、責任感が無くて楽だ。せっかくここまで作ったから良いのを作りたいというのが心情であるが。
サンドペーパーで角を削っていく。
が、微妙に面の太さが一定じゃない気がする。
用務員さんのも手に取って見てみるが、綺麗に同じ幅で面取りが出来ている。
「自分でやるとどうしても気になるところとか出てくる。
でも買い手がそこまで気にするかというと、案外そうでもない場合もある。
それは作り手と買い手の見え方の違いだな。まぁ初めてなんだ。あまり神経質にならない方がいい。それでドツボにはまる事もある」
大人がドツボとか言う言葉を使っているのを聞くと、なんか親近感がわくなぁ。
しかしながら、手を動かしていくうちにまさに用務員さんが言っていたように、
サンドペーパーで取った面が気になり、修正しようと四苦八苦しているうちにどんどん面が広がっていく。
・・・今更だがこれ以上手を入れない方がいいか?そう思い、ある程度のところで諦めることにした。
まぁ、普段箸を持つように動かしても角が当たるとかは無いのでこれで良いとしよう。
「これで完成ですか?」
「それでもいいが、…そうだな、せっかくだからオイルフィニッシュにでもするか」
「オイルフィニッシュ?」
「簡単に言うと油を染ませることだ」
「何の油でもいいのですか?オリーブオイルとか?」
「普段聞きなれないかもしれないが、油には種類があって、
乾性油と半乾性油、不乾性油と分けられている。簡単に言うと乾性油は固まるが、
不乾性油は固まらない。オリーブオイルなんかは固まらないので、染みこませても、しばらく染み出てきたりするので使いづらかったりするな。
今回使うのはアマニ油だ。口に入れる木工品だから食用のものを使うぞ」
と言ってその油を冷蔵庫から取り出してきた。
15年今まで生きてきたけれど、まだまだ知らない知識がたくさんあるなぁと未来は思った。
しばらくそのアマニ油を染みこませ、ふき取る。
「油のべたつきが無くなったら家でも使うと良い」
未来は完成した箸を見て、なんだか嬉しくなった。
面取りこそ上手くいかなかったが、逆にそれが自分だけのものと思えて、愛着が湧いてくる。
「ええと、こういうことをいつも部活動の一環としてやっているのですか?」
「まぁそうだな」
普通ならお金をかけて教えてもらうようなことなのに、
部活というだけで無料で教えてもらえるなんてこれはすごいぞ!
でも、とも思う。はたして用務員さんにとってこれは良いことなのだろうか?
これもちょっと聞いてみる。
「前に、以前木工をやっていたという話はしたか?」
「修理する椅子を持ってきたときに聞いたような気がします」
「独立して工房をやっていたんだがな、今時儲からなくてな、
畳んで別の仕事に就職でもしようかと思っていた時に、ここの学園長に用務員として誘われたんだ」
「そんな経緯があったのですね」
「それで木工やっていたなら、こういう形態で部活動の長もやってみろと、言う流れで今の状態に納まったんだが。まぁこれはこれで木工に全ての時間が費やせるわけではないが、やりたいこともやれているし、良い形に収まったのではないかとは思ってはいる」
「なるほど。・・やりたいことって言うのはなんだったんですか?」
「ある意味木工を身近なものにするということだ。
例えば家で何か棚が壊れた時とか、何も知らなければ、壊れたから捨てるかとかになったりもすると思うが、少しでも知識があれば、ちょっと自分で直してみるか。となるかもしれないだろう?
少し前の三世代くらい一緒に住んでいた家庭ならそういう話は割とあったように思う」
「確かに思い当たることはあるかもしれませんねぇ。
うちの家のひきだしのつまみなんかも、とれたまま何年もそのままで無理矢理使ってます」
「まぁ無理矢理接着剤で直そうとしたモノを後から持ち込まれて大変だった例もあるが…。
自分で工房やっていた時は、それをお金をもらって直していたから収入源でもあったんだが、そういった技術を教えるとなると結果仕事は少なくなるから、難しいなとは思っていた。
でも、こうして学校で給料を貰い生徒に教えるとなれば、次の世代に伝えられることにもなるから、結果としては良いように納まったんじゃないかと思っている」
なんか、今まで親以外の大人と真剣に話したことも無かったので、考えても見なかったが、大人は大人で先のことを考えて仕事をしているんだな。
様々な大人が自信を持って仕事をしていたと思っていたが、迷いや信念などもあって、
完璧ではないが目標などに向かっている。
そう考えると、まだ高校生の自分達とそう変わらないのではないか?お金を稼いでいるというだけでも偉いなぁとは思っているが。
今まで教師なんかと話していてもそんなことを考えたこともなかったので、
もしかしたら彼が自分と対等に話してくれているからかもしれない。
随分と年は離れているけれども。
木工部の一日目はそうして箸作りと、木工や仕事の話をして終わった。
七時前くらいに、随分と話し込んでしまったと言われて、家に帰らされた。
なんてホワイトな部活なんだ!
ミステリー部も普通の部活ではあったが、何しろ人外のものが相手の部活であるから、夜がどうしても遅くなる。
なので逆にこんなに早く帰っていいのか心配になったが、箸作りで慣れない筋肉を使って、少し疲れたので素直に家に帰った。ちょっと喫茶店部で甘いものでも食べようかなと誘惑にかられたのは誰にも内緒である。




